第10話

初夏の匂いがし始めた。私と青羅が付き合って、もう1ヶ月。私は、美術室で青羅と思い出話に花を咲かせていた。

お互いの第一印象、初デート、初キス、手を繋いだ日…。今思えば、初々しい恋だったね。と、二人で笑う。こんな日がずっと続くと思っていた。

──1ヶ月後、私は、美術準備室に呼び出された。私の、私達の、思い出の場所。そこで告げられたのは、あまりにも残酷な事実だった。

「俺の命は、あと3週間で消える。」

アト、サンシュウカン。あと3週間で青羅は死ぬ。それを理解するのに、数秒かかった。

「そんな。ウソ。なんで…。」

「遺伝性の心臓病…だそうだ。俺も、2ヶ月前に知った。ごめんな。黙ってて。」

二ヶ月前…青羅が、私を美術室に呼び出した日。じゃあ、青羅は、自分が死ぬ前に私を助けようとしたの?

「自分の命は数えられるほどしかないのに、なんで私を助けたの?」

「兄ちゃんみたいにならないって決めたから。でも、余命は、水乃を大切にするって決めたときに言うつもりだったんだけどな。こんな直前になってごめん。俺は忘れて、お前の幸せな人生を歩んでくれ。」

「無理だよ…。私はもう、青羅が大好きで、大切で、たまらないんだよ?それに、希望を私にくれたのは青羅じゃん。一人だけ先に逝くなんて、ずるいよ。これから、私はどうやって生きていけばいいの?」

「大丈夫。もう水乃は、ひとりじゃないから。俺がいなくても、ちゃんと生きていける。」

そう言って、青羅は優しく私をなでた。でも、そんなこと言ったって…

「無理だよ…。」

「じゃあ、俺が生きられるようにする。」

「でも、もうすぐ、いなくなっちゃうんでしょ?青羅、本当の残りくらい、自分のために生きてよ。」

そう言うと、青羅は小さく笑って、

「水乃が生きるためなら、なんでもする。それが、俺の残りの命の、一番有意義な使い方なんだ。」

と、少し悲しげに言った。

「私が、生きる気にならないかもしれないよ?」

「俺なら出来る。」

「…わかったよ、青羅。でもね、後悔だけはしないで。私が、辛いから。」

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