拾ったキツネは“自称”神!?~人生山あり谷ありだけど、最近さすがにおかしいです!!~
風花こおり
第1話
「おじいちゃん?」
なんでだろう。さっきまでわらっていたおじいちゃんがわらわなくなっちゃった。めもとじちゃった。ねちゃったのかな。おじいちゃん、さむそうだな。まみが、あっためてあげよう。
「…おじいちゃん?」
つめたい。おじいちゃんが、つめたいよ。こわいよ。どうしたの?おじいちゃん。おじいちゃん、どっかにいっちゃうの?神様、おじいちゃんをたすけて…。神様…お願いします…。
「海斗くんと馴れ馴れしくしたら、許さないから!」
カフェに声が響き渡る。たくさんの人の目が、私…成弥まみに集中する。
「ごめんね。海斗とはずっと仲良くしてたから、つい。美麗ちゃんが嫌なんて知らずに、話しちゃってた。ほんと、ごめんね。」
こういうときは、無駄になにか言わずに、引くのが一番。なにか言って、ヒートアップしたら大変。
「まったく、これからは気をつけなさいね!そもそもあんたなんかにはたとえ昔から仲が良くても、海斗くんと仲良くする権利なんてないんだからね!私のほうが…」
そこからは、美麗がどれだけ海斗のことが好きなのかずっと語っていた。でも、そんなの私には関係ない。海斗に恋してるわけでもない。海斗は私にとって、心の拠り所であり、恩人。それだけ。でも、私が海斗と関わることで嫌な思いをする人がいるなら、関わるのはもうやめよう。クラスで無駄に目立ちたくない。私に、存在感なんていらない。
カフェからの帰り道、ふと空を見上げると、覆うような曇り空。空なんて見ようが見まいが変わらない。でも、なんとなくこういう空は気分が滅入る。こんな日は、早いとこ家に帰って寝るのが一番!そう思ったのに…。
早いとこ家に帰ろうと思った矢先、道路の隅でひとりぼっちのキツネが震えていた。
「きれいな白………。」
その子はとってもきれいな毛色で、例えるなら、雪に銀の粉をふりかけたような、輝きをまとった白だった。
「でも…すごく震えてる。そして、一人ぼっちだ。私と同じ。」
他人事と思えずに、震えるその子を‘’コン‘’と名付け、家に連れ帰った。
「ただいま。」
いつも通り帰ろうとして、腕の中の白狐に気づく。急いでかばんの中にコンを入れると、コンはおとなしく収まってくれた。
「おかえり。学校、どう?友だちとは仲良くしてる?」
「いつも通り。なにもないよ。友だちとも仲良くしてる。」
もう習慣になったウソ。学校で一人なんて、絶対お母さんには言わない。お母さんは心配性だから、学校に電話とかをしかねない。大事にはしたくないし、お母さんを心配させたくない。私は、お母さんを悲しませないために、困らせないために嘘をついているんだ。私は、悪くない。お母さんと他愛もない雑談を終えると、自分の部屋に入る。カバンを開け、コンを出そうとすると、コンは教科書を上手に使って、すやすやと寝ていた。コンをそっとカバンからだし、ホッと一息。だんだん冷静になってきてふと思う。狐って飼えるのか?
「え?狐って飼っていいのかな?山に返すとか、どこかに保護してもらうとかしたほうがいいのかな?」
「うるさいなぁ。ぼくはねむたいのに。ちょっとはおちついたら・・・ふわぁ」
「今考え事してるの、静かにして…ん?だれ!?」
いったん落ち着かなきゃ。焦りすぎて幻聴が聞こえる。どこかに人がいるのかな?いや、間違いなく部屋には私とコンしかいない。じゃあ、この子が…?いや、流石にないよね…。
「どうしたの?そんなにじっとみて、、」
・・・!?
「喋った?狐が?なんで?」
「・・・ん、うるさいなぁ」
私はいま人生最大に混乱し、悩んでいる。
「どうしたのー、まみー?」
「なんでもないよ。だいじょうぶ。」
とりあえず、お母さんには内緒にしておこう。お母さんがこんなこと知ったら、パニックになるか、私の頭を疑うか、どっちかだ。たぶん後者。ひとまず、この妖怪をどうにかしないと。
「よーかいじゃないよー。ぼくは、かみさまだよー。」
「え、神様?狐の姿の?それは流石にないでしょ・・・ん?いま、なんで言いたいことがわかったの?」
「あ、あとぼくのこえはまみにしかきこえてないから、声に出すなら小さく話さないと変な人と思われるよ。」
「それも大事だけど、なんでさっき考えてることがわかったの?」
「だってかみさまだもん。」
じゃあ、こうやって考えるだけで話せるの?
「うん。できるよ。」
うーん。でも狐かぁ・・・。
「じゃあ、ねこみたいになろうか?」
変身できるの?
「うん。かみさまだもん」
おなかにはっぱのせて?
「それはたぬきさんだよぉ。」
こーやるの。そう言ってコンは近くの観葉植物の葉を取ると、いきなり後ろにバク宙した!
