第9話 慰めと未来の旦那様

「目、閉じて……?」


 未だ懐かしさを感じるリビングのソファの上に座る俺に跨りながら、久遠がささやく。

 “バケモノ“の乱入直後、俺たちは予定を変更しすぐに家に帰った。

 制服も脱がないうちに抱きしめあい、お互いの気持ちを確かめるように唇を合わせるキスをした。


「久遠……」

「大丈夫、わかってるわ。ただ……すごく悲しかった」

「たとえ何があっても君を捨てることはないよ」

「……ね、慰めて?」


 そう言って、目を閉じる久遠にもう一度キスをする。

 柔らかく、ほんのりと甘い唇の感触を味わいながら、手を身体へ回し強く抱きしめる。

 

「んっ……」


 ほんの少し身体強張らせるが、すぐに受け入れ俺に委ねてくる。

 三度目のキス。

 今までで一番気持ちが通じ合っている気がする。


「っ!?」


 久遠の舌が口の中に割り込んでくる。

 昨日とは真逆、俺の舌と絡ませるように口の中を久遠の舌が動き回る。


「く、久遠?」

「ふふっ、逃げちゃだめよ?」


 好き勝手に動き回る久遠に合わせるように、俺も舌を動かす。

 漏れ出る息までや唾液の混ざる音までエロく感じる。

 久遠が興奮したように甘い声を出す。

 その声で、俺の気持ちもどんどん昂っていく。


「気持ちいい?」

「うん、キス、好きぃ……」


 なんかいつもと話し方まで変わってない?

 これはこれでかわいいからいいけど……。

 

「入れなければいいって、あの子言ってたわよね……?」

「え?」

「だって、あの子が言ったのよ? 入れてないから浮気じゃないって」

「まあそうだけど……」


 確かに言ってたな……。

 けど、いや、駄目だろ色々……。


「ねぇ、どんなことしたい? なんでもしてあげる……」

「いや、ちょっ……」


 “俺の上に跨った”久遠が腰を動かす。

 ズボンごしに“何か”が擦れる。


「んっ……ほらっ、はやく決めて?」

「駄目だって……!」

「どう……してっ?」


 そう言いながら動きを止めず、俺の目をまっすぐ見つめる。

 ……正直めちゃくちゃエロい。

 このまま真似事がエスカレートしたら止まる気がしない。


「……我慢できなくなるから」

「いいじゃない、あの子だってしてたのよ?」

「けど、一線は超えてなかった。今俺が越えたらあいつ以下だ」


 かわいくて、愛しくて、今すぐにでも抱いてしまいたい。

 そんな気持ちを必死に抑える。


「そうね、そうかも……。けど、もう私が止められないの……!」

「ちょ、久遠……!?」


 離れていた唇を再度近づける。


「子供ができたら責任とるから、ね?」


 いやその台詞男女逆だろ……!

 セーラー服姿の久遠が俺に必死にしがみつき、俺の上でキスをしながら動いている。

 ……もう、無理かも。

 俺も久遠を抱きしめ返し、体を動かした。


――

―――

――――


 な、なんとか乗り切ったーーー!!!

 危ない、まじで危なかったよ。

 未だ俺の上には疲れ果てた久遠が息も絶え絶えといったようすで抱きつきながら座っている。

 まさに修行僧の如き集中力と理性でどうにか久遠の誘惑を乗り切り、俺は今も愛衣バケモノとは違って人間のままだ。

 

「ひどい人……」

「寧ろ耐えきった俺の理性を褒めてもらいたいね」


 甘えるように俺の胸に頭を擦りつける久遠の頭を撫でる。

 微かに感じる汗とシャンプーの混ざったにおいが甘くて心地良い。


「ねえ、あなた……」

「なに?」

「好き、大好き」

「何度も聞いたよ」


 俺の中では昨日会ったばかりの女の子。

 それでも、数えきれないほど愛を囁かれている。


「……あなたは?」

「俺も……」


 いいかけて、すんでのところで止まる。

 この言葉は、全てのケリがついてから伝えたい。


「……俺も?」

「続きは一週間だけ待ってくれない?」

「ふふっ、あなたは本当に焦らすのが好きね」

「そんなことないよ」


 結果的にそうなっているだけだ。

 決して焦らした時の久遠の顔が好きとか、そんなことはない、はず……きっと、多分。


「嘘よ、あなたは再会してから私を焦らしてばかり……」

「……ごめんな」

「きっと、する時もとってもSなのね?」

「いやいや、ノーマルだよ!」


 まあ確かに?

 久遠が物欲しそうにしてる顔はとても魅力的ではあったけど、Sじゃない、うん。

 大丈夫だよな??


「ふーん? 私は、あなたにならするのもされるのも、どっちも最高に幸せ。だからきっと私もノーマルね」

「それは違う気が……」


 少なくともノーマルでは断じてないな。


「ところで、あなたはいいの……?」

「後で一人の時間がもらえるなら……」

「それは駄目よ、もったいないわ」

「もったいないって……」


 何がもったいないんですかね……。

 ていうか、まじ?

 俺もう禁欲三日目なんだけど……?

 しかも三日間連続で誘惑を断ち切ってるという……。

 仏陀でも耐えられねえよ、俺に悟りを開けと……?


「口と手と胸、どれがいい?」

「……ノーコメント」

「じゃあ全部使ってあげる、今夜楽しみにしていてね? 取り敢えず、着替えて来るわ」


 そう言って俺の上からどけて風呂場へと歩いて行った。

 どうしよう、絶対耐えられる気がしない……。

 まあ、もういいや。

 大丈夫、どうにでもなる。

 流されて行け。


 ―――――


箸休め回です。

話が進まず申し訳ありません。

ただ、どうしても書きたかったんです……!

次回からまた話が進みますので、許してください……!













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る