第8話 お見合い練習?本番?(トーマス編【前編】)
メアリ妃殿下は先週と同じく侍女の恰好をして、レオノーラ王妹殿下の屋敷でシアを待っていた。
「予定の時間より遅れているわね。まさか、シアが来ないなんてことは…」
彼女は、窓からエントランスを覗いたり、一旦引き返して控室に戻ったり、何回も繰り返していた。
実際のところは予定していた時間より15分程度しか遅れてはいないが、シアは基本的に約束の時間より早く来る性格であるため、いつもとは違う何かが起きている可能性がある。
「落ち着きなさい。あなたがそこでバタバタしてもどうしようもないのだから」
レオノーラ王妹殿下が嗜める。
「それは分かっていますが、先週、あんなことがあったから」
『あんなこと』とは、ヴィクターとシアの見合いでの事故のことだ。
いくら、幼い頃から見知った相手とはいえ、貴族令嬢が肌を晒してしまう事態は心に傷を負ってもおかしくはない。城内で見た様子では、いつもどおり貴公子然としたアルフの姿で仕事をしているシアを見かけたが、もしかしたら無理をしていたのかもしれない。
メアリ妃殿下が気をもんでいる間に屋敷に備え置いている通信用の魔導具に反応があった。
レオノーラ王妹殿下がすっと立ち上がり、打ち出された通信文を手に取る。
「バロウズ家長男のデリックから通信ですね。『城下ヲ騒ガセテイタ強盗団ヲ アルフガ捕縛 強盗団ヲ衛兵二引キ渡シ後 アルフヲ ソチラニ向カワセルタメ 少シ遅レル』ということだそうよ」
レオノーラ王妹殿下の言葉を聞き、メアリ妃殿下は胸を撫でおろす。
「それにしても表向きには休暇のはずのシアが強盗団の捕縛をしているなんて、どういうことなんでしょうね」
「さぁ、本人が来たら聞いてみましょう」
メアリ妃殿下は、軽い足取りでシアを迎える準備を始めた。
屋敷の入口に、白馬に乗って駆け込んでくる一人の騎士がいた。ここまで急いできたのか、息が少々上がっていた。その騎士は、男性にしては少々細身で白銀の騎士団の制服をまとい、日の光で様々な色に変化する銀髪をしていた。
「フォフォフォ、お嬢様。急がなくても結構ですよ」
トムはその騎士をシアであると確認し、屋敷の入口の門扉を開けた。
「す、すまないね。…あれ?今週もトムが庭仕事しているの?」
シアは、手早く入り口近くに馬を留める。
「こちらの専属庭師の体調が優れなくて、しばらくこちらで働かせていただく予定です」
トムは恭しくお辞儀をする。
その『しばらく』がシアが彼らからプロポーズされるまでの約半年だとはシアは思いもよらないだろうが、今はあえて黙っておく。
「この庭、広いから庭の手入れを頑張りすぎて倒れないようにしてね」
馬から降りたシアは軽く手を振りながら、小走りで屋敷に入っていった。
「お嬢様、その心配は無用ですよ」
去っていったシアの背中を眺めながら、トムは呟く。
この屋敷の専属庭師は複数いるが、誰も体調を崩していない。トムは、彼らの仕事を少し手伝っているだけだ。ただ、庭師としての経験年数がトムの方が上であるため、彼らに助言していることが多い。
トムから急がなくてもよいと聞いてはいても、やはり自分よりも立場が上の人間を待たせている以上、なるべ急いだほうがいい。
屋敷に入るまでは、小走りで。屋敷に入ってからは足音を立てないようにギリギリの早足でシアは進む。大股で力強く進んだ方が早いのは間違いないが、貴人に対する礼を欠く行為なのでそれはしない。
「大変申し訳ありません。遅れました」
「大丈夫よ、デリックから通信があったから。大変だったわね」
にこやかな笑顔のメアリ妃殿下が控室にシアを案内し、シアもそれに従う。
