第33話 デスゲーム3日目 3(残り46名)
何かが少しずつおかしくなってきている。
野木智美(オカメン)はそのように感じていた。
目の前で、平然と殺人が行われた。
みんなで、畑中由詩(ポニテ)を生き埋めにしたのだ。
真壁浩人(イケメン)はできるだけ、みんなを巻き込まないように配慮をしたつもりだっただろうが、誰もが気づいている。
自分は、犯罪の片棒を担いだのだと。
実際に生き埋めにしたのは、真壁浩人と天元健三郎(髭)、佐土原典秀(小学生の父)と白川哲也(マッチョ)の4人だった。
さ すがに穴を掘って人をひとり埋めるのは、真壁ひとりでは無理があったからだ。
指示役として如月葉月(霊媒師)が残り、由詩の見張りとして荒木望(大学生)と篠田武光(金髪)が自ら残ることを宣言し、残りの全員が廃校の中で、その殺人が終わるのを待っていた。
やがて彼らが帰って来た。
誰も何も言わなかった。
しばらくしてから、呪蓋の雰囲気が変わった。
おそらくは、由詩の命が尽きた時間。
暗い土の中、寝食をともにした仲間たちに生き埋めにされ、彼女は果たして何を思っただろうか?
呪蓋がどう変化したのか、口では説明しにくいが、若干、力が弱まったような気がする。
もしかしたら、外に出られるようになっているかもしれない。
あるいは、スマホが通じるかもしれない。
誰もが、そんな可能性を考えたことだろう。
だが、実行する者は誰一人いなかった。
試すということは、すなわち「死」を意味するからだ。
「ちょっとどうすんのよ! 何もしないわけ!?」
忽那来夏(ヒステリック)が苛立ったように叫んだ。
「じゃあ、おまえが外に出てみろよ」
篠田が怒りを押し殺した声で言う。
「ふざけないで! それは男の役目でしょ!?」
「そっちこそふざけんな。ここにいる全員、おまえに試してほしいと思ってるぜ」
「なっ! …あっ!」
本人も少しは気にしていたのか、来夏は言葉に詰まった。
「だけど、どうする? 実際、このままじゃ駄目ってことは、みんな分かってるだろ?」
健三郎の問いに、再び沈黙が降りる。
誰かが命を賭して、みんなのために外に出なければならない。
いたずらに時間が過ぎれば、無意味に猿夢の犠牲になる者が増えるだけだ。
けれども、命が掛かっているからこそ、誰にするか決めかねていた。
個人的には来夏のヒステリックが嫌なので、来夏になってほしいが、そんな理由で他人の命を危険にさらすわけにはいかない。
それはイジメと同じだ。そんなことは絶対に許せない。
大義名分が必要だった。
おそらくは誰もが、焦れて自ら手を挙げる者が現れることを望んでいただろう。
「もうさぁ、くじ引きにしたらいいじゃん」
沈黙に耐えかねたのか、阿久津未来(ギャル)がそう提案してきた。
「はぁ? おまえ、ふざけてんのか?」
篠田が馬鹿馬鹿しいといった態度で返した。
「マジに決まってんじゃん! でも、このままじゃ決まんないでしょ!? 素直になってよ!!」
「運に任せるのも、有りかもな」
同意したのは、健三郎だった。何人かが、うんうんと頷いている。
「嫌よ!! そんなの作った人が有利でしょ! イカサマしたらどうするの!!」
「しねえよ。なんなら忽那の嬢ちゃん。あんたが作ってもいい」
「それは嫌です!」
拒否したのは、松田加奈代(小学生の母)だった。
「だって、その人。黒幕かもしれません!!」
「は!? な、なななななな何言ってんの!? 違うわよ!!」
加奈代に指を指され、来夏は激しく動揺した。
「待ってるときに、畑中さんと少し話しました。…試練で生き残るのは7人なんですかって」
そういえば、と智美は思い出す。
猿姫人形の捜索班が帰ってくるまでの間、加奈代は畑中由詩と何事か話していた。そのときのことだろう。
「それは分からないと言われ、でも、どうしてそんな話が出たんですかって聞いたら、もしかしたら、忽那さんは主催者かもしれないって」
「だからなんで!? 畑中さんが言ったら、それが真実なの!?」
「主催者は、…ヒガン髑髏の持ち主は、呪式を発動させるために、より詳しい情報を得るって! だって、4つの呪憑物が必要とか、普通はわからないでしょ!? 誰も知らない情報を持っている人が、黒幕に違いないって!!」
どくん、と智美の心臓が鳴った。
慌てて自分の発言を省みる。
変なことは言ってなかっただろうか?
「霊媒師の嬢ちゃん。それは本当か?」
「…十分にあり得る話だと思うぜ。偶然に呪式が発動するなんて、普通ねえだろ?」
「ちがっ! 私は!!」
「じゃあもう、誰が行くか決定したなぁ」
篠田は嫌味っぽく言ったが、その顔は笑ってはいなかった。
「ちがう…。本当だってば!」
「もう、やめましょう」
魔女裁判のような空気にストップをかけたのは、真壁だった。
「確信のある情報じゃないです。それに、7人説を主張していたのは、彼女以外にもいました。それだけを証拠にするのは危険だと思います」
糾弾気味に加熱していた熱が、冷めていくのを感じた。
おそらく真壁以外が言っても、場は収まらなかっただろう。
ただ、真壁が来夏を庇ったようにも見受けられた。
「じゃあ、どうするよ? くじ引きで決定か?」
「あの…」
手を挙げたのは向井慎太郎(オカメン)だった。
「ゲームで決定するのはどうでしょう?」
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