第4話 詰問

 何を着ていこうかと迷ったけれど、結局ボタンダウンとコッパンという普通の姿で行くことにした。

「榊原君」

 店の前で徳田裕美は待っていた。彼女のスタイルは流行のニュートラ、というのだろうかワンピース姿だ。ちょっと古風な顔立ちの彼女に似合っている。


「お久しぶりです」

「お久しぶり、無事に帰りついたんだね。電話では話したけど、逢って安心した」

 え、そんなに心配してくれたんですか、それって。潤は少しばかりドキドキした。

「だって、運転が危なかしかったから」

「自分でもそう思ったんで、帰りもフェリーにしました」

 裕美はニコッと笑った。

「こんどツーリング行こうか」

「バイク乗るんですか?」

 意外だった、次の言葉にもっとびっくりした。

「うん、百二十五だけどね」

「原付じゃ追いつきませんよ」

「後ろに乗ればいいじゃない、それに小型取ればバイク貸すよ」


「後ろですか、徳田さんの彼氏に怒られそうだからやめときます」

「そんなのいないよ、だから服部君誘ったんだ」

 裕美はそういうと恥ずかしそうに舌を出した。

「これも何かの縁だなって思って」

 あとは何を話したかを覚えていない、それぐらい彼女の笑顔に吸い込まれてしまった。


「潤、おはよう、昨日どうだった」

 珍しく里美が家の前で待っていた。駅で会うことはあっても、家の前で待っているのは高校の入学式以来のような気がした。


「え、特に何も、無事に帰ったかを確かめたかったんだって」

「それだけ?」

「うん、あとは大学の話とかかな」

 なぜかツーリングの話はしない方がいいだろうと思った。

「ふうん、そうなんだ」

 里美はもう少し聞きたそうだったが、潤は来週から始まる試験に話題を変えた。

 電車の中でも、高校までの道でも、会話があまり弾まない。どうしてかわからない。

 今まで、里美と歩いていて会話が続かないというようなことはなかった。


「じゃ、また」

 下駄箱のところで別れるときに、いつも言う言葉なのに今日はそれっきりになりそうな気がした。

 授業中にぼんやりしていると、裕美の顔が思い浮かんだ。一緒にツーリング、後ろに乗ればいい。

 裕美さんに抱きつくのか、嬉しいけれどちょっとみっともないかもしれない。そのうちに自動二輪を取ろうかな、そんなことを考えていた。


 帰りも、次の日の朝も里美と顔を合わすことはなかったが、まあそんなこともあるだろう。特にする話もなかった。

 今頃、裕美は何をしているかな、気が付くとそんなことを考えていた。


「服部君、ちょっといい」

 里美と話をしなくなって三日目に、潤は高瀬と岩谷に下駄箱のところで呼び留められた。

 二人は中学の時からの里美の友達だ。


「里美のこと、どう思っているのよ。彼女泣いてるよ」

 二人はきつい口調で言う。昔からこの二人にはたびたびやり込められている。

 だけど、今日は詰問されるような覚えはない。里美が泣いている? 何を言っているのかがわからない。


「どうって、友達だろ」

「友達ぃ、あんた、あの子の気持ちに気付いていなかったって言うの?」

「あの子、あんたに合わせたくてバイクの練習したんだよ、擦り傷つくって」

「なに、その大学生選んで里美のこと捨てるの」


 話が分からない。大学生というのは裕美さんのことだろうか、里美のやつ何を話したんだ。


「そんなことお前らに関係ないだろう、ほっとけよ」

 潤はこれまで女子を相手に声を荒げたことはなかった。それだけに二人はびっくりしたようだ、おびえた表情をしたが、知ったことじゃなかった。

 航は手荒く下駄箱を占めると、後ろも見ずに立ち去った。



 






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