第11話 嘘の誓いと束の間の魔女

「ゆー君、昨日はごめんね……! 楽しく遊んでたのに、邪魔しちゃったよね……」


 ゆー君が教室についたのを見た私は、すぐに駆け寄って殊更下手に出る。

 もしゆー君があいつから何か聞かされていたならちゃんと説明しないといけないし……。


「別に、いいけど……」

「そ、そっか……! ありがとうっ。やっぱり、ゆー君はやさしくて大好き」


 優しい彼氏を持てて、私は本当に幸せ者だと思う。

 かわいくて、かっこよくて、優しくて、頭もいい。

 本当に本当に、最高の彼氏。


「ねえ、今日は空いてるよね? デートしたいなぁ」


 できるだけかわいい声でゆー君をデートに誘う。

 ゆー君は私の事が大好きだからきっとうなづいてくれるよね?

 あの女と何をしてたのかは知らないけど、私の方がずっと魅力的だったわからせてやる。

 

「……ゆー君?」


 どうしてだろう、私から目をそらして黙ったまま返事をくれない。

 ……恥ずかしいのかな?

 確かに、教室でこんなに甘えたら目立っちゃうし恥ずかしいよねっ。

 周りを見ると、またやってるよ、見たいな視線でみんながこっちを見てる。

 あー、もう!

 恥ずかしいなぁ。

 けど、みんなに私たちの関係を見せつけてるみたいで何だか楽しい。

 何人かクラスにもゆー君の良さに気づいてる泥棒がいるかもしれないし、今からマーキングしないと……!


「今日も予定があるんだ」


 ……え? 

 まさか、又?


「あ、そ、そっか。……なら、お昼一緒に食べよう? お弁当、作ってきたの」

「悪い、無理」


 なんで、なんで!?

 おかしい、おかしいよ!

 け、けどあんまりしつこくしたら嫌われちゃうかも……。


「……じゃ、じゃあ、お弁当だけでも持って行って? ゆー君の好きな物いっぱいいれてあるよ?」

「だから、今日は忙しいから無理だって言ってるだろ」

「ご、ごめんねっ。じゃあ夜とかにでも……」


 どうしたんだろう、本当に

 ゆー君のために頑張って早起きしたんだから、せめて食べて貰いたいよ……。

 

「いらねえって言ってんだろ!? 別のやつに渡せよ!!」


 大きな声に教室中がざわめく。

 けど、そんなことはどうでもいい。

 ……別のやつ、って何?

 やっぱり、あの女……!


「おい悠斗、お前いい加減に……」

「亮介君、いいの、大丈夫……」


 どうしよう……どうしようどうしようどうしよう!?

 竜胆君のことがもしバレてたら……!?

 最悪な想像をしてしまい、目から涙が溢れて来る。

 それに、竜胆君はあくまでも身体だけだし……本番だってしてない。

 うん、そうだ。

 私はゆー君を裏切ってない。

 あの女がでたらめを言ったんだ。


「ね、ゆー君、私他に渡す人なんていないよ……?」

「どうだか……」


 本当に本当に、あのくそ女が憎くて憎くて仕方ない。

 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。

 絶対にゆー君の誤解を解かないと。

 

「ほんとにホントだよ? お義母さんにだって誓える……!」

「は?」


 ゆー君が私を睨みつける。

 こんなに怒ったゆー君、初めて見る……。

 でも、本当に私は裏切ってない。

 だから伝えないと……!


「ねえ、信じて? 誰に何を聞いたのかは知らないけど、私はゆー君を裏切ったりしてない」


 おねがい、分かってゆー君……!

 私は、ゆー君が大好きなの。

 他の男なんて興味ないの。


「別に、裏切ったなんて言ってないだろ。ホントに用事があるだけだよ」


 ……っ!

 これは、分かってくれたのかも……!


「……わかった。けど、これは受け取ってほしいな」


 お弁当を押し付ける。

 ゆー君の好物をたくさん入れたから、これで機嫌を直してほしい。

 そして、今日は仲直りの……!

 

 お弁当を受け取ってくれたゆー君はそのまま教室を出ていく。


「ゆー君?」

「具合悪いから保健室で寝てる」

「え、大丈夫? ついて行く……」

「一人で行ける」

「……わかった」


 そういって、ゆー君は出て行った。


「愛衣ちゃん、大丈夫?」


 すぐに何人かの友だちが駆け寄ってきて、私に慰めの言葉をかけてくれる。


「たぶん、ゆー君は誰かに嘘を吹き込まれてるみたい……」

「えぇ!?」

「それで、私が浮気してるって疑ってるんだと思う。だから、ちゃんと説明してくれればわかってくれるよ」

「それは……許せないね」


 そう、許せないよ。

 私からゆー君を奪おうとする泥棒には絶対に痛い目に合わせてやる……!


――

―――

――――


 ざまあみろ!!!

 やっぱりゆー君はあの久遠とかいう女より私を取ってくれた。

 竜胆君の事、やっぱり知ってたみたいだけど。

 けど、分かってくれた……!

 一週間禁欲するのはすごくつらいけど、それくらい我慢できる。

 ゆー君を取り戻すためなら、私はなんだってできる!

 早く会いたいよ、ゆー君。

 あの女に一週間も取られてるのはすごくすごくつらい。

 もしかしたら、今頃……。

 

 いや、ゆー君がそんな裏切りするわけないよ!

 私にしちゃだめって言ったんだから、ゆー君だって駄目だよね。

 私が竜胆君とやってたことも、しないよね……?


 キスとか、絶対してほしくない。

 ゆー君の綺麗な唇をあんな穢れた女に汚されるのなんて許さない。

 あー、早く一週間たたないかなぁ。

 たくさんたくさん愛してもらいたい。

 そうだ、学校やすんで二人で旅行でも行こうかな?

 一週間くらいなら、ずる休みしてもいいよね?


 楽しみだなぁ……。






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