第20話 屋上と未来の奥様

「……あなたを、魚の餌にする」

「ふざけんな!! だったらてめーもここでぶっ飛ばして、まわしてやるよ!!!」

「……近親相姦は許されない」

「黙れ! お前ら、相手は女だ! 五人がかりなら絶対勝て……」


 忠犬の死刑宣告に、竜胆が青筋を立て声を張り上げる。

 が、その声は仲間たちに届かない。

 竜胆が叫び終えるよりも早く、取り巻き達は地に付していた。


 動きが人間じゃねえ……。


「な、なんだよこれ……」

「……もう少し練習しないと、試合、勝てないよ?」

「こ、この野郎……!」


 竜胆が拳を振り上げ京香に向かって走る。

 だが、その腕をすぐに取られ床にたたきつけられる。


「……練習さぼるから、こう、なる」

「痛い、痛い!!! やめてくれ!!!」

「……駄目」


 柔道の寝技のような体制で竜胆の関節を決めている。

 というか、そのまま腕をあり得ない方向に動かし続ける。


「辞めろ! 辞めて、辞めてくれ!」

「……腕は、折る。そのあとは、知らない」

「痛“い“痛“い“痛“い”痛“い”っ“!”!“」


 悲痛な叫びも空しく、そのまま反対側に腕が曲がる。

 あれは折れたとか、そんな次元なのか……?


 暫くして、竜胆たちへの制裁に満足したのか瀕死の竜胆を俺たちの目の前に持ってくる。

 え、何?

 倒した獲物を見せびらかしてる?


「……ゆうと君、ごめん、なさい」


 血まみれの京香ちゃんが俺たちに頭を下げる。

 まあ、全部返り血なんだけど……。


「えっと、何が?」

「……約束の時間にまに合わなかった事、あと、最初に信じなかった事」


 本当は最初から京香ちゃんにも盗聴してる内容を聞いてもらって、竜胆達が愛衣を犯す寸前に割って入るつもりだったのだ。


 所が、京香ちゃんが盛大に遅刻し仕方なく俺が割って入ったってわけだ。

 いや、まあ、俺がこんなリスクの大きい賭けをしたのが悪いんだけど……。

 俺に見捨てられて犯される恐怖を味わわせてやりたいとか、そんな風に思ったせいでこんな目にあったわけだ。

 

 我ながら自業自得といったところ。


「いや、俺が悪いんだからいいよ」

「……そう。愛衣さんも、兄が迷惑かけて、ごめん」

「い、いえ……」


 文句の一つも言いたそうって顔だけど、あんなの見せられた後じゃな……。


「こいつらは、会長が処分を決める、けど……」

「けど?」

「制裁、して、いいよ?」


 制裁……。

 目の前に転がる瀕死の竜胆は、声も出せないって感じだ。

 

「わ、私は大丈夫です……!」

 

 俺の後ろに隠れながら愛衣が宣言する。

 そうだよな、私刑なんて。

 そんなの許されるわけがないよな。

 ああ、そうだ。

 例えこいつが俺の日常を全部壊し、俺を嘲笑い、俺をぶん殴った張本人だとしても。

 そんなこと、常識的に考えて許されるはずがない。


 常識なんて知るかよばーか!!!


