第12話 デートに誘え!
――婚姻――それは男性と女性が夫婦となること。貴族社会においては、両家の結びつきを強固なものとする手段でもある。
シアは10歳のときに大飢饉に見舞われた領民を助けるために父が蓄えてくれた、婚姻のための持参金を手放すように願い出た。
持参金のない貴族女性はまともな結婚はできない。だから、シアは10歳で誰とも婚姻せず修道女になることを決めた。弟の成人まで修道女になるのは待ってほしいと両親に説得され、シアは自領から出ることなく、つつましやかに過ごしていた。しかし、16歳で弟を亡くし、弟に扮して生きるようになってからますます婚姻について考えることはなくなった。
そんなシアが婚姻の当事者になる日がくるとは思ってもみなかった。しかも、シアが選ぶ側だとは、想定をしていなかった。
「明日から…、いや、もう朝だから今日からか。みんなにどんな顔をすればいいのだろう」
シアの婿候補は、全てシアのごく親しい男性だ。マクシミリアン王子以外は、同じ白銀の騎士団の騎士であるから、毎日のように顔を合わせることになる。
トーマスはこんな私を愛していると言ってくれた。他の候補者も嫌ってはいない…はず。いや、王子はどうだろう?時々機嫌が悪そうな感じがする。
婿候補となった彼らとは、今までと同じように接していいのか、それとも…。彼らも彼らでアルフではなく、シアとして接してきたらどうしよう。そうなると、アルフとして生活できなくなってしまう。それは困る。
シアは一人で考えても答えがでないことを、ああでもない、こうでもないとシアは思考を巡らせる。窓を見ると朝日が昇ってきていた。
「シア、起きているかしら?」
とりとめのないシアの思考を中断させるように、扉をノックする音が聞こえる。その声の主は、国王陛下の第二側妃であるメアリ妃殿下だ。
シアは、立ち上がって扉を開く。
「客人なんだから、自分で開けちゃだめよ。枕元のベルを鳴らせばよかったのに」
またしても侍女の恰好をしたメアリ妃殿下がシアを嗜める。
「そうは言われましても…」
「シア、あなたは屋敷の客間に泊まっている『お・きゃ・く・さ・ま』なのよ!」
やたらと『お客様』を強調する。もはやこれ以上、反論しても仕方がないとシアは諦める。
シアの降参オーラを感じてか、メアリ妃殿下は朝食を運び込む。
「え?そんなことまで?」
「侍女ですから、当然です」
侍女じゃなくて、元侍女の側妃または侍女に扮している側妃では?と思ったが、話がややこしくなりそうなので言わないでおく。
「シア、今、あなた失礼なことを考えたでしょ?」
黙っていてもお身通しだったようだ。それでも滅相もないと慌てて誤魔化すことにした。
メアリ妃殿下はそれ以上追求してくることはなく、シアは黙々と朝食を取った。その間、メアリ妃殿下は客間の隅でじっと控えていた。
はっきり言って、気まずい。なぜここで、国王陛下の妃を侍女扱いして、男爵令嬢の自分が優雅に朝食を取らねばならぬのか。
シアが朝食を取り終えるころには、メアリ妃殿下が着替えの準備をしていた。横目で見る限り、男性用の服を用意してくれているようだ。が、そのデザインに少々癖がある気がする。
「……メアリ妃殿下?あの…ちょっとその服で騎士団の寮に戻るのは…」
「こういうのも似合うと思って、用意したのよ」
メアリ妃殿下が用意した服は、男性用ではあったが、両肩には豪華な金色のフリンジが縫い付けられ、また胸元や袖口、上着の裾に華美なひらひらとしたレースがこれでもかとつけられ、要所要所に手の込んだ刺しゅうが入っているものだった。はっきり言ってトーマスと見合いした時の女性騎士風の制服より、何倍も派手だ!
