09.自称最強vs真の最強

「いいねぇ。素晴らしいねぇ。青春の香りがするよぉ。これを壊したら、さぞ素晴らしい負の感情が手に入るだろうねぇ♡」


 俺は検証のため全力で淫力を解放したが、ピエロは余裕のある態度で言った。どうやら淫力を感じ取れないようだ。


「随分と余裕だな。少しは危機感を覚えた方が良いぞ」

「アハハハハ! 最強の存在が何を警戒すれば良いって!?」


 あらゆる所作に品が無い。

 想像した通り、性根が腐っている。


(……非常に不愉快だ)


 あのピエロは胡桃を弄び続けた。

 彼女から負の感情を引き出すために、彼女の大切なモノを壊し続けた。


 許すものか。

 だが、今回の主役は俺ではない。


「準備は良いか?」


 主役はただ静かに頷いた。

 俺は一呼吸した後、スキルを発動させる。


「──ドスケベ・フィールド」


 現実世界におけるデビュー戦。

 出し惜しみはしない。派手にやろう。


「アクティベート」


 俺の足元より薄紫色の魔法陣が広がる。

 規模は半径1キロ程度。この陣の中では、あらゆるダメージが快楽に変換される。


 出入りするには俺の許可が要る。

 つまり、あのピエロは逃げられない。


 ここから先は狩るか枯れるかの勝負。

 一方が精魂尽き果てるまで終わらない。


 さあ、セックスバトルを始めようか。

 もっとも、此度は激しい前戯のみだろうがな。


「ぬほほ。なんだいこの光。すごいすごい。魔法少女は壊滅させたはずだけど、まだ隠し玉があったんだ。ふふ、お揃いじゃないか♧」


 ピエロは胸元から何かを取り出した。


「こっちにも、隠し玉があるんだよ♤」


 あれはなんだ?

 箱のように見えるが、ドス黒い光を放っている。そして膨大な魔力を感じる。


「マテリアルプラズマ……っ!?」


 胡桃が焦ったような声を出した。

 ほう、あれが「世界を滅ぼす可能性」か。


「ぬひょひょ。分かるかな? まもなく覚醒するよ。君のおかげだ♡」

「……っ!」


 胡桃の表情が歪む。

 俺は溜息を吐いて、奴に淫力をぶつけた。


「んほぉ!?」


 ピエロは喘いだ。


「なんだ今のは!?」

「囀るな。ただの挨拶だ」

「ククク……これは、舐めてかかったら痛い目に合いそうだね♧」

「諦めろ。舐めてもかけても結果は同じだ」


 ピエロは顔に貼り付いたような笑みを浮かべたまま硬直する。


「あまり調子に乗るなよ」


 そして次の瞬間、腕が八本に増えた。


(……あれは人間なのか?)


 目を細め、その動きを注視する。

 瞬間、中級淫魔に相当する淫力を感じた。


「胡桃!」


 彼女の手首を掴み、横に飛ぶ。

 その直後、足元の地面が爆ぜた。


「……っ!?」


 胡桃が目を見開いた。

 それは爆発に驚いたからではない。


「……ほう、これがクローンか」


 地面から現れたのは、虚な目をした胡桃。

 百や二百では足りない。同じ顔、同じ格好をした少女達が次々と飛び出てくる。


「アハハハハ! どうだい!? 素晴らしいだろう!」


 ピエロは大声で言った。


「素晴らしい! 良い匂いがしそうだ!」


 俺は全力で返事をした。


「何を言ってるの……?」


 胡桃の蔑むような目線が心地良い。


「案ずるな。ただの話術だ」


 顔を向けず、小声で伝えた。


「……余裕だね」

「無論だ。俺を誰だと思っている」


 会話の間、ピエロは肩を抱き悶えていた。実に気持ち悪い動きだ。


「君ィ! 素晴らしいと言ったかい!?」

「それがどうした?」

「一体分けてあげようか!?」

「本当か!?」


 胡桃にステッキで頭を叩かれた。

 ふふ、これは嫉妬だろうな。オリジナルを見てくれという意味に違いない。


「安心しろ。胡桃が一番だ」

「バカなの?」


 好感度が加速的に下がっている!?

