彼女に浮気されて絶望した俺は、学校の屋上から飛び降りる直前に出会った清楚系美少女の"未来の旦那様"になって毎晩予行演習（）をシています

第12話 忠告と親友と未来の旦那様

「おい、悠斗。ちょっといいか？」

　朝教室に入った途端、亮介が俺のもとへやってきた。

　忙しくてメッセージを無視し続けたせいだろうか、ちょっと怒ってる。

　亮介に連れられ教室の外に出て、ひとけのない廊下の奥まで歩く。

「どうした？」

「どうした？　じゃねーよ！　お前さ、浮気するならもっと上手くやれよ」

「あー……」

　どうやらこいつはこいつなりに心配してくれていたみたいだ。

　確かに、外野から見れば俺は浮気して彼女を邪険に扱ってる屑男にしか見えないよな。

「一昨日は誤魔化してやったけど、昨日みたいなことしてたら誤魔化すことも出来ないぞ」

「一昨日？」

「愛衣ちゃんから悠斗が家に来てるかって連絡があったんだよ。来てるよって言っておいたけど……」

　滅茶苦茶いいやつじゃん……。

　我ながらいい友達をもったなぁ。

「あのさ、愛衣とは別れようと思ってるんだよ」

「あの黒髪の子に乗り換えるのか？　気持ちはわからんでもないけど、だったらせめてちゃんと別れてから行動しろよ、せっかく反面教師が目の前にいるんだから学習しようぜ」

「順番が逆というか、なんていうのかな……」

　説明が難しい。

　特に久遠と出会ったくだりは突拍子もなさすぎって信用してもらえない気がする。

「もしかしてあれか？　俺が愛衣ちゃんが怪しいって言ったこと気にしてるのか？」

「気にしてるって言うか、事実浮気してたんだよ」

「……まじ？」

「まじ」

　亮介が露骨に気まずそうな顔をする。

「相手は？」

「竜胆史郎って名前の男、荻原京香の双子の兄らしいよ」

「うわぁ……随分と厄介な……」

　厄介だよなぁ。

　けど、竜胆だけは絶対に潰す。

　あいつは魚の餌にしてやる。

「だろ？　だからもういいかなって」

「新しい子も出来たしな」

「さっきも思ったんだけど、なんで知ってるの？」

「一緒に学校来てるところ見かけたから」

　えー、気を付けてたんだけどな……。

　途中までしか一緒に歩いてないのに。

「だからさ、上手くやれって。お前のせいで浮気相手の子まで責められるぞ」

「なんでだよ」

「そりゃお前、学校でも有名なおしどり夫婦を寝取った女だぞ？」

「……おしどり夫婦、ねぇ」

　確かに、先週までは少なくとも俺の方はそう思われても仕方ないくらい愛衣の事が好きだったな……。

「わかった、気を付けるよ」

「……辛かったら言えよ」

「久遠に癒してもらってるから問題ないよ」

「うぜぇ……」

「今度落ち着いたら紹介するよ、ダブルデートしようぜ……今は誰と付き合ってるんだっけ？」

「今はいないな、別れたばっかだし。まあその時までには作ってるよ。俺はモテるからな」

　こいつの場合、多分本当に作ってる。

　なんなら二、三人出来てる可能性まである。

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――

―――

――――

「京香ちゃん、連絡先教えてよ」

「……いいよ」

「なあ、俺の話聞いてたか？？」

　教室に戻った俺は、すぐに荻原京香に声をかけた。

　実は、俺と荻原京香は同じクラスなんだ。

　亮介がなんか言ってるが無視を決め込こむ。

「ありがと、お昼一緒に食べない？　屋上で」

「……うーん、お昼、買ってくれるならいいよ」

「もちろんいいよ」

　そう言って、荻原京香に財布から取り出した千円を渡す。

　教室中のクラスメイトが俺の事を信じられないといった様子で見てる。

　もちろん、その中には愛衣の目も含まれている。

「……じゃあ、お昼は屋上に行くから。先、行ってて」

「わかった、じゃあ待ってるね」

　そう言って、自分の席に戻る。

「ねえ、ゆー君？　今のは何？」

「久遠との関係を解消するためにどうしても必要なんだ。だから、つらいだろうけど我慢してくれ」

　うん、嘘は言ってない。

「……本当に、あの女と離れて私の所に戻って来るんだよね？」

「もちろん」

「関係、解消するんだよね？」

「間違いなく。だから、愛衣も今まで見たいな振る舞いはしないで」

「……約束」

「ああ、約束だよ」

　あと六日ある。

　なあ、愛衣。

　お前、我慢できるのか？

　俺はそれだけが心配だよ。

―

――

―――

――――

「ボクシング部の部室と、後あいつらのヤリ部屋に使われてるいくつかの教室に盗聴器仕掛けておきましたよ」

　お昼、屋上で俺の隣に座る渚がこともなげに報告してくる。

　いやそれ犯罪ですよ？

　頼んだのは俺だけど……。

「ありがとう、助かるよ」

「いえいえ、構いませんとも」

「ねえ、そんな物何に使うの？」

　俺の隣にぴったりとくっついて座る久遠が弁当を食べながら質問する。

　ちなみに今日は久遠が作った手作り弁当を二人で食べている。

　これがまた滅茶苦茶美味い。

　母さんの味を再現した料理も美味しかったけど、それ以上かも知れない。

　ちなみに、箸は一膳しか用意されていない。

「証拠集め件……蜘蛛の糸」

「どういうこと？」

「決着がついたら教えるよ」

「ふーん？　まあ、いいけれど……」

　どうせ意味のない物だろうけど。

　それでも、心のどこかでは。

　本当に、本当に、微々たる可能性としてだけど。

　愛衣が、約束を守ってくれるんじゃないかと、微かに信じてる。

　まあ……そうなってもならなくても、俺の気持ちは変わらないけれど。

「次は何が食べたい？」

「じゃあ、ハンバーグで」

「はい、あーん」

　久遠がハンバーグを食べさせてくれる。

　絶対に渚の顔は見ないようにしよう。

　恥ずかしすぎる……「うわぁ……」とか、言うのやめてくれ。

　聞こえてるぞ。

「どう？　美味しい？」

「滅茶苦茶美味しいよ」

「どっちが美味しい？　どっちが好き？　どっちを愛してる？」

　愛してるは関係あるか？

「……そりゃもちろん久遠だよ」

「そうよね！　そうよね！　ふふっ、よかった……」

「うわぁ……」

　すぐ隣から聞こえる渚の声は久遠には耳に入ってないみたいだ。

　俺もそういう都合のいい耳が欲しかったよ。

　ちなみに今日の弁当の献立は、全て昨日愛衣が持ってきたものと同じだ。

　そして手を付けるたびにどっちが美味しいか聞いてくる。

　今のやり取りも今日既に七回目のやり取りだ、そりゃ渚も引く。

「さ、次は何がいい？」

「うーん、そうだなぁ……」

「あ、私もみていいですか？」

　久遠も渚も、やたら身体をくっつけてくる。

　渚の方は多分わざとだな、なんか顔がニヤニヤしてるし。

「渚、離れなさい」

「えー？　何がですかー？」

　渚が久遠を煽るようにさらに身体を近づける。

　いや近いし、なんかいいにおいするし……！

　ガチャッ。

　屋上の扉を開ける音がする。

　振り向くと、今日のゲストが立っていた。

「……ハーレム？」

　今日のゲスト――荻原京香が小首を傾げる。

　恐らく、第一印象は最悪だった。