すると、コンがいた場所には、きれいな白色の、眠そうな目の猫がいた。
「まって!すごーい!ほんとにできたんだー!」
「かみさまだもん」
「コンは、何にでもなれるの?」
「そ。それより、ぼく、いまねこだから、これならお母さん、いいんでしょ?」
そうだった。早くコンの飼育許可を貰わないと。
私はコンを抱いて、ドタバタと階段を降りた。
「お母さん猫を飼いたいんだけど…」
「猫?なんで?」
「捨てられてたから…かわいそうで。」
「そう…。わかったわ。まみが自分からなにか言うのは久しぶりだしね。ただし、ちゃんと自分で面倒を見ること!わかった?」
「うん。大丈夫。」
「ちなみに、名前はなんていうの?」
「コンだよ。白色の狐が好きだから。」
適当な理由をつけて、コンが狐だということをごまかす。
「コン、可愛い名前ね。コン、これからよろしくね。」
コンの飼育許可は無事もらえた。それからは、コンにおもちゃやキャットタワーを買った。ごはんはふつうの!と、コンが懇願したため、栄養価とか添加物の話をして、コンのご飯は私が作ることにした。
「ねえまみ、ぼくこれがいいな。」
「舞美、このキャットタワーなんだけど、どう思う?」
「まみ!みてよぉ。ぼくこれがいいよぉ。」
なんでこんな状況になっているかというと、完全にコンを猫だと思ったお母さんが、「実は猫好きなのよ~。」とか言いながら、ルンルンで私を買い物に連れ出したからだ。いちどに2つ声を聞かなきゃいけないのは、結構大変だったけれど、なんだか「楽しい買い物」を久しぶりにした気がした。
翌日、コンには私のキーホルダーのように変身してもらって、一緒に学校に行った。でも、何か、おかしかった。みんなから無視される。友達はいなくても、無視はなかったのに。美麗がこっちをクスクス笑いながらみてたので、全てを察した。これ、いじめだ。でも、大丈夫。私はもともと、一人になりたかったし。中途半端に友情を育んでも、失ったとき悲しいだけだから…。いつも通り学校を終え、帰ったらコンにご飯をあげ、自分も一緒にご飯。お風呂に入って、コンと一緒に就寝。いつものルーティンにコンが加わっただけなのに、一緒に何かする相手がいるだけで嬉しい。
「コン、おやすみ。」
そう言って、私は眠りについた。
─ねえ、おじいちゃん!おじいちゃんは、ずっとまみといっしょ?─
─どうかねぇ。でも、まみの大きくなるのはみたいねえ。─
─じゃあ、まみ、もっとはやくおおきくなるね!─
朝の光が眩しい。もう朝なんだ。それにしても、随分昔の夢をみたな。おじいちゃんか…。
私のおじいちゃんは、私がちいさいときに死んでしまった。おじいちゃんが亡くなったと知らされて、心の整理がつかなくて、しばらく夜に思い出しては泣いてたな。『おそうしき』がまだ分からなくて、今もまだ、おじいちゃん家に行けば、椅子に座ってまみと呼んでくれるような気がする。今もまだ、たまに思い出しては泣いてしまう。おじいちゃんはいつも楽しそうで、にこにこしてたな・・・。
「まみー。おはよー。」
「コン、おはよ。」
「ねえねえまみのおじいちゃんって、どんなひと?」
「また、私の考えてること聞いてたの?・・・えっとね、なんか和風!!って感じだったよ。定雄って言う名前で、落ち着きのある人だった。…そして、すごく優しかった。」
定雄って言った瞬間、少しだけコンがビクッとした。どうしたんだろう。まあいいか。さて、今日も頑張らないと。顔を洗って頭を入れ替え、着替えて、朝ごはんを食べて学校へ。
しかし、ハプニングが。上靴が無かったのだ。昨日はあったのに。しかたなく、一日スリッパで過ごす。美麗たちがクスクスと笑っていた。次の日、今度は机の上と机の周りに消しカスが散らばっていた。ご丁寧に細かいやつ。大丈夫。私は、大丈夫。次の日、教科書を濡らされた。美麗がお茶を持ったままぶつかってきたのが原因だ。美麗は「ごめんね!」と言って、おしゃべりに戻った。一ヶ月ほどこんなことが続き、どんどんエスカレートした。最後は体操服がトイレに入っていた。流石にしんどい。なんで私が・・・。泣きそうになっていたそんなとき、コンが、話しかけてきた。
「ねえ、まみ。みれいちゃん、いらない?」
「…どうしたの?コン。そんなこと言っちゃだめだよ。美麗ちゃんだって、大切に思ってる人がいるんだから。…きっと、私よりも多く。」
「まみも、たくさんの人から大切に思われてるよ。だから、あの子も…。」
「ん?どうしたの?」
「あ、いや、なんでも、ない。それより…」
本当に、美麗、いるの?
