第4話 後悔から生まれた目的
けど、俺の心は成長していた。
前いた世界のようにただ見て見ぬふりをするのでもなく、今回は向き合うことにした。唯の覚悟を踏みにじるつもりはない。だけど、最後に見せたあんな苦しそうな笑みなんかでお別れは後味が最悪すぎる。
俺の目的は決まった。
「唯さんを不幸にしたアイツら三人を必ず殺す」
俺は心に誓った。
大切な人を傷付けた代償は必ず払ってもらうと。
それは名家に生まれた者だとか、偽りの仮面を付けていることに気付かない連中が崇拝している者だとかも関係ない。ただ人として間違ったことを平然とし、それを権力で正当化しているアイツらを単純に許すことができないからだ。
唯が出て行った家のテーブルに先日の朝刊が置いてあった。
『女性拉致事件は野田兄弟にお任せ!』と大きな見出しがあった。
記事の内容を読んでいくに連れて腹がたった。
アイツらが犯人なのに下種野郎共らが事件を解決したと書かれていたからだ。
被害者の女性は唯。加害者は俺だった。
記事の内容は簡潔に言うならこうだ。
俺は唯を騙して二人で洞窟に入っていた。
その後、睡眠剤で油断した唯を眠らせ、行為を強行した。
その際、現場に偶然駆け付けた四人の魔法師パーティーは意識が戻り朦朧とする唯を救うため奮闘。その際俺は康太を殺し龍一を人質として逃走。野田兄弟は負傷した龍一の介護と唯の安全を確保する為、俺を追う事はしなかった。その後唯は安全な場所へと避難させ俺を指名手配する。
と、全てが捏造だった。
許せない――強くそう思った。
新聞の文字がところどころぼやけているのはこれを読んだ唯が泣いたからだと予想が付く。
だけど、これは好都合だった。
言い方を変えれば向こうも俺に用があるらしく、雲隠れされる心配はなさそうだ。
それにお互いの意見が一致する以上向こうの情報もある程度は入ってくると考えられる。
俺は家の中を歩き回ってある物を探し始める。
「これは!?」
『唯の下着だな。意外に派手なのが多いな』
俺は大きく咳ばらいをして急に出てきたもう一人の俺に言い聞かせる。
「言わなくてもわかる。てかなんで普段は出てこないくせに今はでてきたんだ?」
その質問には答えたくないのか、心の中でのリンクが強制的に切られた。
向こうからは自由自在に繋ぐことができて、こちらからは承認制でしかリンクできないとはなんとも不便な力であるし、なんか納得がいかないが、これがこの世界での俺に与えられたルールだというなら従うしかないのだろう。
適当に引き出しを開けたのがまずかったらしい。
念のために、今見た映像を脳裏にでも焼き付けておく。
え? いつ使うかだって?
ここは黙秘権を行使するって無駄か。
ある意味アイツは俺で俺はアイツなのだから。
だけど目の付け所は悪くないと思い、俺は部屋の中を捜索する。
しばらく探していると見つけた。
医療魔法を封印した巻物が入った救急魔法箱だ。
流石に大怪我しました。
これがあれば一安心なんてことにはならないが、俺の前いた世界でいう絆創膏、綿棒、湿布、ガーゼ、アルコールなどが入った救急箱のようなもの。
一つ違うのは魔法という概念がこの世界には存在し化学の力を併用することで巻物に簡易的な魔法を封印し誰でも開けば簡単に使える物があるというわけだ。簡単に言えば飲薬の魔法版と思ってもらって構わない。即効性と持続性を兼ね備えた錠剤や湿布の進化版とも言える。
「あった、あった、『鎮痛魔法改』と『痛覚麻痺魔法改』それと『初級回復魔法』」
どちらも数本あったので、この際全部貰っておく事にする。
魔法名の後に改とあるのは薬と同じく従来医療品とジェネリック医薬品のような感じで期待できる効果は似ているが違う、と言った所だと理解している。
医療系の魔法には詳しくないので、自信はないが間違っているとも思わない程度には知識が一応ある。
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