第44話 情報収集第五PHASE 決着――感情昂る英雄
そもそもなんだよ、枷を外して腕一本って。
それに対して向こうはまだまだ二発目三発目撃てますって感じは。
Sランク魔法師ってのがチーターならSランク魔法師に近いAランク魔法師はチーター予備軍じゃねぇか!!
と、文句を心の中で言ってるとどうやら向こうからしてみれば刹那が思っている以上に予想外だったらしい。
「チッ!」
舌打ちをして、手を上にあげ鳳凰に合図を出す勝正。
「亡霊の癖してまだこの世に未練があるのか。この世でも俺が女を手にする邪魔をするか……佐藤刹那」
その言葉は刹那に取って聞き捨てならなかった。
「はっ?」
思わずでた言葉に勝正が「そうか……」と小声で言って不敵な笑みを見せる。
「なんだ? 前世の記憶を失ったのか? ムカつく奴だ。麻美は容姿も美しく金も持っていて控えめな性格と最高の女だった。だけどお前が死んですぐに自殺した。せっかく手に入れたのによ、お前のことが好きだと言ってな。弱み握って脅せば時間はかかったがやれたし俺の演技は完ぺきだった。弱みとは別に家族を人質に取られれば誰だって屈する」
胸の奥で湧き上がる感情。
総一郎を倒しようやく忘れることができた感情が今までない以上の憎悪を持ってぐつぐつと再び燃える。
頬がピクピクと痙攣するほどの激情に駆られる刹那の意識は限りなく殺意で溢れかえっていた。
「なん……だと?」
「望まない妊娠と言うべきか? 避妊対策で使うゴムに予め穴を開けたただそれだけだ。手に入らないなら力付くで奪えばいい。一夜とは言え俺の子を妊娠すれば俺と結婚するしかない。そこに本人の意思は関係ないはずだった。だけど一夜限りでその夢は破綻した。お前が死んだからだ。それから四年後俺はこの世界に来た。どうやらこの世界では時間の概念が俺たちのいた世界とは違い、魂が転生する時に数年の時を一瞬で超えるらしい。それによって体感では先に来たものが実は後から来たと思われる者より遅く来たなどと言う不可解な現象が起きるらしい。と丁寧に絶妙な時間をかけて説明してあげた俺は優しいと思わないか?」
鳳凰(ゴッドフェニックス)は既に次の準備を終えていた。
勝正は注意を自分へと逸らし二発目発射のための時間稼ぎをしていた。
だけど刹那の中ではもうそんなちっぽけなことはどうでも良くなった。
前世と現世。
まさか二世に渡りムカつく奴が同一人物で出会うとは世の中は案外狭いのかもしれない。
頭の血管がブツブツと切れていく感覚は錯覚か現実か?
