第5話

「無い…。無い!!」

青羅からもらった、この世に一つしか無い大切なキーホルダー。あれを落とすなんて、見つからなかったらどうしよう。何よりも、大切なのに。

「…ねえ、星崎さん。」

突然、背後から声をかけられる。

「…なに。」

焦っていて振り返りもせず返事をすると、返ってきたのは予想外の言葉だった。

「…これ、違う?落ちてたんだけど。」

そう言って差し出されたものは、あのキーホルダー。見た瞬間、人魚と水面が目に飛び込んだ。

「拾って、くれたの?よかった。」

顔をあげると、そこには、日麻くんの姿が。

「日麻くん、届けてくれて、ありがとう。」

たとえ相手が日麻くんでも、心からのお礼を言う。本当に、もし見つからなかったら、きっと一生引きずっていただろうから。

「うん。…それ、青羅が描いたやつだよね?」

「うん、そうだよ。何でわかったの?」

「…僕の隣で、ずっと描いてた。大切そうに、青羅には似合わないくらい、丁寧に…。ねえ、青羅のことが好きなの?」

あの青羅が、丁寧に、かぁ。って、え?

「私が、青羅のことが、好き?嘘でしょ?そんなわけないじゃん。」

「よかった。じゃあ。」

そう言って、日麻くんは私の手を握り、目を合わせた。

「よかったら、僕と──、」

ガラッ

「おい、星崎…って、夏野?なんで星崎と一緒にいるんだ?というか、夏野、お前何してんだ?」

青羅が入ってきて、すっごい驚いている。そりゃそうか。でも、無言で夏野くんを私から引き離してくれたのには、本当に感謝。でも…。

「それで、日麻くん。続きは?」

「…っ!…僕と…」


「僕と、付き合って下さい。」


日麻くんらしからぬ、素直で、真っ直ぐな告白。でも…。


「ごめんなさい。それは、できません。」


「…なんで…。」

「だって、日麻くんのせい…って言ったら、日麻くんが可愛そうだね。でも、私は、日麻くんのせいで、長いこと傷ついたままだった。それは、変わらない。たとえ、日麻くんのせいじゃないとしても。」

そう、私は、ずっと長いこと、傷つき続けてきた。やっぱり、日麻くんがずっと私の隣にいるのは、少しモヤモヤしてしまう。モヤモヤしたまま一緒にいるのは、日麻くんにも悪い。

「そっか。わかった。」

「…じゃ、星崎、借りてくわ。」

そして、私は青羅に連れられ、屋上までやってきた。

「…それで、青羅はなに?」

「あー、いや、打ち上げ、行くのか聞きに来た。」

「打ち上げなんてあるんだ。」

「あんなことあったし、落ち着くまでゆっくりしてても…。」

「うーん、どっちにせよ行けないんだよなぁ(笑)」

「…何で?」

「勉強しないと。私、頭悪いから。」

「お前、成績めっちゃいいじゃん。」

「…努力、してるんだよ。」

お姉ちゃんみたいになりたくて、なれない勉強をたくさん頑張ってるんだよ。…だって、お姉ちゃんにならないと、お母さんは




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