拾った猫は、上から目線の“自称”神でした!〜もうひとつの物語〜

風花こおり

一章

あの日、満天の星空の中、海で出会った男の子。


夜空を見上げて儚く笑うその子に、私は一瞬で恋をした…。




私は昔から癇癪持ちだった。気に入らないことがあればわめく。最近はマシになり、よほどのことがない限り落ち着いている。しかしなにかあると、また前のように、暴れて、いじめたり、殴ったりしてしまう。自覚はしているが、止められないのである。私だって、こんな自分が嫌いだ。


「美麗、学級日誌ってどこ?」


「海斗くん!えっとね…。」


私が恋してる人。私の片思いの海斗くん。私と海斗くんは、夏祭りの日に出会った。小学3年生のとき、なんとなく人混みがいやで海に逃げた私はそこで、岩に腰掛けぼんやりと空を見上げている男の子と出会った。海斗くんだ。


「星っていいよね。まっすぐで、きれいで。」


そう言って笑う海斗くんがたまらなく素敵で、どこか儚くて、守りたいって思った。それからずっと片思い。小3から高1。我ながらすごいな。まあ、そんな感じで今も片思い中なのだ。そして、私のクラスには海斗くんともう一人、海斗くんの幼馴染もいる。まみちゃんだ。正直地味で、陰キャで、海斗くんと釣り合わないし、話して欲しくない。そう思っていたからか、まみちゃんが海斗くんと関わるところを見るたびに、まみちゃんをいじめてしまう。自分でもヤバイやつだとは思う。でも、怒りがこみ上げて、飛ばされる感覚がして、目が覚めたら、やってしまっているのだ。もう何なんだろう。


─本当に、こんな自分が嫌だ。


「あー、もう嫌だ。こんな自分。」


消えちゃえばいいのに。




「はあぁぁぁぁぁぁ。」


帰り道で一人反省会。自分で始めたくせに気分が落ち込んでなんだかなあと思っていると…。


みゃぁぁぁ………。


ん?猫?どこ?


みゃぁん。


視界の隅に、段ボール箱が映る。


ひろってください。と書かれた段ボール箱の中には、闇のように黒いペルシャ猫が入っていた。


「わ、今どきこんな捨て方する人いるんだ。」


なんだか放っておけず、私はその子を連れ帰った。


「ただいま。」


誰もいない家に向かって言う。防犯のためだ。こう言うと、家の中に誰かいると思って泥棒が入らないらしい。


私の家は母子家庭だ。父は2年前、体を崩して死んでしまった。残された母は毎日遅くまで働き、私を育ててくれている。そのため、いつも0時頃まで帰らない。


ぐうぅぅぅ…


「にゃぁ~。」


「まっててね〜、いまご飯持ってくるから。」


何かないかと探すと、とりのささみがあった。ちょうどいい。これ茹でよう。


「ちょっと美麗さん!この私にそんなものを食べさせようというの!」


「はい、そのつもりですよ〜っと……え?」


ノリで返事しちゃったけど、誰!?え、ちょ、誰!?どこ!?


「騒々しいですわね。ここにいるでないですの。」


「……え?ねこちゃん?」


「そうですわ!それはそうと、なんですの!その低級な名は!」


「じゃあ、ねこさま?」


「敬称をつければいいというわけではないですすわ!」


めんど。この猫、ちょーめんど。


なんだか私…超めんどい猫拾っちゃった!?




「まったく…そもそも、猫ではないですわ!」


じゃあなんなの…。まじで…。何拾ってきちゃったの私…。


「私こそは、この辺り一帯の川を収める治水の神、ナミヨでありますわ。」


「……は?」


「神ですわ!」


まって、ナミヨ?待って待って、猫だよ?神とかあり得る?ていうか、名前古風すぎる。面白い。


「人の名前をコソコソ笑うのは、どうかと思いますわ。」


「待って、さっきからちょくちょく思ってたけど、私って、考えたことめっちゃ口に出してる?」


「いえ、私に聞こえた心の声に返事しているだけですわ。」


「しれっと心を読んでいたと。」


「まあ、そういうことになりますわね。」


先に言ってよぉぉぉ!


「言う必要がないと判断いたしましたので。」


「私にも判断させて!?」


「まあ、いいではないですの。それより、貴女はなんというのですの?名乗りなさい!」


「いちいち上から目線ね…。美麗。霧谷美麗よ。」


「美麗さんね。これからよろしく。」


「こ、こちらこそよろしく。えっと…ナミヨさん?」


「なみでいいですわ。」


「じゃあ、なみさん…。」


こうして、私のちょっと不思議で、どこか上から目線の猫との同居が始まってしまったのだ…。




「なみさん、私のマグロのお寿司しらない?」


「残しておりましたので、もったいないと思い食べましたわ。」


「好きなもの最後に食べる派…」


「そんなの知りませんわ。」


私のごほうびがぁぁぁぁ…。


「…なみさん。」


「はい?」


「お母さんに許可取ってないの忘れないでね」


「!?」


「言うこと聞かなかったらどうなるかな〜。」


「み、みれい、さん?」

嘘ですよね?みれいさん?と、後ろについて来るなみさんをしっかり無視し、私は一人作戦を練った。  


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