第4話

私は、頬につたう水滴の感覚で現実へと戻った。知らぬ間に、泣いていたみたいだ。そのくらい、辛かったから。ふと気づくと、文化祭は終盤に近づき、お化け屋敷につめかけていた生徒も、まばらになっていた。そのとき…

「マジ怖かったんだけど〜!!もー、彼氏ときたかったなー。」

「彩花、彼氏いないでしょー!」

あ…。彩花だ。あの子は、別の友達だよね。…私達といたときより、楽しそう。でも…

「ね、ねえ、彩花。」

「あっ…。あ、み、みずじゃん!どうしたの?」

「ちょっと、きて。」

そう言って、彩花を空き教室へと連れ込んだ。

「こんなとこまで連れてきて…今さらなに?」

彩花をちゃんと見れず、うつむいたまま話す。

「あの、彩花、ごめんね。私が、ちゃんと意見言えないから、喧嘩しちゃって、あの、よかったら、」

最後まで言えていないのに、舞菜が話し始めた。

「あー、あれね。私も、悪かったし、友達に戻りたいな〜って思い出したんだよね。」

「…!ほ、ほんと?きっとまりもそう…」

「とか、言うとでも思った?」

彩花の顔が変わった。

「…え?」

「え、逆に、許すと思ってたの?」

そう言って、彩花は私を突き飛ばした。私は床に打ち付けられ、全身が痛む。

「私は、もう、ずっと前から2人といるときはつまらなかったの。それでも、一応友達でいた。腐れ縁ってやつ。でもさ、こないだ、2人して私を悪者にしたじゃん。寂しかったよ。友達だと思ってたのに。」

無表情になった彩花がまくし立てて、教室を出ていく。

──ああ、私は、ずっと彩花を苦しめていたんだな。

彩花の目を覆う色は、もちろん、赤か青…そう思っていたのに、顔を上げた私が目にしたのは…

3色が、まるでクレヨンをめちゃくちゃに描いたように、バラバラに彩花の目に描かれていた。

これまで、こんなことなかったのに。

「誰かに、話したいな…。辛いよ。誰か、私を助けて。」

そう思って、真っ先に思い浮かんだのは、苦手なはずだった青羅だった。


「…あれ?」

彩花と別れたあと、私はあることに気がついた。

「無い。キーホルダーが、無い。」

さっきまで持っていたはずのキーホルダーが、なくなっていたのだ。青羅がくれた、人魚のキーホルダー。きっと、さっき彩花に突き飛ばされた衝撃で落ちたのだろう。…探しに行かないと。

いつの間にか、私にとってあのキーホルダーは、大切なものになっていた。きっと、彩花との思い出よりも。

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