第10話 妹と水族館

「ただいま。」


 佐川に犯人に仕立て上げられたので、遅い時間に帰宅になってしまった。今日は、色々ありすぎて流石に疲れた。


「遅い」

  

 リビングに入るとソファーでスマホを触っている妹にいつも通り悪態をつかれた。最近、よく妹から話すようになってきたが、いつも機嫌が悪い。


 今も、スマホを置き、頬を膨らまして文句を言ってきてる。


「何見つめてんの?気持ち悪いからやめて。」


 あんなことが起きてからの、この追い打ちはきつい。


「…ごめんな。」


 いつもの調子が出ず、弱々しい返答になってしまう。こんなんじゃ、妹に心配されてしまう。


「…謝らなくても良いけど……何かあったの?」


「いや、言う程のことでもないから。」


「うるさい。黙って言って、」


 妹は少々キレ気味で聞いてきた。そりゃ、見るからに気分が落ち込んでいる人が『何もない』って言われたら気分を害するのも当たり前だ。


 一応、今のままでは俺は人から金を奪った悪者だ。幸いなことに、俺と茜が兄弟だと知っているのは前川と茜の友達の数人だけだが、それでも多少なりとも迷惑はかけてしまうだろう。


 言ったほうが茜のためにもいいのだろうか?


ん?なぜ一緒に登校したりしているのに兄弟だと知られてないのかって?


 いつも、登校を一緒にしてはいるが最後の最後のところで別れるし、下校に関してはいつも茜は友達と帰っているから一回しか一緒に帰ったことがない。


 その一回に関しても、次の日は茜の学年では噂がすごかったらしいが、人の噂はなんとやら、すぐに噂は消えてくれた。結局、俺のところまで茜との関係を聞きにくるやつなんていなかった。


 事件については、家族ではあるので言ったほうがいいのだろうけど、心配もさせたくない。後、弱いところを茜に見せたくないのも少しある。


「早く言って」


 妹が急かしてくる。足を、鳴らしながらタイムリミットのように刻んでくる。結局俺は、妹の圧に負けてしまい今までの経緯を説明した。


「...ふーん、で、一ノ瀬って女?」


「え!?...うん。女だけど」


「へー、どういう関係なの?」


 妹の目からどんどん光が失われていく。俺は、もっと他のことを聞いてくるかと思ったが、茜は一ノ瀬のことが気になるらしい。


「関係って...最近友達にはなったけど」


「友達.......ねぇ、明日から学校行きづらいでしょ?」


「まぁ、行きづらいっちゃ行きづらいな。」


 そりゃ、犯人扱いされた翌日なんて噂が広がっている最中だから、そこかしこから後ろ指をさされるだろうからな。


「じゃあ、休もう。私も休む。」


「いや、ズル休みはダメだろ」


「うるさい、明日は休むよ。」


 そう言って妹は自分の部屋まで上がっていく。本当に勝手なやつだ。俺が休むのは少しは理由がわかるが、茜は休む理由ないだろ。


 まぁ、それでもかわいいんだけど...









「早く行こ、」


 やってしまった。


 俺は、結局妹の意見に逆らえず、仮病を使い遊びにいくことになった。今まで、先生や学校の言うことを聞かなかったことがあまりないので、罪悪感と少しの興奮を覚えている。


「で、どこにいくの?」


「水族館、小学生の頃行ってた所。」


「あー、あそこね。」


 俺たちは、電車を使い水族館まで移動した。移動中、茜はずっと一ノ瀬の性格から顔まで聞いてきた。


「ん?ライン来た」


 久々にラインが来たことに感激しつつ、どうせ前川から来たのだろうと予想がつくのが悲しい。


『大丈夫か?』


 いい友達を持ったものだ。だが、前川よ。俺らの学校は、スマホ持ち込み禁止だったはずだぞ。


『大丈夫。ただ、気晴らししたかっただけだから。』


『お大事に』


「誰?一ノ瀬さん?」


 一ノ瀬好きすぎだろ。


「違う違う、前川から。一ノ瀬さんとはライン繋いでない」


「...スマホ昨日見たから知ってたけど」


 とてつもない言葉が聞こえた気がしたけど、おそらく前川とのラインを見ていたのだろう。流石に、俺が知らない間に俺のスマホを見ていることなんてないはずだ。俺のスマホのパスワードも知らないはずだし...