 クッ、あのピエロ、巧妙な精神攻撃を!


「あまり俺を侮るなよ!」

「一体じゃ足りなかったのかい!?」

「その通りだ!」


 愉快な会話をしているが、もちろん遊んでいるわけではない。

 ──俺の淫力は異世界に居た頃と比べて激減している。割合で言えば一割未満だ。


 その状況で8日もスキルを継続させた。

 胡桃と戯れることで多少はチャージできたが、まだまだ万全とは言えない。


 これを発動するには時間がかかる。

 故に、どうにか時間を稼ぐ必要がある。


「聞こうじゃないか。何体欲しい?」

「ほう? 俺の希望を聞いてくれるのか?」

「そうとも。好きな数を言ってごらん」


 ピエロとの会話に応じながら、俺は無詠唱でスキルを発動させた。


 ──プロパ・リンク。

 プロパ・コネクトを承認した相手に対し、脳に直接言葉を届けるスキルだ。


『胡桃、聞こえるか』


 彼女は俺に目を向けた。

 それを肯定と受け取り、ピエロに言う。


「好きな数だと? 随分と気前が良いな。クローンと引き換えに、胡桃を渡せとでも言うつもりか?」

「まさか! そんな退屈な提案しないさ!」


 ピエロは笑った。


『クローンは全部で17423体だ』


 俺はピエロを見たまま胡桃に告げる。


『すべて、一撃で片付ける』


 胡桃の雰囲気が変わる。

 ピエロは全く気が付いていない。

 あるいは、胡桃を脅威と見做していない。


「君に提示する条件はひとつ! 今ここで大乱行パーティをすることだ!」


 ……ほう?


「夢のWフェラ! 四つん這いに並べて十連処女貫通ガチャ! 普通に生きていたら絶対に味わえない極上の快楽を約束するよ!」


 ……。


「一応、目的を聞こうか?」

「寝取りだよ! その哀れな魔法少女の脳を破壊するのさ! マテリアルプラズマを覚醒させる極上のデザートになる!」


 ……不愉快だ。


「断った場合、どうなる?」

「洗脳するだけさ。この提案は、慈悲だよ♡」


 ……急ごう。これ以上は、俺の方が我慢できない。


『構えろ。あのクソピエロは胡桃に譲る』


 最後の言葉を伝えた後、ピエロに言う。


「すべてだ」

「なんだって?」


 17423体。

 すべて捕捉した。

 

「ヒプノ・ビルド──」


 これだけの規模、いつ以来だろうか。

 次回までにドスケベフィールドの領域に高さの制約を付けるとしよう。


すべてを支配せよディフュージョン


 瞬間、俺は極大の快楽に襲われた。

 淫力が低下していることもあり、体感では大淫魔の攻撃を受けた時よりも辛い。


(……こんな初めては嫌過ぎる)


 俺は下着の内側に生まれた異物感を示して言った。


 しかし文句は言えない。恐らくドスケベフィールドが無ければ穴という穴から出血していた。そもそも、これは胡桃のために行ったことだ。故に──現実世界に戻った後、初めての射精が今この瞬間だったことなど、些細な問題である。


「──ッ!? これは!?」


 どうやらピエロも気が付いたようだ。

 気配で察していたが、あいつは雑魚じゃない。


「どうした? 大事なモノでもなくしたか?」


 俺は瘦せ我慢をした。

 耐えろ。踏ん張れ。男の子だろ。


「貴様ァ!? クローン達に何をした!?」


 ピエロから余裕が消えている。

 実に滑稽だ。恐らくは大量のクローンを保有していることが余裕の源だったのだろう。それを奪われたことで、焦りまくっている。


 故に、俺は哀れなピエロを嘲笑う。


「宣言した通り、すべて頂いただけだが?」

「バカなッ! 二万体近く居るのだぞ! 有り得るわけがない!」

「ふむ、随分と勉強が足りないようだな」


 俺は息を吸い込む。


『行け、ここから先は主役の出番だ』


 まずは主役に声援を送る。


「特別に教えてやろう」


 それから腹に力を込め、悪役に向かって言い放った。


「俺こそが、真の最強というものだ!」

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