19作品目「都市伝説をつかまえよう」

連坂唯音

都市伝説をつかまえよう その1

 『少年の日の思い出』という短編小説を、教壇に立った先生が音読しているときのことだった。

 裕太は教科書の余白に魚の絵を描いている。体をくねくねさせて泳ぐイワシの絵だ。

「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」という台詞が読まれたとき、背後から白い紙切れがとびこんできた。机にひらひらと紙切れがまい、木製の机上に落下する。

「そうか、そうか、君は授業中に落書きするやつなんだな」背後から声がした。

 伊達まさおだ。まさおが飛ばした紙切れは魚の形をしていた。

 裕太が後ろをむいて、「なにこれ」とまさおに訊く。

「それは都市伝説だよ。スカイフィッシュっていう魚さ。それより君、授業中に落書きするとは集中力がないね」

 フィッシュという言葉に裕太の眉がぴくりと動いた。

「きみこそ、授業中に工作をしているのかい。関心しないね」

「なあ、お前魚が好きなのか」まさおがひそひそ声で裕太に身をよせる。

「まあ、それなりに」

「じゃあさ。そのスカイフィッシュ、つかまえようぜ」まさおが不敵な笑みを浮かべる。

「なんだいスカイフィッシュって。トビウオのことかい」

「ちがう、ちがう。都市伝説の生き物さ。そこらへんの空中を、人間の目やハイスピードカメラでも追えないほどの速さで飛び回る生き物のことさ。見た目はまさに魚の形をしている」

 まさおがニヤリと口角をあげる。裕太はあたまをかく。

「まさおくん、そんな生き物がいるわけないだろう。そんなのがいたら街中の建物に激突して、死骸がすぐに発見されるよ」

 まさおはひとさし指を横にふって

「そいつらは、絶対にものにぶつからない。しかも死骸は自然融解して溶けるんだ」

「なるほど、都市伝説になりえるわけだ。で、僕にそのことで何か用?」

 まさおはシシシシと歯をみせて、

「だから、その都市伝説『スカイフィッシュ』を一緒につかまえるんだよ。来週から夏休みだろ? 魚博士のおまえをつれて、都市伝説を生け捕りにする」

「無茶な」

「俺には計画がある。スカイフィッシュを生け捕りにする算段がある。おまえの魚の知識と俺の工作能力があれば、きっと捕まえれると思う」

「僕は計画をきいてないよ。よくそんな自信たっぷりに宣言できるね」

 冷静な態度をとる裕太にまさおはさらに身をのりだして、

「で、都市伝説を一緒につかまえてくれるのか? やるのか? やらないのか?」

 裕太は白い紙きれを手に取り、

「やるよ。面白そうだ」と魚の形状をした切り紙のふちを指でなぞりながら言った。

「よしっ」

 まさおはガッツポーズをとる。そして、先生からにらまれた。



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る