第4話 無意味な努力
それは必然だったのかもしれない。自分の個性・性格と、置かれている状況はどう考えても相性が悪かった。ただそれが起きた時の私にはどうしてそうなってしまうのか、どうしたら良かったのか、全く見当がつかなかった。
私は小さい頃から頭の良さが取り柄だった。それだけしか取り柄がなかったといっても過言ではないほどだった。小学四年生の時点で勉強に関するトロフィーを五つもらっていたし、小六の終わりから通っていた塾では常に上位だった。
だからこそ、周りからの期待も大きかったし、
中学二年生になってだんだんと難しくなる勉強。本気で勉強し始める周りの人たち。埋もれないように、自分のアイデンティティを失くさないように必死に勉強する私。
休みなんかなかった。遊ぶこともしなかった。
私は知っていたのだ。私は頭が良いから勉強ができるわけではない。人の何倍も努力を重ねたから、勉強ができているのだと。
努力をやめてはいけない。一瞬でも気を抜けば、たちまち周りの強さに飲み込まれてしまうから。
たかが勉強。それでも私にはそれが全てだった。運動もクリエイティブなことも何もできなかったから。
私は得意不得意の差が激しかった。その理由は後にわかるのだが、私はその理由を考えることすらしなかった。薄々どこかで気づいていた。それでも私は自分の気持ちも意見も蔑ろにした。理由に縋るのは甘えであると、言い聞かせていたのだ。
みーちゃんも私の違和感に気づいてはいた。彼女は何度も叫ぶ。
『もうやめよ! いっぱい遊ぼ! そうだ、ボクともっとお話しようよ』
(勉強しながらでもお話できるじゃん)
『片手間に話すの、失礼でしょ』
焦りと不安が苛立ちとなって現れる。そして私は叫んでいた。
「うるさいなあ! ほっといてよ!」
みーちゃんの肩が跳ねる。
『……ごめん』
掠れた声を出した彼女はそのまま私の脳内から消えていった。
八つ当たりをしてしまったことが自責の念となって、私はシャーペンを握りしめたまま涙を流していた。
そして中学二年生の後期期末試験後、事件は起きた。
私は完璧な理系で、文系特に社会がとても不得意だった。いつも社会は点数が悪い。悪いどころではない。中学にあがってからはどれだけ勉強しても半分の点数もとれたことがなかった。特に今回の点数が一番悪かった。
得意だった数学の点数と五十点以上差のある社会の答案を見て、社会の教師が言葉を投げつける。
「お前は社会だけは本当にやる気がないな」
放たれた言葉は私の心に深く突き刺さった。あまりにも惨い世界に見えた。
クラスメイトの笑い声が聞こえる気がした。
みんなの何倍も努力したのに。みんなが部活をしている時間も勉強に費やした。数学以上に社会は勉強した。なのに……。
努力は報われる? 誰だ、そんな戯言を言ったやつは。努力の方向性が違う? 色んな方法を試して、結局このザマだ。他にどんな方法があった。
家に帰り一人で部屋にこもる。次こそは、なんて考えられなかった。テストの結果が悪かったからじゃない。教師に自分の努力を全て否定されたように感じたからだ。
悔しさなんかもう感じなかった。あるのはただひたすらの虚無感。心が麻痺し、空っぽになったような感覚。
泣き叫び喚き散らしながら、私は悟ってしまった。
私には努力の才能なんかない。今までうまくいってたのは全て偶然である、と。
無意味なことはしたくない。こうして私は努力することを諦めた。
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