第36話

これと言った趣味もなかった私だったが、

今は釣りに夢中だ。



もう何時間経ったんだろう?

隣の釣り竿の浮き輪が、上下に揺れている。



夫 おい


妻 わぁ、魚!



麦わら帽子の隙間から覗く妻の笑顔が、懐かしくて、愛おしい。



妻 釣れた!早くしてよ!



嬉しそうな妻


最近は二人で釣りに行くのがお決まりの日常


強い風が吹いて、妻の麦わら帽子が飛ばされる



髪をかき上げて慌てる妻の横顔が

昔の愛らしいままに見えた。



妻 何してるの、早く帽子取りに行って!



何故か急に、変わらない妻が愛おしく思えて


帽子を拾って妻の頭にそっと被せた。



妻 ありがとう!



笑顔の妻



見上げた空は晴天で、耳触りのいい波音は穏やか



ふと思い出した、かぶと虫の習性を……


けれど、妻は雌のカブト虫では無かった。


なぜなら、私は喰われずに今も妻の隣に居る。



妻 え、何て言ったの?


夫 何でもない。




ありがとう、


これからも宜しく、ずっと一緒に居てね。










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