「…どちらの貴公子様のお衣装ですか?」
「ヴィオンフォード王国の英雄、アルフレッド・スプリングフィールド様の服に決まっているでしょう?」
確かに、アルフレッド・スプリングフィールドは国の英雄という事実は間違いない。実際のところはシアとシアの弟であるアルフの二人の功績で英雄になったという裏事情は置いておくとして。
「ということは…、これを私が着るのですか?」
「当たり前じゃない!シア以外、こんなの着こなせないわ」
確かにそうかもしれないが、なぜこんな派手!派手!な服を着なければならないのか。
「昨日着ていた、私服でいいんですけど…」
「残念、あれは洗濯に回したからここにはないわ」
昨日は馬に乗って大急ぎで来たため、汗まみれだったかもしれない。しかし、シアはこの5年間、男性だらけの騎士団で寝泊まりするどころか、遠征で野宿をすることもあり、女性であることを隠すために服を着た状態で魔法で服を水洗い・乾燥なんてものはお手の物だ。
洗濯に回さなくても、まったく問題がなかったのに…。
「あの私服は何かのついでで構わないから、私の部屋に寄ったときに返すわね」
もはや、あの派手!派手!な貴公子様の服を着るしか他に道はない。シアは観念した。
「どうしたアルフ?その恰好は?」
シアが団員寮に戻るなり、バロウズ伯爵家の長男デリックから早速指摘が入った。
「メアリ妃殿下の悪い冗談に付き合わされた」
そう答えると、デリックは全てを悟ったような顔でシアの肩をポンと叩いた。
「部屋に戻って制服に着替えてくる」
「しばらくそのカッコ良過ぎる服をみんなに自慢してきたらどうだ」
「兄様、先に謝っておく。すれ違った女性が悉く倒れて大変だった」
デリックの冗談をさらりと流しつつ、シアは恐ろしい事実を告げた。
すれ違う女性、すれ違う女性が白馬を駆る貴公子然としたシアを見てあまりの格好良さに魂を抜かれたかのようにその場に倒れ込んでしまった。そのまま放置するのも騎士道精神に悖るということで、近所の人の手を借りながら介抱したり、神殿や医者の元に連れていく算段を付けたりして、団員寮までの道のりが遠いものとなってしまった。おかげで少し早めにレオノーラ王妹殿下の屋敷を出たはずなのに、遅刻ギリギリの到着になってしまった。
「……。わかった。お前の通った経路を中心に他にも体調を崩している女性がいないか念のため見回りしてくる」
「悪いね、兄様」
「いいって、いいって。いつものことだ」
デリックは、直属の部下を引き連れて去っていく。
本来であれば騒動を巻き起こしたシアも同行すべきであるが、事態を悪化させる可能性が高いため同行すべきでない。しかも、いつもよりもイケメン度が増しているシアが同行したら新たな被害者が発生してしまうだろう。
自分は自分で、できることをしよう。
シアはそう思い直し、自室に入りすぐに騎士団の団服に着替えた。やはり着慣れた団服は落ち着く。シアは、一呼吸してから訓練場に向かった。
シアが訓練に取り掛かろうとすると、見知った男がシアの前に現れた。だが、その男はひどく疲れ切っており、足取りもふらふらとしている。
見た目がかなり変わっているが、間違いない。ヴィクター兄様だ。
ライオネル王太子の下で一週間働かされた彼は、ぼろ雑巾のような扱いだったのだろう。そのせいか、貴族令嬢や貴婦人を次々に虜にした父親譲りの容貌が大きく減退している。
「……、ヴィクター兄様!大丈夫ですか」
「…アルフ、どうしてそこに…。そうか、俺も…そっちに行ったのか…」
「兄様!」
彼が見たのはシアではなく、この世にはいるはずのない『本当のアルフ』が見えているのか。
「つれないこと…を言う…なよ。もう俺は…」
ヴィクターはシアに覆いかぶさるように倒れ込む。シアと同じく訓練を始めようとした騎士たちがざわざわと騒ぎ始める。
「に、兄様!しっかりしてください」
シアはヴィクターを受け止め、一度、態勢を整えてから持ち上げた。普通の女性であればそのような芸当はできないが、シアは長身であり、騎士として鍛えているため、自分より少々大きい程度の男性ならば、難なく持ち上げることができた。
「先週とは反対ね」
