第35話 ワン・オールドメイド 2

 真壁浩人(イケメン)が追加したルールは、カードを相手が引く際、カードの表を地面のほうに向けて、当人もカードの内容を知らないようにしよう、というものだった。

 カードの中身を知っていれば、動揺などが表情に出て、最悪カードがバレてしまうのを防ぐ目的だ。


 みんなが見守る中、松田龍也(小学生)が新品のトランプの封を切り、中身を取り出す。

 ジョーカー2枚と、ハートのクィーンを取り除き、縁起の悪い4のカードを4枚と、6と形が似ている9のカード4枚も取り除いた。プレイヤーが42名なので、8枚抜く必要があるのだ。

 龍也が軽くシャッフルして、カードを1枚ずつ、5列に並べはじめる。

 これは、トレーディングカードゲームなどで使用されるシャッフルの方法らしい。

 周囲を円形に取り囲んでいる大人たちに、龍也が1枚ずつカードを配っていく。

 起点は天元健三郎(髭)だった。

 起点はカード2枚から開始する。

 それを知った忽那来夏(ヒステリック)が、「起点が有利じゃないの?」とケチをつけたのだ。

 向井慎太郎(オカメン)たちが、「起点は最後にカードを引くだけで、有利不利はない」と説得したが、いつもの「だったら、あんたがやりなさいよ!」が出て、健三郎が手を挙げた感じだ。

 ここで向井が手を挙げたらなら、それはそれで来夏が食ってかかる可能性もあったので、気を利かせた判断だった。


「では、始めましょう」

 真壁の合図で、ゲームが始まった。

 健三郎が2枚のカードを裏向きにし、隣の白川哲也(マッチョ)が、やや躊躇ったあと、カードを1枚引いた。

「あ、揃った」

 呆気なかった。

 なんとなく時間が掛かりそうなイメージだったので、こんなにあっさり揃うとは予想外だった。

「はぁ!? ちょっと本当にシャッフルしたの!!」

 案の定、来夏が噛みついてくる。

「どうでもいいが、忽那の嬢ちゃん。その隣はあんただから、あんたも抜けだぞ? やり直すか?」

「へ…?」

 来夏本人は気づいていなかったみたいだが、白川の隣は来夏だった。

 前の人が抜ければ、次の人はカードを引かれて0枚になるので、抜けとなる。


「いや、…別にこのままで良いけど」

 正直、やり直して欲しかった。

 なんであの人が、という空気を感じた。

 いつもそうだ、と智美(オカメン)は思った。

 智美は決して人の悪口を言ったり、誰かを傷つけたつもりはない。

 でも、友達が居なかった。

 人に好かれなかった。


 他人といつも一緒に居るような、友達の多い人はどんな人だろうか?

 真壁のようにカリスマを持ち、周囲に気を配れるタイプも、やはり居る。

 これは、智美もそうだな、と納得している。

 でも、多くの人は、性格がクズだ。

 人の悪口は言うし、文句ばかりだし、誰かにマウントを取って、妬みと嫉みを人生の娯楽にしている。

 そんなクズなのに、自分よりも友達が多い。

 世の中、間違っていると思う。


 来夏もそのタイプだ。

 ああいうタイプは意外に友達が多い。好き勝手文句を言うわりに、どこか愛嬌があって、なんだかんだで人と話すことに躊躇いがないから、話の輪の中に居る。

 今回はソロで参加しているようだし、周囲に若干ウザがられているけど、ポジション的にはリーダー集団に入り込んでいる。

 ズルい!ズルい!

 どうして、いじめられっ子よりも、イジメるほうが友達が多いのだろう?

 どうしてクズのほうが、人に好かれるのだろう?

 本当に、この世界はクソだと思う。


 手持ちのカードを引かれ、抜けが決定した来夏は小さくガッツポーズをした。

 智美の中に、どす黒い感情が芽生える。

 こいつも、あいつみたいに殺してやろう。


 ゲームは順調に進んだ。

 全部で42名もいるため、時間が掛かるかと思いきや、カードを引くだけなので、数分程度で一周する。最初は躊躇っていた参加者たちも、心に余裕が出来たのか、どんどんカードを引いていく。

 一周目で8名、2周目で6名、3週目で4名抜けた。

 人が抜ける度に、人の輪を小さくしていく。

 動きがあったのは、4周目。

 クィーンが場に出された。

 これで、今現在クィーンを持っている者に、死亡フラグが立つ。

 なんとなく嫌な予感がした。

 自分はいつも、人生の損な部分に居る。


 何気なく引いた5回目のカード。

 それはクラブのクィーンだった。

 心臓が大きく跳ねた。

 まだ確定はしていないのに、死刑宣告を受けたような衝撃がある。

 じわりと涙が浮かんできた。

 駄目だ!駄目だ!

 必死に自分に言い聞かせる。

 ババを引いたことを周囲に悟られてはいけない。

 裏返しにして、相手に見えない位置でシャッフルする。

 そうして、裏返しの2枚を隣の相手、阿久津未来(ギャル)へ差し出す。


 未来はあっさりとカードを引いた。

 良かった。こちらの動揺はバレていない。

 智美はほっと息をついた。

 だが──。

「やった! 揃った!」

 智美はぎょっとして自分の手札を見た。

 クィーンが残っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る