第6話 一ノ瀬さんと徹底口論

 やっぱり俺は変わってない。あの時から何も…


『茜‼︎ごめんな、茜。守ってやれなくて本当にごめん』


 走馬灯のようにあの日のことを思い出す。あの日俺は決心した。もう2度と後悔しないような選択をすると…


 でも、結局は何も変わってない。昔から一つも…


「落ち込んでいるのか知らないけど朝からその顔見ると気分が下がるからやめて。」


 リビングで思い詰めていたせいか茜が心配?してきた。


「あぁ、ごめん…」




「…あぁ‼︎もう、焦ったいなぁ。…早く何に困ってるか言って‼︎」


 俺が本当に落ち込んでいるのを感じたのか茜は相談に乗ってくれようとした。やっぱり茜は、優しい。


「………いや、あのさ。もし、もしも自分が助けようとした子に『助けられると困る』って言われたら茜ならどうする?」


 少しでも、共感されたかったのかもしれない。自分が助けなかったことを正当化したかったのかもしれない。真意は自分でもわからないが、気づいたら俺は茜に相談していた。


「…そんなの状況によるよ。」


 茜が、一つ一つの言葉に注意して喋っていることがわかる。


「友達だと思っている人から悪口を叩かれていた。でも、その子は見て見ぬ振りをしたかった。そんな感じの状況だったとしたら?」


「……それだったら助ける、と思う。その友達から離れさせた後で新たな友達を作れるように手伝う。多分、その子の『助けて欲しくない』は嘘だと思うから…」


 茜が、そう言ったことに少し驚いてしまう。昔の茜なら多分助けなかったからだ。


(そうだよな。茜もからもう前を向いてるんだ。)


「茜は、強くなったな。」

「なんなのそれ」


 確かに、俺も『助けて欲しくない』という言葉が本当ではないことは薄々感じていた。だが、弱い俺は何もすることができなかっただけだ。


 結局、『助けて欲しくない』という言葉で言い訳をして、助けれなかっただけだ。一ノ瀬自身から嫌われることを恐れて一ノ瀬を助けようとしなかった。変化を恐れただけだ。


 こんなんじゃ、また昔のようなことを繰り返してしまう。茜を助けることができない。


「茜、話聞いてくれてありがとな。じゃあ、学校行ってくるわ。」


 俺は、もう一ノ瀬から嫌われても一ノ瀬を救い出す。そう決心をした。









 俺は、学校で奈々ちゃんと呼ばれる人物を探す。2-bに行ってみたが一ノ瀬も奈々ちゃんもいなかった。


(一ノ瀬たち今日休みとかないよな…)


 そう考えながら体育館裏を見に行くと話し声が聞こえてくる。


「ねぇ、一ノ瀬。今、私お金ないから1万だけ頂戴。お願い。」


「…今、一万ない」


「じゃあ、財布にあるだけでいいから。ねっ、」


「…分かった。」


そう言って、一ノ瀬は財布から五千円を取り出して渡していた。


(覚悟を決めろ。俺は、助けに行く。)



キュッ

  

 どう助けようか考えていたら、俺の靴が地面と擦れてしまい音が鳴ってしまう。


「誰?」


(やばい、アドリブで助けないと…)


 俺は、何も考えずに姿を現す。一ノ瀬と奈々ちゃんは、両方驚いたが、奈々ちゃんは少しすると安堵した表情になる。


「…なんだ、如月かよ。この件について口に出したら殺すから。」


「………一ノ瀬から五千円もらってたじゃん?それ返してくれない。」


「何?正義のヒーロー気取り?」


「…ちげぇよ。それは、俺の五千円だから。」


 この時の俺は、何をとち狂ったのか悪役ムーブで助けようとしてしまった。持ち前の強面でどうにかなると思ったのだろう。


 最近、悪役者に転生するラノベを読みすぎてそっちの方が自然だと思ってしまった。


「は?え?どういうこと?あんたも一ノ瀬から金取ろうとしてたってこと。」


「ぐちぐちウルセェな。早よ返せ。返さないと手出すぞ?」


「…チッ。はい。これでいいんでしょ。覚えておけよ。」


 彼女は、五千円を俺に押し付け逃げ去ってしまった。最後の『覚えておけよ』が、少し気になったが思った以上に順調に物が運んだので良かった。


「…どういうつもり?助けなくていいって言ったよね。」


 (おっと、まだ面倒ごとが残ってあった。)


 一ノ瀬が、殺すような目でこちらを見ている。


「いや、えっと、」


「同情とかならふざけないで。あんたの同情のせいでクラスで孤立する。また、一人ぼっちになってしまう。」


「…いや、あんなの友達じゃねぇだろ。」


「……うるさい‼︎そんなの分かってるよ。私だって。でも、…あんたには分かんないだろうけど、孤立するって本当に悲しいの‼︎何も知らないあんたが勝手なことすんな‼︎」


 一ノ瀬は、息を切らしながらそう言った。

 

 いつも無表情だったのでこんなに感情に出していることに面を食らう。


(どうすれば、一ノ瀬を助けることができるんだろうか。)


「…じゃあ、俺と友達になろう。」


「は?」


「俺と友達になれば一ノ瀬は一人ではなくなるじゃん。」


 俺は、喋るにつれてものすごく恥ずかしくなってくる。


 (すげぇ、カッコつけてることになっちゃったなぁ。これ、絶対にイケメンに限るってやつだよな…)


「…」


(ほら、一ノ瀬も無言になっちゃった。引いてないよね⁉︎)


「俺と友達になって毎日登校して毎日喋って毎日一緒に帰ろう。そして、俺の友達とも仲良くなってみんなで遊びに行ったりしよう。」


 ヤケクソになった俺は、滅茶苦茶恥ずかしい言葉を連発する。


「…なにそれ。言ってて恥ずかしくないの?」


 一ノ瀬は、下を向きながら俺にそう言う。


(やっぱり引いてんじゃん‼︎もう、俺と顔も合わせたくねぇってか?まぁ、いいよ。絶対に一ノ瀬に付き纏ってやるから。)


 一ノ瀬は、無言で帰り道を歩きながら最後に俺の方に振り向く。


「約束は守りなさいよ。絶対に。守らないとキレるから。」



 その顔は、今まで見てきた中で1番綺麗だった。


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星100ありがとうございます。最初の小説なので目標が星100だったのですが、超えてしまって驚いています。


 今回の話は、少し自分的にも悩んでしまい中3日だったところが中4日になってしまいました。なので、次の話は中2日にして水曜投稿する予定です。


(ちょっとネタバレ)次の話は、『覚えていろよ』と雑魚ムーブをかましてくれた彼女の逆襲劇となります。










 

 

 

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