先週はシアがヴィクターにお姫様だっこされていた。今回はシアがヴィクターをお姫様抱っこをする形になった。
シアの場合は、ヴィクターの上で暴れまわっていたが、ヴィクターは疲れ果てているのか、一つも反抗しない。
「に、兄様、こんなになるまで働かされて…」
シアは、ヴィクターの哀れな姿にこれ以上何も言えなかった。ヴィクターの端正な顔立ちを損なうほどの目元に濃い隈が刻まれていた。頬はやせこけ、肌も髪も艶がまったくない。
「みんな、悪い。ヴィクター兄様を医務室に連れて行く。僕抜きで訓練を続けてくれないか」
シアはヴィクターを抱えたまま医務室に足を進めた。
医務室にヴィクターを連れて行くと、医官が診察をすぐに始めてくれた。
「疲労のせいでしょう。病気というわけではなさそうです」
医官の言葉にシアはホッとする。
「見たところ、連日睡眠を取っていなかったようですね。しばらくこちらで休んでもらいますが、明日から数日は自室で休養した方がいいでしょう」
あまりにも疲れ切ったヴィクターの姿を眺めて、本当に数日で回復できるのだろうか?とシアは訝しんだ。
「アルフ殿、心配することはありませんよ。体力はありますから、休みさえすればすぐに回復します。こちらで念のため様子を見ておきますので、アルフ殿は訓練にお戻りください」
ヴィクターのことは心配であったが、ここにいても自分にできることはない。医官に後のことを任せて、医務室を出た。
シアが訓練場に戻ろうとすると、ザカリーとすれ違った。
「アルフ兄ちゃん、ケガでもした?」
「いや、僕ではなく、ヴィクターが過労で倒れたから医務室に運んだだけさ」
「あー、そっかぁ。不眠不休で働かされていたからそうなるかぁ」
ザカリーは遠い目をする。不眠不休で一週間の仕事とは一体何をさせられていたのだろうか。
「アルフ兄ちゃん、ヴィクター兄ちゃんが何をさせられていたか気になる?」
「そりゃあ、まぁ…」
気にならないと言ったら嘘になる。なにがどうして彼をあそこまで疲弊させたのか。
ヴィクターの過酷な一週間は次のとおりであったそうだ。
1日目:ハンブルベリー公爵家の前当主(90)の自伝の口述筆記
2日目~3日目:落第寸前の近衛騎士見習い10人率いて遠征
4日目:王国議会の会期前準備
5日目~6日目:オーウィック侯爵家の潜入調査
7日目:王妃殿下主催のお茶会手伝い
「大変そうと言えば大変そうだけど、あのヴィクター兄様がボロボロになるほどかと言われると…」
「それが、初日はヨボヨボのお爺ちゃんだから、話しながら突然眠り始めるし、眠ったかと思ったら起きだして話し始めるから、ヴィクター兄ちゃんは一睡もできなくって。結局、翌朝までそれをやらされてたみたい」
「うえ~、それは嫌だな。でもどうして、そんな仕事を回されたんだろう?」
騎士として戦闘能力の高いヴィクターにある程度の筆記能力と体力さえあれば誰でもできそうな仕事を回す理由が分からない。
「昔の儀式とか、式典とか覚えているのがそのお爺ちゃんだけらしくって、資料としては必要なんだけど、終始そんな感じだから、王太子殿下付き文官の誰もやりたくない仕事ベスト5に挙がっているみたい」
誰もがやりたくない仕事を押し付けられたということか。
「なるほど。2日目と3日目はまぁ大変そうなのは分かるけど…」
白銀の騎士団は人気が高く、選考基準が厳しいため、人格、実力ともに秀でた者が入団する。残念ながら、他の騎士団には家柄を笠に着た、いけ好かない若者や規律を守らない問題のある若者が交じっていることはある。今回は、選りすぐりの問題児を集めたのだろう。
「どの騎士もダメダメなのはそうなんだけど、遠征中にワーウルフの大群がやってきて、みんな散り散りになっちゃうし、王太子殿下から全員生きて帰ってくるように命じられてるから大変だったらしいよ亅
ワーウルフは、非常に獰猛な魔獣で、群れを形成して行動しており、弱いものを目敏く見つけては襲うという習性を持っている。しかも、練度の高い兵隊のように連携をしながら敵を追い詰める厄介な魔獣だ。
ヴィクター以外の騎士を集団で襲ったのだろう。
「それは災難だね。いや、でも、ワーウルフの季節じゃないような?」
「それがね、ダメダメ騎士1号がワーウルフの巣穴を突っついたんだって!」
