二章

さて、私の考えている作戦だが、まず前提として、お母さんは猫を飼うことを認めていない。理由は、お母さんが犬派で、かつ猫が嫌いだからだ。一回引っ掻かれて、トラウマらしい。そこで、私はどうやってお母さんを説得しようか考えなければ…


「あら、お母様は犬派なのですね。そう言ってくれればいいものを。」


「へ?ちょ、いきなりなに?」


「この姿は私がとっている仮の姿。いつでも変えられますわ。」


「あ、そうなの!?先に言って!?この無駄だった時間を返して!?」


「まあ、ずっと昔からこの姿ですので、愛着はありますが、変化するのが世の定め…。」


「気に入ってるなら別に…。」


「それ!」


「なみさん!?」


唐突にバク宙を決めたなみさん。いや、猫ってあんなきれいに飛べるんだね…。感心する間もなく、まばゆい光に包まれたなみさん。光が止んで、恐る恐る目を開けると…


「!?」


そこには、さっきまでの猫とは真逆の、純白の、ポ、ポメラニアンがいた…。


「ちょ、なみさん、ポメラニアンって…あんなに上から目線なのに!ポメ…ポメラニアンって!可愛い…もふもふだ…。」


「そんなに笑わないでください!これで十分でしょう?お母様を説得しましょう。」


あー、ちょっと待って。マジでおもろい。これはしばらく笑い止まらないな。


忍び笑いをしながらお母さんのいるリビングへ歩いた。




「ポメラニアンじゃない!かわいい!どこで拾ったの?」


「えーっとぉ…学校…の…ちかく…。」


ただいまお母さん説得中。まさか、どこで、まで聞かれるとは。考えてなかった。


「あら、そう。どのあたり?」


「えーっと…確か、瑞波神社のあたりだった気が…。」


フッとなみさんの“神”という単語が頭に浮かび、神社と口走った。


「あら、あそこは昔から動物を捨てる人が多いのよねぇ」


「え、そうなんだ。ところで、このね…犬、飼っていい?」


「いいけれど…迷い犬とかで、飼い主さんが探してたりしないかしら。」


「拾ってくださいって箱に書いてあったから大丈夫だと思う。ほんとに可哀想だよね。」


そういえば、なんで拾ってくださいって書いてあったんだろう。あとで聞いて見なくちゃ。


「あら…。じゃあ、飼ってあげなくちゃね。お家とか、買いに行きましょうか?」


「うん。ありがとう!お母さん。」


そう言って、お母さんに笑ってみせた。これで、お母さんも、安心するよね。




「で、なんでなみさんの箱には“拾ってください”って書いてあったの?」


考えているうちに興味がわいてきたので、なみさんに聞いてみる。なみさんは神様なんだから、そもそも捨てる人なんていないはずなのに。いや、普通に考えて、神を捨てるとか、恐れ多すぎでしょ。


「…普通の、猫だったからです。」


なみさんは、悲しそうに笑った。


「普通?なんで?神様じゃないの?」


「…前の前の飼い主さんが、私のことで、随分困っていらしたので。」


そう言って、なみは自分の今までを語った。前の前の飼い主に神様だと言ったら、困り果てながらも精一杯気を配って自分を飼ってくれたこと。その人がとてもいい人だったから、その人がいなくなった日はすごく悲しかったこと。次の飼い主は困らせたくないと、普通の猫のように過ごしていたら、1年前、赤ちゃんが生まれてなみを育てられなくなり、捨てられたこと。


「…これが、普通の猫だったのだと、いんたーねっとや本で納得しました。」


その猫たちは、みんな、救われていたのですがね。優しい飼い主さんに拾われて、普通の愛の中で暮らして…。


「神なのに、そんな生活に憧れていたんです。」


「じゃあ、私と一緒にそんな生活しようよ!」


気づくと、そんな事を口走っていた。

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