第4話 どうやら私に惚れているらしい

「伊月ー!」


 神様は、ずいぶん機嫌がよさそうに帰って来た。ろくな予感がしない。


「何?」


「すげーいい男見つけた。顔も性格も運動神経もいい。金もまあまあ。そいつと結婚しよう!」


「だから、やめてって言ってるじゃん。そもそもなんで結婚なの?」


 初めてまともに会話をしている気がする。そういえば初めて会ったとき以来の質問になるかもしれない。いつも早く切り上げたすぎて、やり取りが続きそうな話をしてこなかったからだ。


「だって、人間の女の言う幸せって、大体はいい奴の嫁になることだろ?」


「何その古くさい価値観」


 思わずツッコミを入れてしまった。神様はきょとんとした顔をしている。


「え、違うの? 結婚しても伊月は幸せじゃない?」


「うん。私はまだ結婚なんてできないし、今はしたいとも思わない」


「ええ……」


「あんたって、私の考えてることが分かるんじゃなかったの?」


「大体分かるってだけ。今までも嫌だってのは分かってたけど、結婚が嫌なんじゃなくて、相手が嫌なんだと思ってた」


 神様はしゅんとした顔になって、しおれた花みたいにへたりこんだ。いちいち反応が素直すぎる神様だ。しかし、思いの外聞き分けがいい。案外、話をすれば分かってくれるタイプなのだろうか。


「あんたは、私を幸せにするために結婚させようとしてたの?」


「うん」


「なんで私を幸せにしようとしたの?」


「伊月がひとりぼっちのがんばりやだから」


「何それ」


 意味が分からなさすぎる答えが返ってきたので、私はまたたいた。神様はというと、なぜかほんのりと赤くなった顔をして続ける。


「そういう伊月が好きだから、俺は伊月を幸せにしたいんだ」


 絶句、という体験をこのとき私は初めてした。今までの神通力洗脳の嘘っぱち告白とは違うと直感で分かった。表情がちゃんと本物だったからだ。


 この神様、私にれているらしい。きれいでもないし性格がいいわけでもない私を好きになるなんて、趣味が悪すぎやしないだろうか。それに、本当に私が好きならどうして別の男子と結婚させようとするのだろう。神様というものは、よく分からない生き物だ。


「あ、疑ってるな?」


 神様は私の心をそう読み取ったらしく、ちょっとむくれてみせた。


「分かった。なら、俺がなんで伊月を好きになったか、ちゃんと説明するから!」


 右手の拳を握りしめながら、神様は勝手に力説を始めた。

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