裏切った者共に復讐するまで俺は止まらない~後悔と絶望に愛された男は藻掻く
光影
第1話 俺の師匠に手を出すな下種野郎共
『ふっ、だから言っただろ。お前に復讐ができるのか? と』
『昔は黙って見過ごすしかできなかった』
『今は護ってもらうことしかできない』
『臆病者、弱虫、弱者そんなお前になにができる?』
『もう一度問う。お前になにができる?』
――るせぇ、、、
骨が折れているらしく動くと激痛が走る。
魔力は残り僅か。
あと一回、あと一回、だけなら魔法が使える。
口で酸素を取り入れても上手く肺に入ってこない。
「おねがぃぃぃ、もぉやめてぇ!!!」
「へへっ、妊娠すればどの道責任問題で後は俺か兄貴と結婚するんだから諦めろ」
「やめてぇ! そこは触らないで!」
目の前で大切な人が仲間に裏切られ泣いている。
長く綺麗な髪を犬のリードのようにして扱われ、服を剥ぎ取られ男たちの玩具として扱われている。艶のある黒髪が台無しになり、身長も百五十八センチに対して体重が四十二キロと軽い為か簡単に引きずられている。
俺が仲間だと思っていた男共は仲間の仮面を被った悪魔だった。
――殺す。
――絶対に。
全身に力が上手く入らない。
師匠に手を出すというなら――。
「お前たちを排除する」
指先を動かし魔力を媒体に書いた文字は【暴走】。
それは冷たい底冷えした洞窟の地面に書かれた。
俺に扱うことを許されたオリジナル魔法――【文字】と【暴走】。
薄暗い入り口から差し込む僅かな太陽の陽が照らすは、性欲の化身となった小汚い男たちと俺を人質として抵抗することすら許されなくなった師匠――唯。
「いたいよ、いたいからぁ! いやああああああああ!!!」
今度を見据えた遠征だと騙された俺と唯。
見習い魔術師である俺では足手纏いでしかない。
それでも今後の未来を願い唯の意志に従い弟子として俺は同行した。
あの時同行を断っておけば、と言うのは後の話でしかない。
ただ見ているだけ。
力がないから。
何もできないまま後で後悔する。
「死ねばいいのに、皆、なにもかもが邪魔だ、殺してやる、ここにいる全員」
生に執着するな。
死を恐れるな。
『だったらどうする?』
魔力を使い書かれた文字を脳が認識。
脳神経を通して全身の魔力回路の制御が外れていく。
人間の限界を超えた先へ踏み込む俺の使う魔法は未完成が故――死と隣合わせ。
『面白い、死へ突き進め弱者!』
高鳴る心臓が全身の毛を逆立たせる。
全身を駆け巡る血がグツグツと熱い。
立ち上がり、落ちていたナイフを拾い背後から忍び寄って一人目の首を切る。
後三人。だが奥の二人はまだ距離があるため、すぐに気づくことはないだろう。
唯が泣きわめく姿を見て興奮し背後の存在に気付かなかった男は下半身を丸裸にしたまま哀れな姿で死んでいく。
胴体が地面に落ち、切断された頭部を持ち唯の元へ足を進める。
「あっ?」
「おい、お前ら死ぬ覚悟はできたんだろうな?」
「お、お前……ソレ」
俺が手に持っている物の正体に気付いたらしい。
頬を引きずり、震える指先で、死体となった仲間を見たからだろう。
「康太は死んだ。次はお前たちの番だ」
持っていた康太の頭部を全力で投げる。
人間の限界を超えた力で投げたことで、康太の頭部は目にも止まらぬ速さで龍一の身体に当たった。
魔法を使われたら劣等者である俺に勝ち目はない。
足の裏を爆発させたように狭い洞窟の中を駆け抜け、仲間の一人だった龍一に近づく。
「くっ、ファイナr――」
「遅い! よく見ろよ、下種野郎!」
右手に力を入れて全身の運動エネルギーを乗せて憎い顔面へと放つ。
ムカつく。
そんな怒りを含んだ拳は痛みを感じない。
「いてぇ、てめぇ……えっ?」
次の瞬間、龍一の悲鳴が洞窟内に響き渡る。
その悲鳴を聞いたことで残りの二人が異変に気付く。
――ぐさっ!
拳に続いて出た左手。
それが掴んだ物を放り投げる。
唯の未来を奪った連中に明日の光はいらない。
「うわあああああああ、俺の目がああああ目があああああ!!!!」
左目を取られた龍一がダンジョンの床で泣きわめく。
理性が飛んだ俺はなにも思わない。
悪党は報いを受けて当然だと思ったからだ。
もっと言えば、下種野郎に興味はない。
問題は俺の目の前で何が起こっているのか状況整理を始めた主犯格の二人。
兄弟揃って短髪で金髪。
腕には龍の入れ墨を入れた如何にも不良少年の二人組である。
「唯に振り向いてもらえなかった? そんなくだらない理由でさっきお前たちは俺たちの良さを知ってもらうための調教だと言ったな? だったら、俺のくだらない理由で死ぬことになっても文句はないよなぁ!?」
「バカめ。カスみたいな命を今さら賭けた所でなにも意味がないと知れ。――万物の動きを止める万能の鎖は絶対的な支配者の象徴であり抑止力となる――チェーンディストラクション!」
クソ野郎の一人が魔法名を口にした。
なにもない空間から異次元より出現した小さな手のひらサイズの魔法陣を経由して俺の身体を貫く一本の鎖。
鎖は触れている者から魔力を吸う特殊な鎖で魔法耐性があり簡単には壊せない。
普段なら激痛が全身を襲う。
だけど今は――純粋な怒りが痛みを凌駕して俺の痛覚を正常な判断から遠ざけている。
身体から湧き水のように零れ落ちる赤い血は命の源。
だけど、そんな物……今はどうだっていい!!!
価値のない水は所詮ただの水。
価値ある水の為なら今の俺はなんの躊躇いもなく死ねる!
――タッ
鎖が抜けないなら貫いたままでいい。
「正気の沙汰じゃねぇぞ!?」
「く、狂ってやがる」
驚く下種野郎二人は煙玉を地面に投げつけ、俺の視界を奪う。
対象を見失った俺の隙をついて負傷した龍一を抱えて逃げたのだろう。
白い煙が晴れた時には、もう誰もいなかった。
そこには泣き止んで綺麗な顔を台無しにした全裸の唯と俺だけがいた。
綺麗な柔軟な肌は殴られ蹴られた痣と傷跡で見るに堪えない。
しかし唯の危険がなくなったと安堵した瞬間、俺の意識は徐々に薄れていく。
師匠にして、異世界転生した何も知らない俺を拾って、住処を提供し、この世界のことを教えてくれた、この世界で初めての家族に俺は――酷く懺悔した。
「せつなぁ!」
それがこの世界での俺の
この世界での年齢は生前居た世界と同じ二十四歳で身長百七十二センチの体重五十二キロと細身の筋肉質で容姿も平凡と冴えない男である。
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