私と生きる彼女
璃志葉 孤槍
第1話 彼女との出会い
「あなたはだあれ?」
そう発しても、返事はなかった。
自分と同じくらいの背丈だということはわかるものの、男なのか女なのかもわからない。まるで黒いクレヨンで塗りつぶされたように黒々とした影だけが、私の視界に映って見えた。
*
小学六年生と言えば慣れ親しんだ小学校にお別れを告げる歳。転校生などの一部を除けば、六年間も一緒だった友達と離れ離れになることを悲しみ、また中学校という新たな世界に心躍らせる者も多いだろう。
そして私は新しい世界に期待を抱く者だった。
私には悲しいとかつらいという感情が備わっていなかった。本当は心のどこかにはあったのかもしれない。だが何故かそれを隠し、いつしかその感情に気づけなくなってしまっていた。
しかし心が限界を迎えた時、私はようやくその感情に気づくこととなる。
始まりは些細なことだった。友達Aが友達Bをいじめていたことが発覚した時。
AもBもとても仲が良かったことから、私は仲直りさせようと試行錯誤。しかしうまくいかず、仕舞いには私もBからいじめをうけてしまった。
そこから人間不信に陥り、「つらい」という感情が爆発した。
わけも分からず泣きじゃくり、近くにあったおもちゃを壁に投げつけようとした。その時だった。
『物を投げちゃだめだよ』
どこからか声が聞こえ、私は思わず手に持っていたおもちゃを落とした。
「……だれ?」
辺りを見回すが誰もいない。当たり前だ。ここは自分の部屋なのだから。
「……気のせい?」
『おもちゃが壊れちゃうでしょ』
「え?」
『それに壁も傷つくし。あと、そんなことしたって現実が変わるわけじゃないじゃん』
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
次々と響く声に戸惑い、制止させる。すると目の前で黒いもやが渦を描き、やがて人の影に変わった。恐る恐る、それに尋ねる。
「あなたはだあれ?」
返事はなく、代わりに口角がほんの少しだけあがったような気がした。
そして影はそのまま消えてしまった。
それが後に私のヒーローとなる、彼女との最初の出会いだった。
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