新しき差別
新入社員入社式、壇上から見る光景に息を呑む。
今期の新入社員の男女比率は女性の方が多いように感じた。ざっと見た感じであるが、やはり女性の方が多い。
昨今、政府主導で何処の会社や大学、公務員採用でも女性の比率を増やしたがっているとニュースで見た。それは、弊社も例外では無いらしく、明らかに女性採用が多く、人事部の方でも女性管理職の増加に努めているという報告を受けている。
だが、それは女性という個人ではなく、グループに向けられたアクションだ。
個人ではなく、グループを優先する。これまで男性を優遇していたのに対し、今度は女性を優遇する。それは、歪んでいるように感じた。
アファーマティブ・アクション。その言葉が示す通り、古い差別を無くし、公平を目指すならば、新たな差別を生むに他ならない。
私はげんなりとした様子でマイクを握った。
―――――――――――――――――――――――
水銀から目を離し、俺をジッと見る女へ視線を移す。
「公平を生み出すという事は、新たな差別を生むのか否か。真の平等と公平を目指す社会が向かう先は偽りに満ちている。故に、真なる社会の姿など醜悪に曲がりくねった刺々しい蛇のような姿。人に公平と平等は必要なのかね? 君」
平等と公平、ねぇ。
「おや? あまり興味が無いように見える。社会システムの問題は興味なしかな?」
別に特段興味があるってほどじゃないね。けど、こう、そういう社会に無理矢理作り変えるってのは、不可能なんじゃないか?
「では君はどうやって公平と平等を人に与えようとするのかね?」
弄らなきゃいいんだよ。
「ほう」
昔からあるシステムを弄るから可笑しな方向に進むんじゃないのか? ほら、よくあるだろ? 農家の長男ってのは、昔なら親父の農地を継いで農業に従事する。名家の長男なら家督を継ぐ。人ってのは自由を求め、権利を得たいから自分の都合の良い方向に持って行きたがるんだよな。
「そうか。君は人に自由を与えるから新たな差別が生まれ、不自由している内は差別が生まれないと考えているようだ」
ま、そういうこった。
「だが、古い差別を無くし、新たに公平と平等を行き渡らせるには差別の対象を変えるしかあるまい。男から女へ、白刃から黒人へ。そうした行い積み重ねが新たな差別を生み、新たな不平等と不公平を蔓延させる。人は愚か故に過去の間違いを掘り返し、過ちを繰り返す。私はね、真なる平等と公平を人にもたらすには自由など必要無いと思うのだよ」
自由など必要無い?
「ああ、人は不自由故に自由を求め、己の利を得たい故に変える必要の無い問題にまで手を伸ばす。愚かではないか? 現状を変えたくば己を変える。それは至極真面な感性だ。だが、己を変える手間を省き、社会に現状を変えて貰おうとするから歪みが生じ、必要の無い差別と問題が浮き上がる。不自由であれば、白痴であれば、人は差別や不平等など気にする余裕が無くなる」
故に、と女は言う。
「真なる公と平を求めるには、自由の一切を与えず、教育を施さず、自我の一切を摘み取る事。現代社会であれば、人は産まれた瞬間より差別に苦しみ、不に嘆くのだよ」
俺は水銀に満たされた小瓶を放り投げ、天井を仰ぐ。
確かに、公平と平等を与えるには現代の社会では不可能なのかもしれない。不可能である故に、無意味な問題を提訴し、その陰で新たな差別を生み出してゆく。利を得る為に不を押し付ける。それが、人間という生き物なのだから。
「お疲れかな? ならば休むといい。君は君の夢を見るといい。私はまた水銀を眺めて君を待っていよう」
瞼を閉じ、眠気に流されるまま意識を眠りに落とす。
たまには、こんな可笑しな夢を見るのも、いいものだと。俺は眠りに落ちた。
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