第29話 デスゲーム3日目 (残り48名)
畑中由詩(ポニテ)は、猿夢で亡くなった遺体を運んでいた。
全員がシュラフの中で亡くなっていたので、運ぶのは比較的楽だった。
「女の人なのに、手伝わなくていいよ」
優しい言葉をかけてくれたのは、意外にもシュンケル(Youtuber)だった。
彼は同じ遺体の頭側を持ってくれている。自分が足側だ。
「ああ、大丈夫です。私、外科の看護師やってて、意外に見慣れてるんで」
動画で見るシュンケルは、如何にも自分に自信があるオラついたタイプに思えたが、実際に話してみると常識を持ったごく普通の青年だった。
閲覧数を稼ごうとする精神が、人を狂わせるのかもしれない。
企画者である彼が、ヒガン髑髏の試練を仕組んだ黒幕だという噂があった。
確かに運営側の人間である彼は、もっとも怪しい人物だ。
運営スタッフも含め人数がちょうど100人だったり、当初は3日だった企画が7日に変更になったりと、運営がこの事実を最初から把握していたことは事実だと思う。
だけど、運営の全員が把握していたかは不明だ。
ほとんどが亡くなってしまい、生き残っているのはシュンケルと蜜蜂花子(運営スタッフ)のふたり。
それに、自分が黒幕の立場だったら、騒ぎになるのは分かっているので、あえて運営側としては参加せずに、参加者に紛れるだろう。
命が掛かっている状況。パニックになった参加者に襲われてしまう可能性もある。
「え? 看護師さんなの? でもオカメンだよね? 霊感あるのに看護師ってヤバくない? よく見る的な」
「ヤバいですよ。自己紹介のときに話しましたけど」
「え? ごめん。あんまり覚えてない」
ふと、由詩は頭に引っかかるものがあった。
運営側に黒幕がいる可能性。そして、参加者に紛れている可能性。
それを可能とする人物がひとりだけ居た。
H乳牛(Youtuber)だ。
牛の被り物を被っている彼なら、運営として企画をし、参加者としても潜入できる。
だが由詩は、すぐにその可能性を追い払った。
それなら、シュンケルが気づいているはずだ。
「あの、シュンケルさんはH乳牛さんの素顔って、見たことありますか?」
「いや、ないけど何で?」
「ないんですか!? 企画の打ち合わせとかどうしたんです!?」
「いや、普通にオンラインで。実際に会ったのは1回だけで、あいつ被ったままだったし」
確かに昔と違って、今は打ち合わせもオンラインで可能だ。しかも、動画だと音声が途切れたりするので、声と文章だけで行うことも多い。
だとしたら、本当に入れ替わりが可能なのでは?
廃校の一室が死体安置所になっていた。
トンネル近くの遺体はさすがに運べなかったので、最初のスマホで亡くなった人たちと、今回猿夢で亡くなった人たちが安置されている。
H乳牛の遺体も、ここに置いてあった。
運んできた遺体を置いた後、由詩はH乳牛の死体を確認した。
H乳牛の素顔を知らないので、確認しても意味はないかもしれないが、何らかの痕跡が残っているかもしれない。
(え?)
そこで初めて気づく。
H乳牛の首に、吉川線があったのだ。
被りの物が首まで隠していたため、おそらくは誰も気づいていないだろう。
スマホを使ったことで呪いが発動し、首がねじ切れて死んだ遺体とは明らかに違う。
人間の手による他殺だ。
そういえば、最初にH乳牛と雛原乙希(ヒロイン)の死体が見つかって、呪蓋が降りたのはその後ではなかったか?
ごくりと唾を飲みこむ。
由詩は少し離れた場所にあった乙希の遺体を調べた。
人形のように整った表情。
眠っているように綺麗だった。
そう、呪い殺されたにしては綺麗すぎた。
(まさか!?)
首に吉川線はなかった。体にも目立った傷はない。
いや、違う。
ひっくり返して背中を確認して分かった。
背中に無数の刺し傷があった。
刃物で刺されて殺されたのだ?
誰に?
呪いのせいで死んだと思っていた。けど違った。
乙希も人の手によって殺されたのだ。
「どうかしたの?」
シュンケルが訝しげに尋ねる。
由詩は一瞬迷った。
この事実を伝えるべきか。
自分の勘ではシュンケルはおそらくシロだ。
だが、運営側の人間なので、躊躇う気持ちがある。
「ううん。乙希ちゃんとは仲が良かったから…」
「つらいよな。…ほんと、こんなことになるなんて、謝ってどうなることじゃないけど…、ごめん」
その真摯な態度は演技には見えなかった。
由詩の中で決意が固まる。
「あの、シュンケルさん。実は気づいたことがあるんです!!」
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