第8話
「…っ、お前はお前じゃないのかよ!!優等生の星崎じゃなくて、毎日を単純に楽しむ、ありのままの星崎でいられないのかよ!!嬉しければ笑って、悲しければ泣いて、嫌だったら怒れよ!それが、ありのままってことだ。生きるってことなんだよ!!」
二人しかいない美術室で、青羅は話し続ける。自分が、自分のために優等生でいる理由を探して、伝えようとする
──私は、お母さんのために、優等生でいるの。
その時、青羅がまた話し始める。
「だから、そんな病気になるんだ!お前が本当の自分を隠したから、他の人を隠されたんだ!」
「うん、そうかもね。私はずっと隠してた。みんなと、仲良くするために。優等生で、いるために。」
「…だれも、偽物のお前と、仲良くしたいなんて思ってねえよ。」
その時私は、まるで“偽物”の2文字が私を表しているかのように感じた。「ああ、私は、偽物だったんだな。」って。そして、全てが他人事のように見えた。もう、何も、感じなくなっていた。きっともともと偽物の私が、本物のふりをやめたからだろう。
「…偽物を演じているお前が一番苦しいはずなのに、なんでいつも、笑うんだ?」
悲しそうな、不思議そうな目をした青羅からそう言われた。答えはもちろん、「苦しくない。」のはずだった。私は、優等生だから。でも、あとからあとから、言葉が溢れ出してきた。
「苦しくない、の、かな。わたしは、優等生だから。だから、こんなことで、苦しいなんて、言ってられなかった。笑うしか、無かった。でも、本当は、本当は!ずっと、ずっと、苦しかった。深海にいるみたいだった。抜け出し方もわからないような、深い、暗い水中で、ずっともがいているみたいだった!助けて、欲しかった…。」
どこからか、声が聞こえた。ああ、情けない。こんな姿を見せるなんて…。
「ごめんね。青羅、こんなの、情けないね。かっこ悪いね。」
「どこが、情けないんだ。本音を出したお前は、俺には、かっこよく映った。」
…かっこいい?私が?あんな、惨めな姿を見せた私が?
また、声が聞こえる。かっこいいわけ無いじゃん。あんたは、泣いたんだよ?人前で。
それを聞いて、私は乾いた笑いを漏らす。
「はは、こんな私でも、かっこいいんだね。ああ、でも、お姉ちゃんだったら、もっとかっこ良かったんだよ。私しか知らない青羅は知らないだろうけど…。お姉ちゃんは、本当に、かっこいいんだから。人前でも泣かないし、楽器も上手だし、勉強もできるし…。もういないけどね。え、あれ、私は、なんで生きてるんだろう。お姉ちゃんが生きていなきゃでしょう?ここには、お姉ちゃんがいるはずなのに。なんで、なんで、なんで…」
「星崎、落ち着け。お前はお前だ。ここにいていいんだ。」
優しさを帯びた青羅の声が聞こえる。
その時、私の心に、誰かが話しかけた。
──水乃、大丈夫?おねえちゃんが、いるからね───
「っ────!!」
「星崎!?」
視界が揺れる。色が、激しく揺れる。漏れ出た1滴の色が青羅の顔に飛んだ瞬間、花火のように、色がはじけた。そして───
「──ああ、そうだ。私は、水乃。お姉ちゃんの…星崎瑞希の妹、星崎水乃だ。」
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