第2話 最後の一言は言わない

「笠原、どこが駄目だったんだ? あいつ、将来出世するよ。大金持ちってほどじゃないけど、ふつーに金持ちになる。真面目まじめな優等生のまま大人になるから、浮気もしない。家庭も大事にするっぽい。結婚すればいいじゃん」


 家につくなり、神様は空中で逆さになりながらそう言ってくる。ふてくされたような顔をしているが、ふてくされたいのはむしろこっちの方だ。


「そういうとこが、分かってないって言ってんの」


 まゆを寄せてそう言い返すと、神様は困ったように私を見つめた。こいつは本当に、何も分かっていないんだなと思う。


「そういうとこって、何?」


「人の将来のことまで勝手に教えてこないで。なんか、悪いことしてるみたいな気分になるじゃん」


「なんで? 伊月は悪くないだろ?」


「だから」


 その先を続けようとして、私は口ごもった。何となく言いたいことはあるのだけれど、上手うまく言葉にできない。


「……そういう気分になるってだけ」


「何だそれ、よく分からん」


 この自称神様と分かり合えない理由には、神様が乙女心をよく分かってくれないという面もあるけれど、私の説明が下手だという面もあるのかもしれない。それは分かっても、私はまだ十四の中学二年生、大人みたいな説明はどうしても難しいのだ。


 それにしても。私は改めて目の前の神様をまじまじと観察した。銀色の髪に同じ色の瞳、肌は色白で、服も白メインの着物。全身にかすかに光をまとっているようにも見えるから、確かに神々こうごうしいオーラはある。それに顔立ちはすぐさま人間だということが否定できてしまうくらい整っているし、何より空中に浮かんでいるから、うん、神様というのは本当なのかもしれない。見た感じ同い年くらいという部分にだけ目をつむれば、何だかとても説得力がある外見をしている気がする。


「で、次は誰がいい? 同じ学校で、今までよりよさそうなやつはもういないし……思い切ってアイドルとか? それか石油王? それとも総理大臣?」


「どれもいいってば」


「何でだよー」


「本当に私を好きでもない人に告られたって、嬉しくないから」


「なんで?」


「うーん、なんかむなしい」


「虚しい? なんで?」


「……もういい、面倒めんどうくさい。とにかく誰にも告られたくないから!」


 私の考えていることが分かるのなら、どうしてこういう言葉にできない不満を読み取ってくれないのだろう。このイライラは、本当は感情を形にできない自分に対してのイライラだったかもしれないけれど、つい神様にぶつけてしまった。


「なんで? 俺は伊月に幸せになってほしいだけなんだけどな」


 心底残念そうに言う神様は、本当にそう思ってくれているらしいことは分かる。だから私も、最後の一言は言わないようにしている。それでもすで相当そうとう失礼な物言いをしていると思うが、この神様はとても気が長いのだ。天然なだけかもしれないけれど、とにかくりもせずにもう四日間も私のそばただよい続けている。それで、私を幸せにするべく神様的いい男に告らせ続けているのだ。彼らの気持ちまであやつって。

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