それにしては、『昨日』と言う言葉が引っかかるけど気のせいだろう。


「ねぇ、ついたよ」


「着いたな。まず何から見る?」


「イルカショーまで時間あるからラッコ見に行こう。」


 茜は、俺の手を掴んで先に引っ張る。


 何年ぶりだろうか?茜と二人っきりでこういう風に遊びに行ったのは、かなり懐かしく感じてしまう。


「そうだな、ラッコ見にいくか。」


「久しぶりだ。みーちゃん。懐かしいな。」


 茜は、目を光らせながらラッコを凝視している。こう見ると最近の悪態をついている茜も本質は、昔から変わってないことが感じられる。ただただかわいい。


「久しぶりだな。」


「うん。かわいい」


「茜ほどではないけどな」


 茜が、昔の反応ばかりするからいつものノリで返してしまった。妹だとはいえ、義理だ。あまり、かわいいなんて言わないほうがいいのに...


「えっ...うるさい、シスコン!」


茜の方も久しぶりだからか少し驚いていた。


 どちらも顔を下に向けてしまう。いらないことを言ってしまったので気まずくなってしまった。


「お、お兄ちゃん!ドクターフィッシュいるよ。やっていい?」


「お、おう」


 少しぎこちない会話になってしまう。兄なのに妹に気を遣われてしまった。


「...あっ、ちょっと、んっ、くすぐったいんだけど。」


 茜は、ドクターフィッシュに噛まれているだけなんだが、声もあいまり少しのエロさを醸し出している。


 近くにいた人々もこちらをチラチラ見てくる。中にはずっとこちらを見てくる気持ち悪い中年男性もいる。


「茜、もう直ぐイルカショーだからいくぞ。」


 茜をジロジロ見られるのも嫌だったので、少々強引に茜をイルカショーのところまで連れて行った。


「......ありがと」


 茜も、ジロジロ見られているのに気がついていたのか感謝される。久しぶりに感謝された気がする。









「気晴らしになった?」


 茜が、家に帰る途中で聞いてきた。茜は茜なりに俺のことを心配してくれたらしい。


「ありがとな。気使ってくれて。」


「...ん、」


 恥ずかしいのか顔を合わせずに返事をした。


「え?誰かいない?」


「ほんとだ。誰だろ?」


 俺たちの家の前に人影が見える。俺たちが話しているのを気づいたのか家の前にいる人もこちらを向く。


「あ、やっと帰ってきた。」


 家の前にいた人は、一ノ瀬さんだった。一ノ瀬さんは、俺を見た後に茜を見ると途端に嫌な顔をする。


「えっと、この子誰?休んでいたのに彼女と遊んだりするのはどうかと思うな。」


 少しいつもより低いトーンで話しかけてくる。俺の勘違いかもしれないが、少し怒っているようにも、泣きかけているようにも見える。


「違う、違う。俺の妹」


「あ〜、妹さんね。」


 妹だと分かった瞬間今までの雰囲気がガラリと変わり今までと同じかそれ以上に優しくなった。


「で、なんか用事か?」


「...用事がないときちゃダメなの?」


 一ノ瀬さんは、上目遣いで聞いてくる。こういうの無自覚でやっているなら本当にやめてほしい。マジで勘違いしてしまいそうになる。


「...ん。きちゃダメ。」


 え?


 どう答えようか迷っていると横から急に横槍を入れられた。犯人はもちろん茜。


「妹ちゃんには聞いてないんだけどな〜」


 これを聞いた一ノ瀬も皮肉った言い回しをする。


あの〜、君たち初対面だよね?茜はなんでそんな喧嘩腰なの?


なんか嫌な予感しかしない。


________________________________________

星300ありがとうございます。

次回はついに初めての修羅場






 










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