「それにしても、騎士って強盗団の捕縛までするのね。衛兵の仕事かと思った」
メアリ妃殿下は話しながらシアの白銀の騎士団の上着のボタンに手を掛けた。
「っえ、あっ。自分で脱ぎます」
メアリ妃殿下の動きがあまりに自然であったため、シアはうっかりメアリ妃殿下のされるがままになっていた。
「シア、今日も私は侍女だから。いいわね!」
先ほど見せた、にこやかな笑顔とは違い、有無を言わせぬ圧力を感じる。
「は、ははいぃぃ!」
シアはその圧力に負けて情けない返事をした。
「それでさっきの話だけど、どうしてシアが強盗団の捕縛を?今日は休暇のはずでしょう?」
「いつもの日課で、早朝から城下町を走っていたら偶然怪しい集団を発見してしまいまして…。身体的特徴から最近騒ぎになっている強盗団だろうなと察しがつきました」
シアは大したことのないように話しているが、見知らぬ男が集団でいたら怖くてたまらないとメアリ妃殿下は思う。しかも、盗みに入った家の人間を容赦なく殺す残忍極まりない強盗団と知っていたのなら、その場を離れたい。
「話を聞かせてもらおうと声を掛けたら逃げ出してしまって。強盗団の人間一人を私の前に蹴飛ばして、私の足止めをする意図だったのだと思うのですが、幸いなことに魔力の低い奴らばかりでしたので、軽く魔法で転ばせてすぐに捕らえました。いやー、ヴィクター兄様のブレスレットの効果を試すのにちょうど良かったです。範囲魔法の効果が驚くくらい強化されました」
シアは誇らしげにブレスレットをメアリ妃殿下に見せる。
「そう、それはお疲れ様だったわね」
ヴィクターの謝罪の品が役に立ってなによりだわと思ったが、シアに恥ずかしい記憶を思い出させたくないので、短く相槌を打つ程度に留める。
「むしろ、その後の引き渡しの方が面倒でして。救援信号を送ったら、ちょうど西区と中央区の詰め所の管轄の境界で捕縛したので、どっちに身柄を引き渡すかもめてしまって、おかげでこちらに向かうのが遅くなってしまいました」
シアは小さくため息をつく。
「いくらあなたが強いと言っても、あまり一人で行動しないようにね」
その後は、メアリ妃殿下によって先週と同じく湯あみをさせられ、肌の手入れや化粧、つけ毛を施され、新たな服に着替えさせられた。
「今回のはドレス?ですか?」
鏡の前に立ったシアは首をかしげる。騎士団の服に近いが、全体的に刺しゅうが丁寧に施されており、かなり手間がかかっている。また、袖口や襟周りには豪華なレースがつけられており、派手な印象だ。劇場の舞台衣装にも見えなくもない。
「今回は、ドレスではないわね。儀礼用の女性騎士の制服をイメージして作ったらしいわ」
「あぁ、レティシア王女は元騎士ですからね。ドレスよりもこういった服を好んで着用しているかもしれませんね」
着用してみて分かったが、普段の騎士団の服よりも女性の身体に合わせた作りになっており、動きやすい。できることならば、この服を簡素化したものを毎日着用したいくらいだ。しかし、この服を着てしまうと、シアが女性であることがはっきりしてしまうので、それは叶わぬ願いだ。
「今までで一番うれしそうね。私としてはもっとシアに素敵なドレスを着てほしいと思っているのだけれど」
メアリ妃殿下は大げさにため息をつく。そんなメアリ妃殿下の様子を気にせず、シアは大きな鏡の前で自分の姿を何度も確認していた。
「そうは言われましても、すっかり騎士団の制服に慣れてしまったので」
シアは困った表情を浮かべる。
「そんなに喜んでいるなら、うちの息子に見せてあげたいくらいだわ」
メアリ妃殿下の一言にシアは、首を傾げた。なぜ、マクシミリアン王子殿下が話に上がるのだろうか?