「なんだって、そんなことを」
「ヴィクター兄ちゃんに恨みがあったらしいよ。ダメダメ騎士1号が集合時間に来ないから、ヴィクター兄ちゃんが探しに行ったら、空き部屋で女の子を連れ込んで楽しんでいたところを見つけたんだ。それで、ヴィクター兄ちゃんが強く叱り飛ばしたんだ」
それは当然のことだろう。逆恨みにも程がある。
「ヴィクター兄ちゃんって、顔がいいでしょ?」
ザカリーの言にシアは頷く。それは間違いない。10人が10人同じ答えを言うだろう。
「ダメダメ騎士1号が連れ込んだ女の子がヴィクター兄ちゃんに惚れちゃって、ダメダメ騎士1号が捨てられちゃったんだ。女の子は、あの手この手でヴィクター兄ちゃんを誘惑し始めちゃって…。」
女性絡みの恨みか。付き合っていた女性をヴィクターに取られたという話は、何度か聞いたことがある。
「あ、でもでも、安心して!ヴィクター兄ちゃんは女の子を無視してダメダメ騎士1号を引きずって運んだから」
何をどう安心したらいいのか、よくわからない。ヴィクターの女性関係は大丈夫なのだろうか?幼馴染としては、少々心配になってきた。場合によっては、暗い夜道に紛れてヴィクターにすげなくされた女性が刃物を持って…。
「…アルフ兄ちゃん、聞いてる?」
「すまない、ちょっと考えごとをしてた」
一瞬、髪を振り乱した女性に刺されるヴィクターを想像しかけていたとは口が裂けても言えない。
「そのあとも、ひどいものだったんだけどね~」
すると、一人の騎士がシアとザカリーの間に割り込んできた。
「…アルフ、ここにいたのか。さすがにそろそろ訓練の人数が足りなくなってきたから来てくれないか?」
そうだった。自分は訓練を中断してここにいるのだった。早く戻らなくては。今日は集団戦の訓練だからそれなりの人数が必要だ。
「ザカリー、ごめんね!その話はまた後で」
シアは騎士に促されて訓練場に向かって駆け出した。
その姿を見送って、ザカリーはポツリと呟く。
「シア姉ちゃん、早く本当のお姉ちゃんになってくれないかな…。どっちを選んでもいいからさ」
ザカリーにとっては、ヴィクターもトーマスも大事な兄だ。この二人がシアを想っていることを小さい頃から知っている。だから、どちらかに肩入れすることはできない。そうではあるが、シアが選ぶ相手は、この国の第二王子でもなく、亡国の王族でもなく、自分の兄のどちらかであってほしいと心から願わずにはいられない。
一週間後、シアの婿候補の四人はまたしても会議室に集められていた。そう、シアの婿候補として集められた、あの会議室である。
「この面々が集められているということは…」
ヴィクターは下あごに手を当てて、考えを巡らす。その顔には疲労の色はすっかり消えていた。医官の見立てどおり、少し休んだら瞬く間に体調が回復し、3日後には通常業務を行えるようになっていた。それから数日経った今、父親譲りの美貌も完全に復活している。
「皆の者、よく集まった」
ライオネル王太子が颯爽と現れる。その後ろにレオノーラ王妹殿下が続く。二人の姿を確認して、ヴィクター達は跪く。
「先日の見合いはどうだったかな?」
ライオネル王太子の言葉に4人が何とも言えない顔をした。
「うん、大なり小なり失敗しているよね、全員」
「お、俺は失敗していないぞ」
マクシミリアン王子だけは抗議の声を上げる。残りの三人は思い当たる節があり過ぎて胸を苦しそうに押さえている。
「マックス、アレクシア嬢との仲は全然進展していないよね」
「…ぐっ、まだまだ、これからだ」
兄の指摘に何も反論できない。王子とシアは先月5年ぶりに再会したばかりである。先日の見合いで空白の5年間を埋めることができたかどうかという程度で、他の候補者より優位に立てたわけではない。
「では、見合いの後にアルフではなく、アレクシアとして接することができた人はいますか?」
レオノーラ王妹殿下は4人の若者を見回す。しかし、全員が下を向いて一向に目を合わせようとしない。
「全く、嘆かわしいことです。こんな状況でアレクシアが選んでくれると思うのですか」
「面目ありません」
「申し訳ありません」
「善処します」
ヴィクター、コリン、トーマスの順に頭を下げた。
