都市伝説をつかまえよう その2

 ぼーし、ぼーし、つつつつ………。みんみん、じー………。

 蝉の合唱をあちこちから浴びながら、木陰で裕太は日傘をさして蟻の隊列を観察していた。木の幹へ流れていく蟻をみて、列の途中に石をそっと置いてみる。隊列の流れが変わり、別の道ができはじめる。

 見回せば緑。木々が都会のビル群のようにぐるりと彼を囲む。川のせせらぎが遠くから聞こえる。ちろちろちろ………。

「おいおい、魚博士が虫の観察か?」まさおが裕太の手元を覗き込む。

「蟻の隊列をみていると、魚たちが優雅に泳ぐ川を思い起こさせるんだよ。それに今僕は君のためにシミュレーションを行っているんだ」

 裕太が日傘をくるりと回して立ち上がる。

「君の計画どおり、スカイフィッシュをつかまえる準備はできた。あとはまさおくんが動くだけだよ」

 まさおは虫かごをリュックからとりだした。かごのふたは密閉ゴムが穴に取り付けられていた。

「裕太、とりあえず目的地へ向かうぞ。もう一度捕獲計画の流れを確認しておこう」

 二人は歩き出した。


「まず確認事項だが、親に今日の計画のことは話していないだろうな」

 まさおが裕太に訊く。

「当然。警察沙汰になるかもしれないって君が大げさにいうから、一応僕は君の指示に従っているよ。子供の同士のトラブルで、警察のお世話になるのはごめんだからね」

「よし」

 二人は身長ほどの高さがある断層をよじ登り始める。裕太は傘をしまった。裕太は岩だなに足をかけながら説明をはじめる

「スカイフィッシュは全長5センチから1メートルと個体によって大きさがかなりことなる。まさおくんが希望しているのは『どでかいやつ』とか言っていたけど、ぼくらの力で捕まえられるのは手のひらサイズのやつだ」

「そうこのかごに入るくらいの大きさのやつだ」

 まさおが虫かごを顎でさす。

「スカイフィッシュは障害物にぶつかるとたちまち溶ける。だから手づかみや網、トラップあらゆる捕獲手段が却下。そして僕らはスカイフィッシュをつかまえるのに適した方法を考案した」

「それが水中飛行遅延捕獲装置だろ」

 まさおが目を輝かせて言った。

「そんな名前をつけたおぼえはないけど、スカイフィッシュの飛行能力を極限まで低下させることがいいと僕が判断したんだ。色々調べた結果ね。死んでしまう要因がぶつかることなら、ぶつからずに捕まえればいい。ならばスカイフィッシュにまるで止まっているかのようなスピードで移動してもらえればいい。そして、移動速度の低下を実現するには水中に閉じ込めればいいと結論づけた」

「スカイフィッシュは空を飛ぶのが得意だけど、水中はとことん苦手なんだな。魚なのに」

「すこし違う。スカイフィッシュが誰の目にも捉えられないほどの飛行速度を可能にしているのは、きっと空を飛ぶための生体機能がどの生物よりも発達しているからなんだ。つまり、空を飛ぶことに特化したぶん、水中を泳ぐ能力は皆無のはずだということだ」

「それでおぼれ死なないんだっけか?」

「スカイフィッシュは恐らく溺れない。空中を音速を超える速度で飛んでいるとしたのなら、その空気摩擦で生じる摩擦熱はとてつもないはずだ。熱が生じることにより体は一気に気化されすぐに死んでしまう。それならば気化を免れるために、体に水分をためこむ機能はなくなる。体に血液がないというのなら、酸素を運ぶ手段をもなくなる。酸素を使わない呼吸法でやつらはきっと生命を維持しているのだろう」

「ふーん。まあ理屈はおいておいて。俺のこれからの動きについてお前にちゃんと解説しなきゃな」

「まさお君がどう行動するかよくわかっていないけど、とにかくスカイフィッシュの習性にあわせることが一番だ」

「おまえがいうに自然界にある滝つぼで捕まえるのがいいんだろ? スカイフィッシュは滝つぼに集まって、餌をとるんだっけか。やつらのえさは………えと………水しぶきだっけ?」

「正確に言うと、人の手がまったく加わっていない純度の高い水分だ。ネットによれば、やつらは泳げない。しかし、やつらの食料は水のみだ。水に浸からず、水分を効率よく摂取できる場所、それが滝つぼだ。水しぶきが一定の量で常時が得られるんだからな」 

「そうそう。そこで俺が滝つぼに飛び込みながら、このかごでやつらを閉じ込める!」

「飛び込みながら? 本気で言っているのか」

「あたりめーだろ。スカイフィッシュはすばやい。しかしいくらすばやいやつらでも滝からおちる水の落下する速度に合わせて飛ばなきゃいけない。そこしかチャンスはないだろう」

「死ぬきか?」

「おめーにも、一緒に飛び込みながらつかまえてもらうぜ」

「断るね」

「だめだ」

「とにかく、滝つぼにスカイフィッシュは集まるんだろ? 俺たち一緒に滝と落ちればよ、水しぶきに囲まれて、そんでスカイフィッシュは俺たちと並走することになるだろ。そこしかチャンスはねえよなあ」

「まあいいさ。君ひとりでやってくれ。僕は死にたくない」

「なにいってんだよ!」

「おい、滝の落下発生地点についたぞ。『ならみや滝』だ。やはり大きいね」

 二人は滝口のそばに立った。下をのぞきこむ。

「たまひゅんだな」まさおが言った。

「どういう意味だい」

「なんでもねえよ。それよりもお前、スカイフィッシュをつかまえる覚悟はできてんのか」

「だから僕は指示役だ。君が実行役」

「しゃあねえな。よし、やるぞ!」



つづく

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