04.魔法少女に捧ぐ触手の小夜曲
俺はスキルで閉鎖空間を生み出した。
この空間には床も空も壁も無い。目に映るのは無限に続く闇だけである。
目視できるのは俺が認めた存在だけ。
例えば今この瞬間には、俺と山田の姿だけが見えている。
「どうした?」
俺は怯えた様子の山田に声をかける。
「顔色が悪いようだが、仕切り直すか?」
「……問題ない」
彼女は強張った表情で返事をした。
悲しいものだ。俺に対する信頼があれば、恐怖など生まれるわけがない。むしろ期待感に目を輝かせていたことだろう。
俺は脱力して、スキルを発動させた。
「プロパ・シェア」
【山田胡桃】
成長:16/99
魔力:740(C)
精神干渉力:14(J)
精神抵抗力:38(J)(+6)
淫力:3(J)
理性:2/99(崩壊寸前)
「お前のステータスを表示した。見るべきは、一番下に追加した理性──ヒール!」
俺は慌てて回復スキルを発動させた。
驚いた。まだ何もしていないのに理性が崩壊寸前とは……マジで危なかった。何もかも台無しになるところだった。
「今の光、あなたの魔法?」
山田は機嫌が良さそうな態度で言った。
その顔色と声色は直前までよりも明るい。
……ああ、そういうことか。
彼女は仲間を皆殺しにされている。
むしろ、よく理性を保っていたものだ。
「厳密には違うが、その認識で構わない」
俺は静かに返事をした。
彼女は頬を緩め、呟くようにして言う。
「……ただのクソ陰キャ野郎じゃないんだ」
素晴らしい!
俺と精神をリンクしている召喚獣どもよ、今の言葉が聞こえたか!?
ただのクソ陰キャ野郎だった評価が!
ただのクソ陰キャ野郎ではないになった!
好感度が上がっている!
現実世界において初めての好感度上昇だ!
ふはははは、前進だ!
俺の同級生ハーレムが実現する日は近い!
「これから三日かけて精神攻撃を行う」
「……変態なの?」
「心外だな。事前に説明したはずだが」
「……顔が変」
ふむ、どうやら失敗したようだ。
喜びのあまり、満面の笑みで「精神攻撃を行う」と宣言してしまった。
完全にサイコパス。
一歩進んで百歩下がった感じだな。
だが一向に構わん!
これは助走だ! 今後に期待します!
「あらためて、精神攻撃を始める」
今度は表情を引き締めて言った。
山田は目を細め、訝しげな態度で言う。
「私は何をするの?」
「ひたすら耐えろ。三日後、僅かでも理性が残っていれば成功だ」
「……失敗したら、どうなるの?」
失敗……理性がゼロになった場合か。
俺が失敗するなど有り得ないが、この質問を利用することにしよう。
ちょっとした余興だ。
緊張感を与えた方が彼女のためになる。
「プロパ・フリーを発動する」
「なにそれ」
「いわゆるフリーモードの解放。親切なエロ同人ゲームなどで目にするあれだ」
「……そんなゲーム、やったことはない」
バカな、有り得ない。
健全な女子高生がエロ同人ゲームを知らないなど……いや、普通のことか。
「簡単に言えば、お前の全てを支配できる。精神状態。体型。俺に対する好意など。山田胡桃に関する全ての情報を、管理・操作できるようになるわけだ」
山田の表情がさらに強張った。
俺は両手を広げ、おどけて見せる。
「おっと睨むなよ。これは逃げ道だ。我慢の限界を迎えた時は、俺に身を捧げると良い。極上の快楽を約束しよう」
俺はかつての強敵を思い出し、最上級淫魔のようなセリフを口にした。
「……最低」
「ふっ、せいぜい理性を保つことだ」
彼女に手をかざす。
「プロテクト」
「……この光は、なに?」
「お前を守る結界だ。目、鼻、耳、口、臍、膣、菊。興奮したキャサリンが万が一にでも侵入しないようにするための保険をかけた」
彼女は怯えた様子で肩を抱いた。
俺は妖しく微笑み、パチッと指を鳴らす。
「サモン・キャサリン」
そして今回の主役となる相棒を召喚した。
* 胡桃視点 *
……。
…………。
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「……時間」
ふと、私は呟いた。
「……どれだけ、経った?」
約束は三日間。
私の体感では、とっくに過ぎている。
「……理性は、あと、どれくらい?」
顔を上げ、縋るような思いで前を見る。
【山田胡桃】
成長:19/99(+3)
魔力:774(C)(+34)
精神干渉力:35(J)(+21)
精神抵抗力:102(I)(+64)
淫力:19(J)(+16)
理性:45/99(混乱)
「……まだ、大丈夫」
彼の言葉が本当なら、洗脳に打ち勝つために必要なのは精神抵抗力。
「……ちゃんと、増えてる」
数字は増えてる。
だけど、現実感が無い。
いくつ増やせば良いの?
残り時間は、どれくらいなの?
分からない。何も分からない。
未知を認識する度、不安が増す。
現在、私の手足は赤紫色の触手に拘束されている。
最初は体中を触られると思った。
でも触られたのは一部分だけだった。
「ひゃんっ、またっ」
触手が軽く左頬を撫でた。
それだけ。初めての時みたいに胸を揉まれたりしたわけじゃない。
だけど、歯がガタガタと震える程に怖い。
次はいつなの。
次はどこなの。
次もまた撫でるだけ?
次こそ、もっと酷いことになるかも……。
怖い。怖い。怖い。
おかしいよ。
もっと辛いこと、いっぱいあったのに。
これが精神攻撃なの?
それとも……私の心が弱過ぎるの?
(……なんで、こうなったんだっけ)
私は忘れ物をして教室に戻った。
そして気が付いたら秘密を話していた。
我に返った直後は恐怖した。
ズヴィーバの刺客が来たのかと思った。
犯人は斜め後ろの席に座る同級生。
いつもニヤニヤしてるクソ陰キャ野郎。
正直、気持ち悪かった。
視線とか、喋り方とか、全てが嫌だった。
今日の彼は違う。
特に、私を見る目が綺麗だった。
(……懐かしい)
子供みたいに純粋で真っ直ぐな瞳。
だけど、その奥には薄らと闇が見える。
私は仲間のことを思い出した。
二度と会えない友達の姿が目に浮かんだ。
(……負けない)
私は歯を食いしばった。
──無理をするな。
「っ!? 誰!?」
思わず大きな声が出た。
返事は無い。周囲を見渡しても、真っ黒な闇が見えるだけ。
「……幻聴?」
自然と思考が声に出る。
──怖いなら、逃げれば良いんだ。
「また!?」
女性の声だった。
最初はクソ陰キャ野郎かと思ったけど違う。
そもそも、彼はどこ?
いつの間に姿を消したの?
『──胡桃、久しぶり』
目を向ける。
私は唖然とした。
「……る、り?」
見間違えるわけがない。
最も大切な友達が、そこに立っていた。
──さぁ、ここからが本番だよ。
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