 俺は勢いよく足を振り上げて、竜胆の股間を蹴りつける。


「ぐえ“え”っ“!?」


 言葉にならない叫びをあげる竜胆を見て爆笑しながら、俺は三度金玉を蹴り上げた。


「これ位で許してやるよ」

「てめえ、いつか必ず……!」

「死体がどうやって復讐するんだ?」

「くそ、がっ……!……ぐぇ“!”?“」


 愛衣まで、竜胆の金玉を蹴り上げる。


「これ位、いいよね……?」

「いいんじゃない? 知らんけど……。 さ、外でようぜ」

「うん……!」


 ちなみに、脱がされた制服はいつの間にか着ていたのでそこは問題ない。

 多分竜胆がハチャメチャに殴られてる時に着替えたんだろう。


――

――― 

――――


 外に出て、俺たちはすぐ保健室に向かった。


「ゆー君、本当にごめんね」


 愛衣が俺の傷を手当しながら謝って来る。


「別に、いいよ……たいした怪我もしてないし」

「そ、そうじゃなくて! 今まで、ずっとゆー君を裏切って、傷つけてた事」

「それは……別に良くはないな、全然」


 全く良くない。

 寧ろ悪い、最悪だ。


「そうだよね……」

「うん」


 それっきり、お互い言葉が出ない。

 話せる空気でもない。


「ね、ねえ……」

「ん?」

「さっき言ってた事、あれって……」

「あー、あれな……」


 未練たらたらだのなんだの、いらん事言ったな、うん。

 あんま思い出したくない、あの時はアドレナリンが……。


「あれって、つまりさ……また、元に戻れるって事……?」


 元に戻る、か……。

 久遠を捨てて、もう一度愛衣と一緒に過ごす日々を想像する。


 きっと最初はギクシャクするだろうな。

 えっちするたびに、竜胆の事を思い出すだろう。

 けど多分、時間という薬が俺たちの心を徐々に癒して忘れさせてくれると思う。

 大学を卒業したら婚約して、お金貯めて、数年したらディズニーランドで結婚式を挙げる。

 

 きっと、それなりに楽しくて幸せな人生が待っているに違いない。

 とても魅力的で、今すぐにでも飛びつきたい。


「なあ、愛衣。俺は今でもお前が好きだ」

「……! うん、うんっ! 私も、私も大好きだよ……!」


 今の気持ちを素直に伝える。

 間違いなく、俺の本心だ。

 俺は、今も、これまでも、そしてこれからも……。

 一生、愛衣の事が好きだ。

 この気持ちは、浮気したからとか、裏切ったからとか、母さんの名前を使ったからとか、そんな物じゃ壊れない位、俺の心の奥底に刻み込まれてる。


 だから……。


「だから、俺たち……」




――

――― 

――――




「いいんですか? 久遠さん、あれじゃあ……」

「いいの」


 彼があの女の元へ行ってしまった。

 いや、私が行かせたような物。


 本当は、行かせたくなんてなかった。

 私の元にずっといてほしかった。


 けど、あの人が……悠斗があんな辛そうな顔しているのを見ていられなかった。

 私は心底立花悠斗を愛しているんだと実感する。


「未練たらたら、ですって」

「知ってたわ」


 スピーカーから聞こえる悠斗の叫び声は、知っていたけれど私の心を深く傷つける。

 悠斗があの女に未練があることくらい、最初から気づいていたに決まってる。


「京香さん、着いたみたいですよ」

「そう、じゃあもう大丈夫ね」


 私は席を立つ。

 もうこれ以上聞いているのは辛い。

 

「久遠さん?」

「ええ、もう十分」


 私はそのまま部屋を出て、学校の屋上へと向かった。


――

――― 

――――


屋上は、夕暮れで赤く照らし出され、とても綺麗だった。

あの日も、こんな光景だったわね。

あの時は渚が悠斗の事をたまたま見つけてくれたからどうにかなったけれど、もし間に合わなかったらと思うと心底ぞっとする。


「綺麗……」


 悠斗はあの日、どんな気持ちでこの景色を見たんだろう。

 私は彼の事をほとんど知らない。

 私と離れ離れになってから、どんな経験をしてきたんだろう。

 きっと、あの女の方がよっぽど知っている。


 私が知っているのは子供のころの知識だけ。

 必死になってアピールしたけれど、きっと上手くいってない。


 たこさんウインナー工場なんて、恥ずかしくて今でも顔から火が出そう。

 舞い上がって、彼の好きな物をって思ったけれど……。

 よく考えたら、あんなもの子供のころに好きだっただけに決まってる。


 自分で自分が嫌になる。

 彼の事になると私は空回りしてばかり……。


「記憶喪失、だったらよかったのに……」


 そうだったらどれほどよかったか。

 実際は、単に子供のころ別れた仲のいい友達だっただけ。

 

 再会して舞い上がっていたのは私だけで、彼の記憶には殆ど残ってなかった。

 何が、未来の旦那様よ。

 なんて迷惑な話だろう。


 私はただ、彼の心の弱みに付け込んで、彼の隙間に入り込んだだけの間女。


「最低ね……」


 でも……。

 それでも、あきらめてたまるか……!