「んー、わからない。いらないのかな。でも、いなくなったら、悲しむ人がいっぱいいるでしょ?それはだめ。私のせいで誰かが悲しくなるのは、絶対にだめ。」
「じゃあ、まみは、どうしたら悲しくなくなるの?」
私は…。
私が悲しい理由。美麗からの嫌がらせが辛いから。それなら、美麗を私から離れさせればいい。美麗を私の近くから消したらそれで終わり。なのに、私は、きづくと、違うことを口にしていた。
─おじいちゃんに、あいたい。─
いつも私を包み込んでくれたおじいちゃん。もういないのに、会いたいと願った。コンは頷くと、いつもとっている観葉植物の葉・・・ではなく、ふところから金色のちいさなりんごみたいなのを取り出した。それを葉でつつんで空に差し出し、何か唱え始めた。コンの呪文が終わると同時に、私の前にいたのは・・・
「・・・おじいちゃん?」
優しく微笑む、私のおじいちゃんその人だった。少し薄く、向こう側が透けているので、おじいちゃんが死んでいるということは変わっていないみたい。おじいちゃんはコンに目をとめると、楽しげに、ひとこと、「守ってくれたんだな」といった。「もちろんだよ。」コンも得意げに笑っている。おじいちゃんは向き直ると、
「まみ。大丈夫だ。人は、助け合って生きていくものなんだ。まみが人に迷惑をかけないんじゃなくて、まみが迷惑をかけられた人を許すんだ。みんな迷惑を掛け合って生きている。本当に生きていくので必要なのは、本当の優しさっていうのは、迷惑を許すことだよ。この子も守ってくれるから。おれも、見守っているから。がんばれ、まみ。」
おじいちゃんはそういって空気に溶けてしまった。でも、なんだかとても優しい時間で、これから何でも頑張れそうだった。
「ありがとう。おじいちゃん、また会えるなんて、思ってなかった…。」
「夕焼けの国・・・あっちとこっちの間に、定雄はまだいたんだよ。ずっとまみを見てた。だから、僕でもこっちに呼べた。でも、もう定雄は、あっちに行っちゃった。」
コン、おじいちゃんを知ってるの?
「うん。僕の、最初の、おともだち。」
そう言って、コンは笑った。
その笑顔と、おじいちゃんの微笑みを思い出すと、何でもできる気がした。おじいちゃんはたしかにいて、私を見ていてくれる。それだけで、私は、空だって飛べそうだった。
次の日、学校に行くとすごい事が起こった。美麗が謝ってきたのだ。あの美麗が、謝ってきたのだ。
「まみちゃん。今までごめんね。まみちゃんが海斗くんと仲良くしてるのが嫌で、あんなことしちゃって…。謝っても許してもらえないのは分かってる。でも、これだけはきいてくれないかな?」
「なに?」
さすがに、今まであんなことをされていた手前、簡単に信じることはできない。少し冷たく聞き返すと、美麗は
「よかったら、友達になってくれないかな?」
最後は顔を赤らめ、うんと小さな声で、私に言ってきた。何のために、友達になんて…。これまでより近くでいじめようって魂胆かな?
「いいけど…なんで?」
「あのね、もしよかったらなんだけど、私の恋を手伝ってほしいの。」
周りの子たちもびっくり。私もびっくり。そして、不思議と、美麗と友達も悪くないかもと思った。本当の優しさは、許すこと。これから美麗と助け合うのもいいかもしれない。私は本気でこう思った。
「うん。わかった。でも、いきなりどうしたの?」
「うーん…。秘密!」
なんだそれ。気になる。これから問い詰めていこう。そうそう、最近クラスの女の子たちが、「美麗に見られていて話せなかったけど、ホントは友達になりたかった。」や、「友達に戻れないかな?」と言うようになった。だから私は、今すごく充実してる。一つあるとすれば…コンに会えなくなっちゃったことかな。まあ、どこからかでてきて、「おなかすいたぁ〜」とか言いそうだけど。お母さんは、コンが消えたことについて、「きっと野生が好きだったのね」と、残念そうだった。ほんと、お母さんが鈍感でよかった。そういえば、お母さんにいじめのことがバレて、すごい怒られた。何で言わないの!だって。お母さんが心配だったからと伝えると、母親をなんだと思ってるの!だって。お母さんは私が思っていたほど弱くはないみたい。これからは、お母さんも相談相手に選んでみよう。海斗は、私に何でも相談してと言ってきた。海斗が原因なのに。私は美麗の恋を応援するから、海斗と話す回数はぐんと減ると思う。第一、あんまり海斗は好みじゃないんだよね…。私の好きなのは、童顔のかわいい系!!だから、美麗のことをホントに全力で応援する。みんな幸せになるといいな。そうそう、私はあれ以来、スクールアドバイザーを目指している。おじいちゃんみたいに、悩んでいる誰かの背中を押して、時には寄りかかってもらう存在でありたくて。みんなに自分らしさを見つけてほしくて。一つでも、誰かの幸せを作る手伝いをしたくて。たくさんしたいことはあるけれど、今の一番の願いは──いつか、私の言葉で、誰かが自分らしさを取り戻してほしい───それだけだ。さあ、今日も頑張ろう。私は澄み渡った空を見上げ、深呼吸をした
拾ったキツネは“自称”神!?~人生山あり谷ありだけど、最近さすがにおかしいです!!~ 風花こおり @kori40kazahana
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