私と生きる彼女

璃志葉 孤槍

第1話 彼女との出会い

「あなたはだあれ?」


 そう発しても、返事はなかった。


 自分と同じくらいの背丈だということはわかるものの、男なのか女なのかもわからない。まるで黒いクレヨンで塗りつぶされたように黒々とした影だけが、私の視界に映って見えた。



 小学六年生と言えば慣れ親しんだ小学校にお別れを告げる歳。転校生などの一部を除けば、六年間も一緒だった友達と離れ離れになることを悲しみ、また中学校という新たな世界に心躍らせる者も多いだろう。

 そして私は新しい世界に期待を抱く者だった。


 私には悲しいとかつらいという感情が備わっていなかった。本当は心のどこかにはあったのかもしれない。だが何故かそれを隠し、いつしかその感情に気づけなくなってしまっていた。

 しかし心が限界を迎えた時、私はようやくその感情に気づくこととなる。


 始まりは些細なことだった。友達Aが友達Bをいじめていたことが発覚した時。

 AもBもとても仲が良かったことから、私は仲直りさせようと試行錯誤。しかしうまくいかず、仕舞いには私もBからいじめをうけてしまった。

 そこから人間不信に陥り、「つらい」という感情が爆発した。


 わけも分からず泣きじゃくり、近くにあったおもちゃを壁に投げつけようとした。その時だった。


『物を投げちゃだめだよ』


 どこからか声が聞こえ、私は思わず手に持っていたおもちゃを落とした。


「……だれ?」


 辺りを見回すが誰もいない。当たり前だ。ここは自分の部屋なのだから。


「……気のせい?」

『おもちゃが壊れちゃうでしょ』

「え?」

『それに壁も傷つくし。あと、そんなことしたって現実が変わるわけじゃないじゃん』

「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 次々と響く声に戸惑い、制止させる。すると目の前で黒いもやが渦を描き、やがて人の影に変わった。恐る恐る、それに尋ねる。


「あなたはだあれ?」


 返事はなく、代わりに口角がほんの少しだけあがったような気がした。

 そして影はそのまま消えてしまった。

 それが後に私のヒーローとなる、彼女との最初の出会いだった。

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