第14話 自己紹介

「これより1限目を開始します。」

 ホームルームを終え授業が始まる。どうやら授業もAIでは無くクロウデェンが担当するみたいだ

「まずは皆さんに自己紹介をして貰います。これから2年を共にするあなた達が名前も知らないようでは先が思いやられますからね。名前、出身、好きな物、自分が人より優れていると感じる特技、その他言いたいことがあればで構いませんが。では1番のアル君からお願いします」


「え?僕からですか…少し考える時間とかって」

 クロウデェンの畳み掛けるような説明を終えてすぐの指名に困惑を見せている。アル、ジュアリー児院では見た事がないので別の児院の人だろう。


「ダメです。自己紹介と言っても授業です速攻で決断する能力を鍛えることも大事なので経験だと思って頑張ってください」

「ちっ、何だよそれ」

 突っかかるような野次が飛ぶ。順番次第で思考の時間に差異が生まれるがそんな事は承知の上だろう


「そうですか…分かりました。えっ、えーっとアルです。出身はアリア児院で、好きな物…は数字の7です。特技は、遠くにあるものが良く見えることです」

 自己紹介を終え肩の荷が降りたのかホッとした顔を浮かべている、話し方からあまり人前で話すのが得意では無いことが分かる。

 好きな物…児院に自分の所有できる物なんて無いに等しかったし、自分の番までに考えておく必要がありそうだ


「ありがとうございました。次はイヤーナさんお願いします」


「はい、イヤーナです。出身はジュアリー児院で好きな物はありませんが、好きなことはソラさんと競い合う事です。もっとも貴女クロウデェンのおかげで彼の戦意が削がれてしまいましたが…特技は少し人より耳がいい事です」


 淡々と自己紹介をこなすイヤーナ君だったが冷静な口ぶりの裏には怒りがこもっているのも分かる。当然と言えば当然だがジュアリー児院と他では彼女に対する見方は大きく変わる


「ありがとうございました。次はオルナさんお願いします」

「オルナです。出身はアリア児院で好きな物はぶどうパンで特技はジャンプで人より高く飛べます」

 ぶどうパン…確かに食べ物でもいいのか。なんて頭で考えている間にも皆の自己紹介は着々と行われ、気づけば僕の番が近づいていた


「では、次はソラさんお願いします」

「ソラです、出身はジュアリー児院です。

 好きな物は青い空で、嫌いなものはそれを壊そうとする人々。特技は人より少し記憶力が良い事です」

「ありがとうございました。では次の方」


「ユウ。出身児院はアリアで、好きな物は無い。特技は相手の考えていることが大体わかること」

 相手の考えが分かる?本当かは、分からないけどクロウデェンの考えや先に起こりうる問題の為にも仲良くなる必要がありそうだ…


 その後も自己紹介は続きリツ、ルージ、ルイを始めとしたジュアリーのメンバーは最後まで終わり、残す所あと一人になる。


「ローズよ。この茶番に付き合う気は無いから、名前だけは言えばいいでしょう?」

 黒髪で赤い瞳…クロウデェンにも負け劣らない妖艶差をもつ彼女は少し他の人とは違うオーラを感じた


「自己紹介ですのでそれで構いません。貴女の立ち回りがクラスへの貢献を損なわないのであれば何も言うことは無いです。以上で自己紹介は終了になります。今回聞かせて頂いた特技は今後、貴方達の大きな成長材料になります。向き合う日が授業で訪れるので心構えしておくと良いでしょう」

 特技…確かに人より優れている点を伸ばすことは重要だ。ただ彼女が言うと裏があるように思えて仕方ないが


 その後も休憩を挟み授業は続いた。数式などの問題に変わりはなかったが文学、旧明国語が今までのものと大きく異なっていた。クロウデェン曰く

「新しい解釈によってこれまでのものと異なった表記になっています」

 と言っていたが流石に無理があるし建前上そういう言い方をしているだけなのだろうか…

 そうこうして一日が終わった。




 ___「ソラ、少しいいか?」

 呼んだのはルージだった。あの日以来話せてなかったので僕は承諾する

「うん、ここじゃアレだし歩きながら話そう」

「分かった」

 僕達は帰路に着いた。都市アルカナム、児院とは違い外の景色には海が見える…夕焼けに照らされる青い海は絶景だ


「外の世界ってこんなにも綺麗なんだね」

「あぁ、セルシオにも見せてやりたかったよ」

「…」

 お互いが言葉を詰まらせる。。。

 覚悟を決めたのかルージが沈黙を破る


「ソラはクロウデェンの事どう思ってる?」

「セルシオの仇…かな」

「俺はあいつを殺したい。今すぐにでも!

 だからソラ手伝ってくれないか?」

 ルージの目は本気だった…でも僕は、、、この復習を誰かに譲る気は無い

「クロウデェンを殺すのはまだ早いと思うんだ…僕はもう少し彼女の思惑を見極めたい」

「でもよぉ!ソラ!!不意をつく、くらいじゃないと殺せないんじゃないか??」

「ルージは心配しないでいいよ…」

 それにルージの手を汚させる訳にはいかない。


「そ、そうやって俺は蚊帳の外…なのか?たまには頼ってくれよソラ」

「いいんだ!今はホッといてよ」

「ソ、ソラ…ごめん。俺ちょっと走って帰るわ」

「ごめんルージ!そんなつもりじゃ…ルージ」

 走りさっていくルージを追えず手を握りしめる…何をやっているんだ僕は、、他人に当たって上手くポーカーフェイスのひとつも出来ない。救うことの出来なかった手の平からまた零してしまうのか…


 二人の思考がすれ違う。

 歯車が着々と音を立てて崩れ出す



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