「今までのシアに着せたドレスは全て、うちの息子がデザインしたものなのよ」
「あの、クスコバの民族衣装風のドレスも、あの露出度の高すぎる…ドレス…も?これも?」
一瞬、シアはヴィクターとの不幸な事故を思い出し、顔が赤くなる。王子は何を考えてあんな扇情的なドレスをデザインしたのだろうか。
「そう、全部!ただ、今回の服は今日の見合い相手の意見も入っているわね」
「今日の見合い相手の意見?」
思わず、メアリ妃殿下の言葉をそのまま繰り返す。
「今日の午前の見合い相手は、トーマス・バロウズよ」
ヴィクター兄様に続いて、トーマスも?バロウズ伯爵家はレティシア王女との見合いに力を入れているのだろうかとシアは知らないとは言え、勘違いの推測をする。
「さすがに、今回は真面目な彼のことだからあんなことにならないと思うわ」
「……そうですよね」
シアは力なく笑う。あんなことが二回も起きてほしくはない。
「さ、これで完成。今日は天気が悪くなりそうだから、温室で見合いを行うわ」
シアはメアリ妃殿下の後の続いて控室を出る。
メアリ妃殿下の先導で、屋敷と温室の間の渡り廊下に移動すると、トーマスが待っていた。
トーマスはシアの姿に気が付くと、きれいな所作で一礼する。
「今日は、私の見合いに付き合ってくださいましてありがとうございます。それと、先日は兄が大変失礼しました」
トーマスの顔に影が強くなる。彼には兄が二人いるがどちらのことを指しているかは明白だ。
「ヴィクター兄様のことは気にしなくていいよ。それより、早く見合いの練習を始めた方がいいんじゃないかな」
「ありがとうございます、シア姉。では改めまして」
トーマスは背筋をピッと伸ばす。
「初めまして、レティシア王女殿下。お会いできて光栄です。私はバロウズ伯爵家のトーマス・バロウズと申します。本日はよろしくお願いします」
トーマスはシアの前に跪く。
「よ、よろしく」
3回目の見合いで、真面目に見合い練習をする人を初めて見た。
マクシミリアン王子とヴィクターの二人が真面目に見合いの設定を踏襲していなかっただけで(ヴィクターに至っては始めようとした途端に不幸な事故が発生して中止になっている)、こんなことに驚く方がおかしい。だが、シアは驚きのあまり、気の利いた返事ができなかった。
「ご挨拶代わりに手の甲に口づけをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
トーマスはシアをまっすぐに見上げた。トーマスは自分が格下であることを自覚し、許しを願っている。
「ええ、どうぞ」
シアはぎこちなく手を差し出すと、トーマスはその手に口づけをする。
シアは、護衛対象である高位貴族の令嬢に対し、挨拶として手の甲への口づけの許可を求めるという機会は何度もあった。しかし、その逆の立場は初めてだ。
もっとも、手の甲に口づけをされること自体は初めてではない。先週のマクシミリアン王子との見合いでは、王子が流れるような所作で手を取られ、そのまま口づけをされてしまった。あれはむず痒かったが、今回のトーマスの口づけもむず痒い。練習とは言え、まるで物語のお姫様のような扱いだ。
「レティシア王女殿下?どうかなされましたか?」
上目遣いでシアの様子を観察している。
「いえ、何でもありません」
シアはこの状況が恥ずかしくなり、顔が赤くなる。確かに、レティシア王女の代わりとして見合い練習をするのであるから、お姫様扱いされるのは当たり前だ。しかし、実際にされる身になるとこんなにも恥ずかしいものなのか。
「なんて、初心な方なんでしょう!レティシア王女殿下、あなたは可愛らしい人だ」
トーマスは屈託のない笑顔を見せる。普段の真面目で冷静な彼とは別人のように見えた。
「えっ!」
「失礼、口が過ぎました」
トーマスはさっと立ち上がったが顔は笑ったままだ。その笑顔に嫌味のようなものはなく、むしろ、嬉しさが隠し切れないという様子だ。
「では、温室までエスコートさせていただきます」
トーマスはシアに手を差し出すように促す。
トーマスって、こういう人だったっけ?
