第3話 神様は笑った

 私が神様と初めて会話をしたのは、昨日——つまり神様にかれてから三日目——のことだった。それまではしつこく話しかけられても、目の前で不思議なおどりをされても、私は絶対的な無視を決め込んでいた。最初は少しくらい驚いたかもしれないけれど、それきりずっとだ。見えてはいけないものが見えたときは、極力見えないふりをしていた方がいいとどこかで聞いたからなのだが、結構けっこう頑張がんばったと思う。


 三日連続で二人ずつ学校の人気者に告白されて、さすがにこれはおかしいと思った。だから観念かんねんして聞いた。


「ねえ、これってあんたのせいなの?」


 そのときの神様のとびっきりの笑顔は、何だか忘れられない。正直に言うとどきりとした。びっくりするくらいきれいな顔をしているせいだ。


「そう、俺のせい! 神通力を使ったんだ。すげーっしょ。でも全っ然反応してくれないから、俺のこと見えてないのかと思った。よかった! こんにちは伊月」


 もう分かると思うけれど、私は性格がよくない。だからこんな風に舞い上がるほど喜んでくれた神様に、冷たく当たった。


「最低。もう二度としないで」


 取り立ててとりえもなければかわいくもないくせに、突然人気者六人から告白された私は、確実に学校内で立場を悪くしていた。女子の嫉妬しっとが怖いものだということは、あらゆるところからいろんな話を伝え聞いて知っている。元の性格の悪さに加え、それで気が立っていた。こんな激塩対応を受けても神様はにこにこ笑っていたんだから、素直すなおにすごいと思う。


「大丈夫、ちゃんと伊月が幸せになれる相手を選んでるから。俺が絶対、伊月を幸せにする!」


 昨日は何だかそれ以上言葉を交わす意欲を失ってしまって、それで今日、七人目の被害者が生まれてしまったのだ。私が昨日もっと神様と話しておけば、笠原くんは大衆の前で告らされるという公開処刑を受けずに済んだわけだ。本当に申し訳なく思う。


 今日ももう大分話す気を失くしてしまっていたが、このままでは明日、八人目の被害者が作り出されてしまうだろう。あの神様は、そろそろ学校外の人間に告らせようとしていたようだから、そろそろ本格的にまずい。


 私は腹をくくって、どこかに出かけたらしい――目的が私のためのいい男漁りだったら嫌だな——神様を待つことにした。そう言えば、どうして私を幸せにしたがるのかすら聞いていなかったか。ついイライラしてしまうこの短気をどうにか抑えて、できる限りいろんなことを聞き出そう。


 おまじないがてらカルシウムでも取っておこうと、私はキッチンに向かうことにする。今日も母さんはまだ帰っていないようだった。

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