都市伝説をつかまえよう その3(完)
「よし、これで準備は完ぺき」
まさおは、川の水を虫かごで汲んで蓋をした。スカイフィッシュを水中のなかにとじこめることができれば生け捕りだ。まさおは裕太の方をちらりとみる。
「いくぜ」
「やつら、ネットによるとIQ300もあるらしいよ。きをつけて」
「おいおい、冗談だろ」
まさおが崖に向かって走り出す。まさおは虫かごを両手に抱えて滝つぼへ落っこちた。
わずか二秒間のことだった。
まず、まさおはスカイフィッシュを目にする。滝のなかを白いひも状の生き物が何体も飛び回っている。生き物はしぶきのまわりをぐるぐる旋回する。
まさおはすかさず虫かごの蓋をあける、かごの中の水がこぼれないように腕をおもいきりよこに振った。空中を落下しながら、腕の動きをコントロールするのは容易ではなかった。しかし、スカイフィッシュの群れへかごを振り下ろす。まさおは蓋を閉じる。そして水面へ落下した。
ざぼーん、と水しぶきがあがる音。
裕太はまさおが滝つぼへ落ちたのを確認する。地面に手をつき、まさおが浮上するのをまつ。おもわず唾をのみこむ。
水面から顔があらわれた。まさおは顔の水をとりはらい、「とったでいー!」と雄叫びをあげた。
「まさお、すげーよ!!!」裕太は崖のそばにある斜面を下る。
まさおは、かごのなかを確認する。中には先ほど見た生き物がいた。羽のようなものが数え切れないほど、体を回っている。いや、胴体そのものが回転しているのだろうか。まさおは川岸へ向かう。
突然、かごが手からすりぬけ、水中へ落ちた。まさおはあわてて掴もうとする。しかし、まさおの手は真っ白に変色していた。そして虫かごの底に穴が空いてるのを目撃する。さっきまで穴なんてなかったはずだ。スカイフィッシュはかごの中にはいない。しかし奇妙なのは、まさおの手から白い糸が海藻のようにいくつも生えていることだった。というよりも、まさおの手が白い糸そのものに変化していた。ニット服のほつれる糸のように、まさおの両手に網目が生じ、指先から糸がするすると飛び出ていく。飛び出た糸は、水面へ上昇していく。まるで意思をもって動いているようだ。
まさおは腕からも糸が生えていることに気づく。体が水底へ沈む。水面へ上がろうとするものの、足にちからがはいらない。まさおは自分の両足をみる。足がなくなっていた。太ももから大量の糸がとびだしている。まさおはもがく。裕太に助けを求めたい。水中から裕太が斜面を下っているのが見える。裕太はこちらの事態に全く気付いていない。
まさおは意識が遠のいていくのを感じた。まさおの体は糸となって、ほどける。そして糸は四方へ飛んでいき、まさおの体を完全に分解した。
裕太はやっと崖の下へ降りる。滝つぼの方へ目をやると、まさおがいない。すると、滝つぼ付近から白い煙のようなものが上っていくのが見えた。まさおがさっき顔を出した位置だ。
裕太は滝の方へ歩いていく。
「どうしたの。まさお。おぼれたの?」
裕太は滝つぼに足を踏み入れる。途端に体が沈んだ。足を置いた場所は、くるぶしほどの高さもない浅瀬のはずだ。よくみると、足が白く糸状になって消えている。そして、バランスを崩した裕太は前へ倒れ水中に体が沈む。裕太が最後に目撃したのは、自分の手から出た白い糸が周囲を飛び回っているところだった。スカイフィッシュだ。
裕太は理解した。スカイフィッシュが都市伝説といわれるゆえんを。スカイフィッシュがぜったいに人には捕まえられない理由を。
スカイフィッシュの生殖方法をネットでみたのを思い出す。やつらは、動物の皮膚に卵をうみつけ、その皮膚をまとって子供は誕生する。動物は皮膚が少し減ったことには気づかない。そして、その繫殖方法こそ人にとって最も危険であることを理解した。スカイフィッシュはその気になれば、人間の体に卵を産み付けて、その体を養分に子を誕生させることができる。つまり、人の体を分解することができる。こいつらは怒ったのだ。スカイフィッシュを捕まえようとする人間に。人間の傲慢さに。
裕太は思い出す、「やつら、ネットによるとIQ300もあるらしいよ。きをつけて」という、ついさきほど彼が言ったセリフを。裕太は糸のように解けた。
数日後、中学一年生二人が行方不明だというニュースが地方局の番組で報道された。警察や地方自治体による捜索が開始されたが、見つかったのは彼らの衣類だけだった。
おわり
19作品目「都市伝説をつかまえよう」 連坂唯音 @renzaka2023yuine
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