第2話 みーちゃん

 それから友達との関係が修復することなく中学生になった。ほとんどの友達とは別の中学に行くため、心機一転の気持ちで中学校に通い始めた。


 中学にあがれば部活というものが存在する。誰もが憧れる”舞台”みたいなもので、小学生の時から話題にあがるほどだった。

 それでも私は部活に興味が持てなかった。その学校は部活動の数が少なかった、というのもあるだろう。でもそれ以上に、私は部活で勉強時間を削られるのがとても嫌だった。それほど、当時の私は勉強が好きだったのだ。


 仮入部期間、私は一度も部活動を見学せず、ポスターも見ずに帰っていた。部活が強制じゃなくて良かったと思いながら。その分、学校に奉仕はしたかった。その学校に通う意義を見出したかったのかもしれない。

 そうして私は委員会に入り、そこにのめりこむようになった。


 委員会は全員が入らなければいけないもので、でも本気でやっている者など誰もいなかった。

 私は管理委員というところに所属した。学校の備品の管理などが主な仕事だった。掃除用具の備品チェックをしていると、私は教室が綺麗ではないことに気づく。


(一緒に掃除しちゃおっかな……)


 手に持っていた箒で掃き掃除し、机をきっちり整える。


『偉いじゃん。とっても綺麗だよ』


 また頭の中で声が聞こえた。背後に気配を感じ、思わず振り返る。が、誰もいない。


「背後……っていうより、後頭部?」


 首を傾げる私に、そいつはケタケタと笑った。


『せーかい。ボクは君の味方だよ』


 それからそいつはいつも私の後頭部に居座るようになった。そいつは女の子、名前はないというから私が代わりに名付けてあげた。本人は別にいらないと言ったけれど、名前があった方が何かと都合が良かった。

 

 誰もいない教室。一人で黙々と掃除をしながら話しかける。


「じゃあ、”みーちゃん”はどう?」

『ボクには似合わない名前だと思うけど……』

「いいの。でもボクっ子っていいよねー、私の好きなタイプなんだ。ボーイッシュとかかっこいい系」


 斜陽が射し、目を細める。


「憧れる」


 その時の彼女の気持ちはどんなだっただろうか。私の言葉の本当の意味を、汲み取っていたのだろうか。ただ、一言。


『今のキミにも、似合うと思うよ』


 私は小さくうん、と頷き掃除用具をロッカーの中にしまった。


「帰ろっか」


 はにかむ私の姿は、彼女にどう見えていただろうか。

 


 私の心の黒いもやに気づいていただろうか。

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