「しかし、叔母上。そうは言ってもアルフの仮面を張り付けたシアをどう攻略すれば…」
見合いを終えたシアは、今まで以上に貴公子然とした態度を取るようになった。女性慣れしているヴィクターですら、攻略の糸口が全く見えない。シア自身も、婿候補の4人とどう接すればいいのか、困惑しているのだろう。彼らもシアを大切に思うが故に、強引に迫ることもできない。
「そこは自助努力でなんとかなさい。と言いたいところですが、私からも折を見てあなた方としっかり向き合うようにと、シアに言いましょう」
レオノーラ王妹殿下の申し出に4人の候補者の顔が少し和らぐのが見えた。
その様子を見た、ライオネル王太子が手を軽く一つ叩いて自身に注意を向けさせた。
「さて、そろそろ本題に行こうか。来月、レオノーラ叔母上が特使としてセントリージュ公国に赴くことになった。マクシミリアンは叔母上の補佐として、ヴィクター達は護衛として連れていくことになった」
セントリージュ公国は、高い山々に囲まれ、交通の便が悪く、他国との交流が薄い。約五十年前にセントリージュ公国とヴィオンフォード王国の間にある国が両国に対し大規模な侵略戦争を始めた。これをきっかけにセントリージュ公国とヴィオンフォード王国は同盟関係を結び、以来、両国は定期的に交流を続けている。なお、ヴィオンフォード王国の先代王の妻はセントリージュ公国の公女である。
セントリージュ―ヴィオンフォード両国間の同盟内容や貿易の約定などの見直しや再締結については事務方レベルで定期的に協議がされている。しかし、正式な決定を双方で取り交わすには、それなりの身分の者を派遣する必要がある。そこで、現国王と同じくセントリージュの公女を母に持つ、レオノーラ王妹殿下を派遣することになったという次第である。
「私は特使ではありますが、あちらとしては私をリージュ祭に招きたいという意味もあるのです」
レオノーラ王妹殿下は、凛とした表情を向けた。
リージュ祭とは、建国者である聖女リージュの生誕を祝う祭りである。毎年行われるものではなく、十年に一度、盛大に行われる祭りである。この祭りは前夜祭、本祭、後夜祭と三日間に渡って行われ、この三日間だけは他国の観光客や行商人が出入りする。
あえて祭りの時期に招いて、セントリージュ公王の縁戚であるレオノーラ王妹殿下をもてなすことで両国の友好を強めようということのようである。
「そこで、だ。叔母上の側仕えとしてアレクシア嬢を付けるから、仕事の合間に彼女を祭りに誘うというのはどうだろうね?」
ライオネル王太子は、わざとらしくウィンクをする。
「王太子殿下、それが第二の課題ですか?」
ヴィクターは、自分を含めた四人が会議室に集められた時点でシア関連で何か課題を出されるだろうと察していた。
「そういうこと。シア嬢には最初から女性の姿で同行してもらうから、あの鉄壁の貴公子然とした態度を取れないはずだ。ただ、シアも側仕えとして一応仕事しているから、いつでも誘えるわけじゃない。纏まった休息時間は祭りの期間中、三か所くらいだね。ということは…?」
「誰か一人はシア嬢を誘えないということですか」
トーマスが呟く。
「君たちの休息時間とシア嬢の休息時間が重なっていないところもあるから、もっと条件は厳しい。早く誘わないと大変なことになるよ?」
「…でも、複数でお出かけということにすれば、何とか全員お嬢とお祭りを楽しめ…る…?」
「それではデートにならんだろうが」
コリンの発言に、王子がピシャリと言い放つ。ヴィクターもトーマスも声にこそ出さないが怪訝そうな顔をした。
「あはは!共同戦線っていうのもありかもしれないけど、できれば、デートという形でお願いしたいかな。くれぐれも、全員ヘタレが過ぎてシア嬢をデートに誘えないなんてことのないように期待しているよ」
王太子は言いたいことを言って、会議室を後にする。
「では、皆様。セントリージュへの行程や予定につきましては、追ってお知らせします」
レオノーラ王妹殿下も王太子に続いて退出した。
こうして、第二の課題『シア嬢をデートに誘え!』が始まった。
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