第2話 前世の記憶


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 三年前――異世界転生する日。


 俺は死んだ。

 恋人(麻美)に浮気され新しい彼氏と遊んでいる姿を偶然目撃してしまった。

 その日は一日仕事だと言われ、会えないと言われた。

 暇な俺は昼間の街を目的なく散歩して、彼女と会えない気分を紛らわしたのが全ての原因だった。午前中はガムシャラに歌い心のモヤモヤは大声を出して発散、午後は猫カフェに行き、大好きな猫との時間を過ごして少しでも心の安定を図った。夜は一人で贅沢をしようと外食。その帰り道偶然にも彼女が知らない赤髪の男とラブホから手を繋いで出てくるのを遠目に見てしまった。男の腕には龍の刺繡が彫ってあって神は赤色と見るからにチャラそう。


 もしかしたら似た人かもしれない。


 そんな淡い可能性を信じた俺は近くの物陰に隠れ、彼女に電話。

 すると遠目にいた彼女がスマートフォンを手に取り電話にでた。


 もしもし。麻美今何しているの?


 と、聞くと今仕事で忙しいからごめん後でかけ直すと言われ電話が切られた。

 すると、遠目に見えていた女の電話も終わった。

 間違いなく彼女――麻美だった。

 その後二人がなにかを話始めたが距離が合ってよく聞こえない。


「お願いですから、もう終わりにしてくれませんか?」


「お前にそんな権利はない。それとも約束を違えるつもりか?」


「いえ……今夜はずっと一緒に……います」


 放心状態になった俺はこの後どうしていいかわからず夜道をふらふらとした足取りで家まで動かしていると、クラクションの音が聞こえた。


 身体が宙に浮いた。

 そんな感覚と同時に俺は死を悟った。


 夜道だけでなく俺の最後を照らす明るいライトの正体は大型トラックだった。

 我ながら散々な人生だった。

 だけど、もういいや。

 彼女に浮気されたショックが大きすぎて俺はこの瞬間死を受け入れた。


 その時、声が聞こえた。


『お前を裏切った女と寝取った男に復讐はしたいか?』


 不思議な声だった。

 俺は鼻で笑った。


「あぁ」


『ふふっ、アハハ! いいだろう、その願いを受け入れよう。ただしお前は後悔と絶望に愛されていることを忘れるな。二度目はさてどうなるかな? ふふっ』


 その声は今でも俺の中にいる。

 姿は見えない。

 だけど、例えるならもう一人の俺として確かにいる。



 異世界転生時に与えられた俺のランクはEランク魔法師の称号。

 最高峰のSランクとはかけ離れた最低ランク。

 使える魔法は【火】【水】【風】【雷】【土】の五大元素の基本まで。

 それらとは別にオリジナル魔法――【文字】と【暴走】を異世界転生後に習得した。

 魔法は使用者の熟練度などに合わせた実力に応じて形を変える。

 例えば【火】。

 これは一般的な百円ライターなどで出せるような火力しかないのだが、これが進化して【火炎】になると火炎放射器程度の威力になったりする。

 さらに熟練度を極めればそれを遥かに超える威力にもなっていくらしい。

 これはもう一人の俺が教えてくれた。

 ただし、もう一人の俺はなんでも教えてくれるわけではないらしく、気まぐれでしか俺に助言をしてくれない。

 なにがオリジナル魔法――【文字】だ。

 正直言って弱すぎる。

 それに――可能性の問題として、もう一人の俺とオリジナル魔法にも繋がりがあるのかもしれない。


 最悪の夢(過去)を見た。


 そう思ったのは俺の意識が戻った瞬間だった。


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