シアは困惑していた。いつもの彼ならば、真面目で表情をあまり崩すことがない。 普段のトーマスとの違いに戸惑いが隠せないまま、シアは手を差し出す。
「今日は楽しい時間が過ごせそうですね」
シアにかろうじて聞こえる小さな声でトーマスは呟く。その声はいつもより低く男性的だ。
シアはここで確信する。トーマスもヴィクター兄様と同じくテオドールおじ様の息子だ、と。
シアが動揺しているのに比べ、トーマスは冷静かというと実はそうではない。
ああああ!シア姉が可愛い!普段、あんなに呼吸するかのごとく、キザなセリフを吐いているのに、立場が逆になるとあんなに動揺するなんて!まるで、少女のようだ。
何ということはない、彼も大きく心が乱れていた。しかし、彼は舞い上がる心を隠すのが上手い。なぜならば、幼き日よりシアへの思いを隠し続けているからだ。
母親が誰かも分からない、後ろ盾のない伯爵令息。それがトーマスだ。だからこそ、自然と他の兄弟より一歩引いて生きてきた。シアが欲しいなんて、望んではいけないことだった。
見合い前日に、父であるテオドールはトーマスに声を掛けた。
――遠慮をするな。お前のしたいようにやれ――
何事にも、他の兄弟に遠慮がちな三男を気遣ってのことだった。次男よりも三男に肩入れしたような形に見えるが、女性慣れした次男の方が圧倒的に有利だ。この程度で状況は変化しない。
――心配いりません。父上。今回だけは遠慮しません――
トーマスの目には強い意志が見えた。そんな息子の目を見て、テオドールも安心した。
トーマスがあえて、国王が設定した見合い練習という茶番を続けているのかは、理由がある。
シアとの見合いの順番が三番目となると、先の二人がもう手を尽くしている可能性がある。先の二人の性格から、国王が設定した茶番に乗ることはないだろう。よって、自分はあえて、シアをレティシア王女に見立てて口説き落とす作戦に出た。序盤で大失敗した兄と比べれば、悪くない反応だと思う。
それに、シアをレティシア王女と見立てなければ、どう口説いていいのか分からないという情けない理由もある。常日頃から、『シア姉、愛しています!』と思ってはいる。それも、うっかり口を滑ったら言ってしまいそうなほどに。普段は理性を総動員して抑え込んではいるが。
いきなり心のうちに秘めてきたものをさらけ出してしまってはシアが幻滅するかもしれない。これまで築いてきた関係性も壊れてしまうのは間違いなく、明日からの仕事にも支障がでてくる。
見合いの練習という設定であれば、シアに少々甘い言葉をささやいてもそこまでおかしなことにはならないだろう。
「レティシア王女殿下、こちらをご覧ください」
「へぇ、珍しい植物がいっぱいですね」
二人は温室に入り、トーマスは温室を案内する。ちなみに、トーマスはこの屋敷の庭園も温室も下調べは済ませてある。やはり彼は真面目な性格だ。
「こちらの花は、クスコバ原産ですよ。色鮮やかで美しいですね」
「ええ、そうですね」
温室だからこそ、本来はヴィオンフォード王国では育たない植物が植えられている。
「こちらの花は、数が少ないうえに、咲いても30分でしぼんでしまうそうです。こんな貴重な花が咲いているなんて、王女殿下を歓迎しているかのようですね」
トーマスは、事前に温室内を確認し、どんな植物が植えられているのか調べていた。シアをエスコートしながら、事前に叩き込んだ知識をよどみなく披露する。
そんなトーマスの横顔を見て、シアは思う。
トーマスは草花にあまり興味はなかったはず。ならば、この知識はレティシア王女殿下の見合いのために習得したものだろう。彼は実に努力家だと改めて感心する。この知識の吸収力は、文官の方が向いている。どうして彼は、騎士団に入ったのだろうか。
「レティシア王女殿下、どうかされましたか?私の話が長すぎましたでしょうか?」
トーマスは心配になり、シアの表情を探った。
「いいえ、そんなことはありません。少し気になったのです。トーマス様はどうして騎士になったのでしょう?文官でも出世できそうに思いまして」
