03.魔法少女と触手と健全な時間

「……何を言っているの?」


 山田は呆然とした表情で首を傾けた。


「……触手? なに? 分からない」


 ふむ、伝わらないのか。

 仕方ない。面倒だが説明してやろう。


「お前はカレーが好きか」

「……好き、だけど」

「俺も好きだ。カレーは良い。何にかけても美味しい。だが、やはり一番は白米だ。穢れを知らない純白の米粒を、あの濁った液体で染め上げた時、我々は真の美食を得られる」

「その表現やめて。とても嫌」

「魔法少女が白米ならば!」


 俺は山田の指摘を無視して主張する。


「カレーとは、触手なのだ」

「……何を言っているの?」


 残念だ。俺に今以上の説明はできない。

 ならば、実体験によって伝えるしかない。


「百聞は一見に如かず。始めようか」


 

 *  触手視点  *



 やぁ! ボクは触手だよ!

 目の前に女の子だぁ! 仕事するぞ~!


「なに、これ……」


 この子すごい! スベスベ~!

 マスターってば久々にナイス召喚だよ!


 ここ最近ずっと魔族が相手だったからね。

 あいつら抵抗が強くて痛いし肌もザラザラで楽しくないんだ。


 でも、この子は全く抵抗が無い!

 魔力は感じるけど、攻撃に極振りなのかな?

 

 身長は154センチくらい。

 体重は肉付きから察するに49キロ前後。


 おっぱい!

 マスターの基準だとDカップだったかな?

 魔族に比べたら小ぶりだけど、これはこれで新鮮だよね。


「……や、そんな、とこ……やだぁ」


 この反応とっても新鮮!

 よぉ~し! ボク張り切っちゃうぞぉ~!


 さあ始まりました冒険です。

 あらためて手の端っこから始まります。


 穴がありました!

 多分これは服ですね。


 穴があったら入りたくなるのが触手の習性です。突撃しましょう。


 おおぉぉ! 肌との密着感が高まった!

 ざらざらした服の感触と、きめ細かい肌の感触が絶妙なハーモニーを奏でています。


 おっと、脇に到達しました。

 ここをコツンとすると、良い声が出ます。


 さらに奥へ行きましょう。

 ムッ、この柔らかい盛り上がりは何かな?


 すりすり。すりすり。


「んん……くっ……やぁ」


 こりこり。こりりりり~♪


「はぁ、ぅ……ぁ、ぁ、なに、これぇ……」


 楽しい楽しい♪

 もっと素敵な声で鳴かせてあげるよぉ~!


「痛い……やだ……気持ち悪い……」


 ……!?


「……あれ? ……終わったの?」


 ボクはマスターの元へ移動した。

 

「む? どうした?」

「……ごめん、心が折れた」


 ボクには触手としてのプライドがある。

 それは女の子に極上の快楽を与えること。


 痛い。やだ。気持ち悪い。


 もうダメだ。ボクは触手失格だ。

 一族の恥晒し。消滅するしかない。


「やれやれ相変わらずの豆腐メンタルだな」


 マスターも呆れてる。鬱だ。死のう。


「安心しろキャサリン。これは人助けだ」


 ……人助け?


「彼女は抵抗力を鍛えようとしている。目的は洗脳スキルの使い手に勝つことだ」

「……そうなの?」


 ボクは女の子を見た。

 その瞳からは強い嫌悪感が伝わってくる。


「……あの子、嫌そうな顔だよ?」

「ふむ。その点は俺の落ち度だな」


 マスターは女の子を見た。


「プロパ・コネクト」


 え!? そのスキルを使うの!?


「山田胡桃、承認すると言え」

「……わけが分からない。説明して」

「説明するために承認しろと言っている」

「……承認、する」


 え!? そんなあっさりと!?


「プロパ・シェア」


【山田胡桃】

成長:16/99

魔力:740(C)

精神干渉力:14(J)

精神抵抗力:32(J)

淫力:3(J)


「ほぅ、素晴らしい魔力だな」


 マスターの言う通り、すごい魔力だ。

 この感じなら将来的にはEXまで成長するかも。有望だね。


「しかし……」


 マスターは驚きを隠せない様子で言った。

 理由は分かる。魔力以外が弱過ぎるんだ。


「山田胡桃、この数値を見て何か分かることはあるか?」

「……何も」

「ふむ、そうか」


 ん-? どういう状況なのかな?

 あの子はマスターに従順だけど、調教された雰囲気は無いんだよね。


 そもそも、ここはどこ?

 見たことの無い景色ばっかりだよ。


「順を追って説明する。心して聞け」


 マスターは真剣な表情で説明を始める。


「洗脳とは、精神攻撃の一種だ。これを防ぐには、精神抵抗力を鍛える必要がある」

「……鍛える? どうやって?」

「精神攻撃を受ければ良い」

「……確かに、とても嫌な攻撃だった」


 拝啓、お母さま、お父さま。

 キャサリンは今度こそダメです。


 とても嫌な攻撃だった。

 触手にとって、この上ない屈辱です。


「趣旨は理解した」


 女の子は嫌な気持ちをグッと我慢するような顔でマスターを見た。


「信じるための根拠が欲しい」


 女の子は目を細めて言った。

 失礼だな。マスターは噓を吐かないよ。


「俺がお前の敵ならば、このような話をする理由が無い」


 そうだそうだ!

 少し考えれば分かるでしょ!


「繰り返すが強制はしない。俺は惚れた女の意思を尊重する」


 女の子は目をパチパチした。


「……惚れた?」

「む? 気が付かなかったのか?」

「……いつ?」

「ほんの数分前だ」

「……なんで?」

「お前は力を貸せと言った。誰もが逃げ出すような状況で、立ち向かうことを選択した。簡単ではない。心から美しいと思った。故に俺は力を貸すと決めたのだ」


 はわわわ、流石マスターだよ。

 そんなことストレートに言われたら、ボクだってドキドキしちゃう!


「……分かった。信じる」

「ほう? 良いのか?」

「……目が、綺麗だから」

「ふっ、悪くない考え方だ」


 マスターはパチッと指を鳴らす。


「三日だ。これよりお前を三日ほど世界から隔離する。俺は教室で待つ。親などに連絡を済ませてから来ると良い」

「必要ない。両親は、ずっと前に殺された」


 ……え? 殺された?


「ズヴィーバか?」

「……そう」


 ……。


「キャサリン、話は聞いたな」

「……うん、聞いたよ」

「どうする?」


 マスターは挑戦的な声色で言った。

 卑怯だ。こんなの返事はひとつしかない。


「全力で、この子を鍛えてあげる!」

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