第3話

明るくて、誰からも好かれる舞菜と、暗くて、誰とも関わらない私。そんな私達が上手くやっていけていた理由は、他でもない、“絵”だった。

初めは外で遊んでいた私達。でも、だんだんと、中遊びの頻度が高くなっていった。そして、が訪れる。

「ねえ、みずちゃん。いっしょにおえかきしない?」

二人で、お花の絵を合作することになった。まいちゃんはたんぽぽ。私はチューリップ。二人で描いた絵を見たとき、驚いた。

「…ぴったりだ!まいちゃんのたんぽぽも、私のチューリップも、上手でかわいい!!」

私達の絵は、驚くほど似ていた。二人で喜んで、お互いを褒めあった。それからは、毎日のようにいっしょに絵を描いた。まいちゃんと笑い合って、先生から褒められて、私はその時に、絵が大好きになった。


ある日、いつもと同じように、まいちゃんと絵を描いていると、いつもよりまいちゃんの絵が下手なことに気づいた。幼い私は、上手な絵しか描きたくなかったからなのか、

「今日のまいちゃん、おえかき上手じゃない。今日は、いっしょに描かない。」

そう言って、ひとりで絵を描こうとした。するとまいちゃんは、ひどく傷ついた顔をしたあと、

「…もう、みずちゃん嫌い!いっしょ、遊びたくない!」

そう言って、他の友達と外に行ってしまった。その日、私は初めてひとりで絵を描いた。

しかし、小さい子というのは単純で、まいちゃんは次の日には忘れて、けろっとした顔で一緒に絵を描いていた。まいちゃんの絵の調子は変わらずだったが、私の頭の中ではずっと、「もう、みずちゃん嫌い!」が、繰り返し繰り返し響いていて、「おえかき上手じゃない。」なんて、言えなかった。言ったら最後、もう、私達は二度と友達に戻れないような気がしたから。


そうして私達は同じ小学校に進んだ。私の根暗には拍車がかかり、常に休み時間は絵を描いているような子だった。そんな性格だからか、3年生ではいじめを受けていた。それでも私は、まいは、舞菜だけは味方でいてくれると信じて、毎日家に行き、一緒に登校し、別のクラスであろうと話しかけにいった。舞菜も、私と友達でいたいと思っていると、信じて疑わずに。

「ねえ、みず。もう話しかけないでくれる?迷惑。」

そんな言葉を投げかけられた。いつものように舞菜のクラスに遊びに行ったときだった。

「…な、んで…?」

「みず、変なことばかりしてるんでしょ?美奈実から聞いた。」

美奈実。私をいじめるグループの中心の子。あの子は、私が絵を描いていると、「変な絵〜(笑)」と言ったり、破いたりしてくる。本も、たくさん捨てられた。…なんで、そんな子の言葉を、信じるの。

「…ああ、そっか。所詮私も、舞菜の友達cだったわけね。…美奈実の方が、合いそうだもんね。ごめんね。こんな私で。」

そう言って、私はいちど、舞菜との縁を切った。このときは、もう二度と会うもんかと思っていた。


しかし、2年も経つと、少しだけの存在が懐かしく、そして、友達に戻りたいな〜とか思っちゃってた。舞菜も同じだったみたいで、ある日、突然私のクラスに来て、

「みず、ごめん!私、やっぱりみずと友達がいいよぉ〜。」

と、泣きついてきた。私もごめんねと言って、私達は仲直り。中学校では、一緒に美術部に入った。しかし…

「舞菜、どうしたの?」

部室に来ても、舞菜はぼうっと一点を見つめているだけ。理由を尋ねても、首をふるだけ。さすがにおかしいと、視線の先を辿ると、

「…もしかして、先輩が好きなの?」

舞菜に尋ねると、その瞬間、顔を真っ赤にしてうつむいた。もう決まりだ。でも、あの先輩は、部活をサボり気味の、来ても部長を困らせるだけの、お荷物部員。あんな人とは、くっついてほしくないなと、親切心で、親切のつもりで助言したのが、間違いだった。

「ねえ、舞菜…。あの先輩、いつもサボってるじゃん。私はあんまりいいと思わないな〜。」

そう言うと、舞菜は、途端に顔を別の意味で真っ赤にして、

「はあ?何言ってんの?普通、親友の恋にそんなこと言う?…友達だと、思ってたのに。」

そう言った。

「そ、そんな、そんなつもりは…」

「そんなつもりしか無いでしょ。さいってい。もう、関わってこないで。連絡先も消すから。」

そう言って舞菜は、部活もやめ、私とも関わらなくなってしまった。

──そして、私はあの日から、“親切心”というのを、出さないように生きている。あんなもの、人を傷つけるだけだから。

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