「…そうですね。守りたい人がいたからでしょうか?」
少し間を置いてから、トーマスはシアの瞳をまっすぐに見つめた。
「守りたい…人?」
「でも、情けないことに私の守りたい人は、私の手の届かないくらい強かったんです」
トーマスは力なく笑う。トーマスの騎士としての実力もかなりのものだ。トーマスよりも強いとなると、かなり数が限られる。
「なるほど!トーマス様はご家族思いなのですね」
「?」
トーマスはシアの発言の意図が分からない。
「デリック様を助けるために、騎士になったのですね」
「は?ちょっと、シア姉!どうしてそんな結論に?」
あまりの頓珍漢さに、思わず口調が乱れ、シア姉呼びに戻ってしまった。
「だって、トーマスより圧倒的に強いとなると誰かと考えたら、デリック兄様くらいでしょ?」
いや、シア姉もそうでしょう!と反論したいところだが、ここは我慢する。
「他にもいると思いますが…」
「うーん、誰だろう?他の騎士団なら何人かいると思うけど」
シアは一生懸命、他の騎士団員の顔を思い浮かべる。先ほどから、レティシア王女の仮面がはがれている。元々そんな王女はいないのであるが。
「もう、いいです。シア姉は昔からそうだから」
シアはあまりにも鈍すぎる。また、自己評価も低すぎる。
こんなにもシアに思いを寄せる男たちがいるのに、彼女自身がその存在に気が付かないとは彼女の異常な鈍さと自己評価の低さが招いた事態だ。
彼女の育った環境に問題があったかもしれないが、それにしても長年こんなに一緒にいるのに悟られないというのは、いかがなものか。
トーマスによる温室の案内を終えて、二人は温室内に用意された応接セットの椅子に腰掛けた。
すでにメアリ妃殿下が控えており、二人が着席したのを確認すると手早くお茶とお茶菓子のセットを並べる。
「レティシア王女殿下、歩き疲れてはいませんか?」
「お気遣いありがとうございます。服も靴も体によく合っていて全く疲れていません」
「それは良かった!」
トーマスは破顔する。
「この服は、マクシミリアン王子殿下とトーマス様がデザインされたと聞いておりますが」
「私は、少し意見を出しただけですよ。式典でも使えような女性騎士の服装はどうか、と。具体的なデザインは全てマクシミリアン王子殿下がなさいました」
トーマスはマクシミリアン王子殿下の作ったデザイン帳を見たが、シアにぜひ着てほしいと思うデザインがなかった。もちろん、どのデザインも素晴らしい出来ではあったが。そこで、自分が思う趣旨を王子殿下に伝えたら、ものの数十分でデザインが完成していた。あの王子の才能は恐ろしい。
「なるほど。確かに女性騎士がいる国であれば、式典で着用しそうですね」
マクシミリアン王子の才能に嫉妬を覚えたが、目の前のシアの嬉しそうな顔を見たらそんなことはどうでもよくなってきた。
「そういえば城下で騒がせている強盗団をレティシア王女殿下が捕縛されたとか」
「あれは偶然そうなっただけです。まさか遭遇するなんて」
二人は、今朝の強盗団の話を皮切りに、おいしいお菓子とお茶を味わいながら他愛のない話で盛り上がった。
トーマスはこのまま、こんな時間が続けばいいのにと、安っぽい恋愛小説のヒロインじみたことを思ってしまった。
シア姉とこのままずっといたい、あぁ…「シア姉、愛している」
「えっ?」
目の前の見目麗しい女性の驚きの声で、現実に戻った。
「…まさかっ!」
「うん、私の聞き間違いじゃなければ…」
本人に聞こえる声で、とんでもない独り言をつぶやいてしまった。
いつかは言うつもり、遅くとも約半年後のプロポーズの際には思いの丈を述べるつもりであったが、まさかこんな大きな独り言をポロリと出してしまうなんて。物心がついた時からシアのことを好いてはいたが、長年の封印をここで解いてしまうことになるとは。
どうする、どうする、トーマス!
トーマスの脳内には、これまでシアと築いてきた信頼が壊れる音と絆が千切れる音が聞こえた。
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