第31話 情報収集第四PHASE 偽造作戦――転生
支配人室の一角に用意された沢山ある監視映像の一つに刹那を見つけた三依が重い腰を上げる。一瞬、ノートパソコンの横に置かれた本に目をやっては「偶然……そんなわけあるわけないねんな」となにかを否定するように呟く。本のタイトルは『転生の秘密』この世界で有名な著者が書いた作品の一つで謎がまだ多い転生について色々と書かれている。そこにはこう書かれていた――ある結果には必ずそれに対する原因がある、と。その言葉通りもし今回の一件が全て何かしらの因果関係によるものだとしたらこれは厄介なことになると思ったのだ。
――。
――――。
「……はぁ~……我なんだかんだ期待しとるさかいね……」
転生の秘密。
それは因果関係によって成立し、何かしらの因果関係がないと実現しない。
例えばソレは奇跡。
例えばソレは偶然。
例えばソレは神の悪戯。
そんな不明確かつ不安定な要素が多岐に渡る転生だが、著者はそこでこう語るのであった。
『この世界は因果世界とも呼べる。そして第一の人生と第二の人生を歩む者が共存し共に成長する世界』だと。
この言葉に多くの専門家たちは頭を悩ませるのであった。
なぜなら著者もまた異世界人でありながら転生の秘密を探る専門家でもあったからだ。
三依はふとっ思う。
「もし我の勘が当たっとるとしたら刹那はんが唯はんと出会ったのにも意味があるのかもしれへんな。そして妹のさよと会ったのも何かの縁で我とこうして会ったのも何かの縁かもしれへん。だとするなら我がするべきことはもう一つしかないさかいね」
エレベーターに乗った三依は古き懐かしい記憶を呼び起こしては一人静かに懐かしむ。
そう言えば昔の自分も今の刹那と同じことをしようとしていたなと。
家族を失ったことで、唯の持つ巨大な力に彼女自身の制御が不安定になった時。
自分を殺して欲しいと言う弱気な唯を後先のことを考えずに思い切りぶん殴ったことを。
あの時は少しでも死と言う考えを改めて欲しい一心だった。
そして殺される可能性があったのにも関わらず唯と対峙しその中で言葉を交わし魔法に自分の熱意と感情を超めて死ぬ限界ギリギリまで魔力を捻りだしては唯にぶつけた。
恥ずかながらも本気で対峙しても唯の足元にすら及ばなかった三依はその日死を経験した。圧倒的な力の前では自分など無力だと。でも無力な自分だからこそ届いた言葉。
『我の家族でありお姉ちゃんに殺されるなら悔いはあらへん。今までありがとう唯はん』
最後の言葉は諦めの言葉だった。
でも偶然にも届いた。
力があるからこそ悔やみ、後悔する。
力がない者には決して理解できない強者だけの苦悩。
理解するため三依はその日以降死に物狂いで修行をして手に入れた。
Bランク魔法師の称号。
それでも届かない高見。
それは望まない別れを生む。
ある程度精神が安定した唯は一人喪失感を抱えたまま家族を暗殺した相手を探す旅に一人で行く。
数ヵ月後、自分たちの知らない人間を弟子にしたと噂で聞いた。
嬉しくも悲しい報告。
だけど――こうして再び巡り会えたことに意味があるのなら。
「見てわかる。唯はんが愛しとる漢がなにかを変えようと頑張っとるさかい。あの魔法は唯はんが認めた証拠でもあるさかい。自分をなにがあっても守ってくれる相手だと。分家の我が言うことやない。あの魔法の真価を発揮する鍵は世代ごとに違うも必ず共通する点が一つ。その秘密に気づくかどうかがこの後の展開を大きく左右するやろうね」
エレベーターを降りた三依はホテルの屋上で足を止める。
その先には視線を上にあげて夜空を見上げる男が一人いた。
男の目は何処か悲しそうだった。
でもどこか希望を見ているようにも見て取れる。
本来は唯から与えられる鍵をここで渡せば運命は変わるのかもしれない。
それは唯の意志に恐らく反する行為。
鍵の秘密。
それは自暴自棄になった唯を救いたい一心で三依が集めた情報の中で知った事実。
「星綺麗やな」
小さい声ではあったが、はっきりと聞こえたらしく視線を下に向けた刹那が微笑む。
「はい。夜の街はどこかお昼とは違いますね。街の方から聞こえてくる声がなんだか賑やかです」
と声をかける刹那はどこか疲弊していた。
「そうやな……まだ平和やからな」
答え、屋上の外から見える街に視線を向ける。
「それとコレ飲むといい」
ポケットから取り出した魔力増進活力剤をヒョイと投げる。
受け取っては水が無くても飲める錠剤を呑み込む刹那。
「ありがとうございます」
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