 絶対に彼を、悠斗を、私の物にして見せる……!


 そう、そうよ。

 あの女の事だ。

 大学生とか、結婚してからとか、どうせまた浮気するに決まってる。 

 そういう時にまた私が入り込んで、今度こそ……。

 だから、今は潔く祝福しなきゃ……。

 

 視界がぼやける。

 鼻水も、止まらない。

 それでようやく、自分が泣いてることに気が付いた。


「なんで、なんで……! 私が向かわせたのに、どうして……!?」


 涙が止まらない。

 きっとものすごく不細工で、こんな顔、絶対に悠斗には見せられない。

 

「悠斗、悠斗……!!」


 離れたくない、離したくない……!

 折角また話せるようになったのに。

 また他人に戻るなんて、そんなの……!


「いやよ……!」


 涙を拭きながら叫ぶ。

 もしかしたら、下の人たちに聞こえてるかもしれないけど、もう気にすることなんてできない。


「悠斗ぉ……!」


 楽しくて、最高に幸せだった一週間が頭の中をよぎり、心が心底痛くなる。

 こんなに辛くなるなら、最初から……。


 バンッ


 屋上の扉が勢いよく開く。


「え……?」


 私は驚いて振り返る。


 ――その先には、世界で唯一恋焦がれる男性が立っていた。


「ま、待って……!」

「ゆ、悠斗……?」

「し、死ぬな! 早まるな、久遠!」


 必死の形相で私に懇願する。

 どういうこと……?

 理解が追い付かない。


「えと、どうしたの……?」

「……え!? 飛び降りようとしてるって、渚が……」

「……なにそれっ」


 悠斗が心底情けない顔をする。

 その顔が、愛おしくて、今すぐにでも抱きしめたい。

 私はその衝動を必死に抑え込む。


「愛衣さんは、一緒じゃないの?」

「いまは多分、保健室」

「そう……」


 怪我、してたのかしら。

 

「それよりも久遠! とりあえず、そこから離れて……」

「どうして?」

「死んでほしくないからだよ」

「ふーん……?」


 例え一時的にでも私を優先してくれたってこと?

 うれしい……!

 ああ、抱きしめたい……!

 抱きしめて、抱きしめられて、抱かれたい……!

 

「なあ、頼むよ……!」

「どうしようかしら……。あなたに捨てられるなら、私、死んでしまいたいわ」


 つい、意地悪をしたくなって彼の困る台詞をいってしまう。

 なんて言うかしら?

 謝罪? 懇願? 

 どれでもいい、彼と話せるだけでこんなにも幸せなんだから。


「……どうせ死ぬつもりなら、俺にその命をくれ」

「……え?」


 それって……。

 一週間前、私達が再会したときの……。

 つまり、それに続くのは。


「ど、どういう、事……?」

「簡単だよ」


 悠斗が私の手を取る。

 まさか、ホントに……?


「俺の……未来の奥様になってくれ」


 そう言って、私の薬指に指輪をはめる。

 銀で出来た、シンプルな作り。

 けれど、私には世界で一番豪華な指輪に見えた。


「……よろこんでっ」








 ―――――


前話で不安にさせてしまいほんっとうに申し訳ございませんでした!!!!

そうですよね、愛衣ルートに見えますよね!!!

そりゃそうです、本当にすいません!!!


そして、その怒りを乗り越えてここまで読んでくださり本当にありがとうございます!!!


これにて、一章は終了となります。

この後幕間を挟み第二章へ突入します。

ここまで見てくださり、本当にありがとうございます!!!

ようやく、コメント返しも出来るのでぼちぼち返していきます

ぜひぜひ、今後もよろしくお願いします。


後、ぜひぜひ感想をください!!!

★と、フォローは、お任せします!!!

上げてもいいなって思ったら、★1でも全然いいので、お願いします!

みなさんのコメントがたいっへん励みになってます!


あとあと、活動報告に一章の裏話的なこと書くので、そちらもよろしくお願いします。


以上、ありがとうございました!!!










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る