無視したことの、贖罪や 2023/3/6

試合終了のホイッスルは土砂降りの雨の中に掻き消えて、熱気とくらい湿り気がコートじゅうに蔓延った。蛍光色のユニフォームを濡らした一際背の高いNが俯いたままこちらに向かってきた。Nは差し出されたタオルを乱暴に受け取って顔を埋めた。Nの焦げ茶色の髪に雨が降り掛かって何度も滴り落ちた。透けたユニフォームの背中を摩り、Nを車の中に促した。

冷えた車内には雨が窓を殴る音だけが虚しく響いていた。いつも助手席に座るNは後部座席で全傾した高頭部だけをミラーに映していた。

「_____」

名前を呼んでも返事はなく、家に着くまでそのまま、霧がかった灰色の街並みがただ通り過ぎていった。

車を駐車して声をかけようとした途端、Nは勢いよくドアを開け、傘もささずに玄関に向かった。急いで後を追い、扉の鍵を開けた。すぐシャワーを浴びるように促すとNは曖昧に頷いて、そのままリビングの方へ向かった。Nの背中は小さかった。

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