第34話 ワン・オールドメイド

「ゲームと言っても、ジャンケンみたいなもので、運の要素で決まるゲームです」

 向井慎太郎(オカメン)が説明をはじめる。

「なら、ジャンケンで良くなくない?」

 忽那未来(ヒステリック)の指摘はもっともに思えた。

 智美(オカメン)自身も、ちょっと大げさだと感じていた。


「いや、これだけの人数でジャンケンすると時間もかかるし…」

「数人のグループに分けたらすぐじゃねえか?」

 篠田武光(金髪)のツッコミに、向井は押し黙ってしまった。

「…具体的に、どんなゲームを考えていますか?」

 真壁浩人(イケメン)が助け舟を出す。

 向井のためというよりは、純粋に知って、判断要素にするためと思われた。


「ワン・オールドメイドです」

 向井が説明する。

 オールドメイド。いわゆる「ババ抜き」だ。

 本来のババ抜きは、クィーンを1枚除き、51枚で行う。

 ペアを作ってカードを捨てていくと、クィーンが一枚残る。

 最後までペアになれなかった。つまり、結婚できなかった女性が、ババだ。

 だから、ババ抜きという名前がついた。

「ババ抜きって、こんな大勢でやれるのかよ?」

 説明の途中で篠田がつっこんだ。

「カードはひとり1枚ずつです。だから、ワン・オールドメイド」

 人数プラス1枚のカードを準備し、ひとりに1枚ずつカードを持たせる。

 スタートのひとりだけが2枚持ち、あとは普通のババ抜きと同じだ。

 ただし、前の人が抜けた場合、次の人はカードを取られるだけなので、抜けが決定する。

 つまりペアが出来るごとに、ふたりずつ抜けていき、最後までクィーンを持っていた人が負けとなるのだ。


「いいんじゃない? カードだと不正できないし」

 賛同したのは、岡森麗奈(オカメン)だった。

「いや、カードの裏の傷なんかで、カードが分かるってのもあるぞ」

 天元健三郎(髭)が鋭く指摘する。

「なら、俺のカードを使いませんか?」

 誰もが、ぎょっとなった。

 割り込んできたのは、松田龍也(小学生)だった。

「今日のために、新しく買ったトランプです。まだ、一度も使ってません」


 微妙な空気が流れた。

 大人たちは子供がこの件に入って来ないよう、一応は気を遣っていた。

 けれども彼は、この頭のおかしなデスゲームの参加者として、自ら声をあげたのだ。

 大人の誰が言っても文句が出そうだったが、子供の彼ならば、不正を疑うことはできない。

 そして、彼が黒幕だと思う人間も皆無だろう。

 

「シャッフルは俺がします。カードゲームでのやり方を知ってるので。配るのもやりましょうか?」

 向井は戸惑った視線を真壁へ送った。

 真壁は静かに応える。


「わかりました。僕も賛成です。龍也くんのカードを使い、彼にシャッフルとカード配りをお願いしましょう」

「おい、本気か!? 子供を巻き込むのかよ!」

 健三郎が胸倉を掴みそうな勢いで非難する。

「いいんじゃねえかぁ。ただし、条件がある」

 真壁が何か答える前に、篠田が割って入ってきた。

「条件は、そっちの3人のガキはゲームに参加しないこと。それと、霊媒師さんもだ。彼女は俺たちにとって生命線だ。どうだ?」

 いいアイデアだと、智美は思った。

 この狂い始めた世界で、人道というものが曖昧になってきているが、やはり子供は参加させるべきではないだろう。

 そして如月葉月(霊媒師)も、必要な人間だ。

 猿姫人形に憑依された者を見つけ出す術は彼女だけしか知らない。ここで失うわけにはいかなかった。


 当の真壁はすぐには答えなかった。

 何を考える必要があるのか、と智美は疑問に思う。

「よく分かんないけど、ジャンケンじゃ駄目なの? あたし、ババ抜きとかやったことないんだよね」

 わずかな沈黙すらも我慢できなかったのか、阿久津未来(ギャル)が割って入ってきた。

 というか、ババ抜きをやったことないなんて驚きだ。

 本当だろうか?


「…ジャンケンよりも、ワン・オールドメイドにしたい理由はいくつかあります」

 最近の真壁は、みんなの多数決で判断することを避け、自分で決定を下していた。

 だが、指摘に対してはきちんと聞く耳を持ち、そのうえで、その相手を説得し、同意を得るようにはしている。

「まずは、全員が一斉に参加できる点。ジャンケンだと班分けにも気を遣いますし。2点目は、ゆっくり考える時間のある点。ジャンケンはどうしても相手のリズムに合わせる必要があります。後悔が残ったり、後出しなどの問題も出てきます」

「そっか…」

 未来は少し納得していない感じはあったが、言葉の上では同意した。

「篠田さんの条件も了解しました。そっちのほうが良いですね」

 これで、ワン・オールドメイドで外に出る者を決めることが決定した。


 決定したあとで、真壁がさらりと付け加える。

「あと、僕からもひとつ、ルールを追加したいです」

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