ゴゴゴゴゴゴゴッと勝負を決めにきたのか先ほどとは比べ物にならない程のエネルギーを圧縮する鳳凰(ゴッドフェニックス)が放つ熱の温度があがる。
強者による一撃。
刹那は昂る感情に身を任せてゆっくりと前へと進んでいく。
「お前……麻美にそんなことしたのか?」
ゴッ!! と温度がさらに上昇。
だけど刹那の足は止まらない。
「転生の仕組みなんて俺は知らねえ。でもお前の言葉を聞いて思ったことがある。もしもお前が常識を持ったまともな人間ならこんな悲劇は起きなかったはずだと。違うか?」
「常識? なにを言っている。それは個々の価値観から生まれ、時に大衆心理からくる間違った認識。人はなぜ各々が違う宗教や仏教を信仰したり逆に信じない者は信仰すらしないと思う? 理由は簡単だ。常識とは個々に課せられた足枷であり人が自分たちにとって都合のいい解釈をした結果だ。それなら生物が生まれた時から持つ生存本能や力に従った方が実に有意義だとなぜ考えない? この世に常識も非常識も存在はしないさ」
鼻で笑い、自分が絶対だと言いきる勝正が上げた手を振り降ろす。
ドンッ!! 轟音と共に放たれたそれは疑似的に太陽が持つ莫大なエネルギーの一部を強引に圧縮して作られた炎のよう。鳳凰の身体を作る構成部品を考えればその考え方は間違っていないはずだ。
「無駄話が作りだした時間が作り出す俺の最高火力。さっきの倍は熱く強い、せめて骨が残る程度には抗えるといいな亡霊! アハハ!」
【バカ! 止めろ! 正面から受けて立つな!!!】
大声で警告する声が脳に直接聞こえた。
だけど刹那は咄嗟に【高速分解】と書いて視認して動かしていた足を止める。
魔法の効果で既に耐火はできている。
ならばとさっきより確実を持って目の前の力の象徴を粉砕するだけだ。
力が正義だと言う勝正の全てを否定しなければもうこの憎悪は収まることはないだろう。
本気で殴り右腕も失えば復讐を成し遂げることが不可能になる。ならばと飛んできた炎に向かって右手を突き出す。
文字の効果を受けた右手が触れる炎を高速で分解していく。
炎を受け止めた右手を通して、勢い余った炎にジリジリと押し負け身体毎吹き飛ばされそうになるが、グッと足の指に力を入れて踏ん張る。
「刹那――――――ッ!!!」
大切な人の声が聞こえた。
湧き上がる憎悪を理性で抑えることを止めれば自分がどうなるかわからない。
もしかしたら自分も勝正と同じように人が生れ持つ本能に従い動く下種野郎になるかもしれない。でも……ノーリスクで勝てる相手ではない。
【復讐者】
ぷらぷらした左腕の指先に意識を集中させてなんとか動かす。
熱に充てられた氷が溶けるように脳内で理性が溶けていく。
刹那は声がした方向を見ない。
右手の集中力をこれ以上切らせるだけの余裕は既になかった、
それと――。
「俺だけならまだしも俺の大切な麻美……唯さん……さよさん……三依さん……を傷つけた報いは死を持って告ぐなわせてやる! お前の全てを否定してな!」
【落ち着け! それ以上憎悪に身を委ねれば――】
「うるせぇー! 俺は復讐者だ! 誰もが憧れる英雄なんかじゃない! だから黙って力を貸せ、もう一人の俺!」
【…………ようやく見せたな、本性】
心の中でニヤッと微笑む者がいた。
今出せる力を右手に集中させて大きく振り払うような仕草で炎を薙ぎ払う。
制御を外した人外の力は普段では有り得ない力を持つもたった一振りしただけで反動に耐え切れない右腕全体に痛みが襲う。
痛みに顔を歪めながら刹那が叫ぶ。
「そう言えば大きく改変し不可能を可能にする領域の魔法が『文字』だったな! 下種野郎てめぇが一番恐れる者はなんだ?」
ドッ!! と足の裏に仕込んだ爆薬に火を付けたように目にも止まらない速度で刹那が勝正に向かって突撃していく。
もう理屈ではない。
できなければそれまで――アイツが言った歴代最強の当主。
復讐相手がなぜ先代の時に謀反を起こし、具体的にどうやって美乃梨を暗殺したのかなんて知らない。
だけど――。
力がいる。復讐を成功させるための力が――。
その力はどこにある――。
過去? 未来? 今?
どこでもいい……復讐できる力があるのなら。
存在するなら手繰り寄せればいいだけの話。
人ではなく神様しか起こせない奇跡。
その奇跡を起こすことができる可能性があるなら後はそこに全てを賭ける。
失敗した時のことなんて考えていられない。
「お前? 格闘技には自信があるんだろ?」
ほんの一瞬。
強者のはずの勝正が……弱者の言葉に数秒絶句したように言葉を詰まらせた。
「鳳凰(ゴッドフェニックス)コイツを殺せ」
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