第30話 デスゲーム3日目 2 (残り48名)
猿夢で亡くなった遺体を移動させたあと、シュンケル(Youtuber)たちは、呪憑物の回収にあたった。
呪蓋の中での夜の行動は控えたかったが、眠った時点で死が確定するのだ。
特に子供は朝まで我慢できるか分からない。
すぐに対処する必要があった。
集団は大きく二つに分けられた。
廃校に残る班と、呪憑物を回収する班だ。何かと責任を取らされているシュンケルは、後者だった。
「呪憑物を見つけても触らないようにな。呪いのエンティティが乗り移る可能性がある。呪蓋が降りてる状態で憑りつかれたら、龍脈封印するしかねえ」
如月葉月(霊媒師)がぶっきらぼうに説明をする。
「龍脈封印!?」
向井が驚きの声をあげる。
「おい、なんだその、龍脈封印ってのは?」
面倒だったのか、葉月は向井に説明するよう促した。
向井が言うには、龍脈の通った地面に埋めることで、呪憑物を封印するやり方らしい。
龍脈とは地面の中を流れる気のようなもので、聖なる力を持っている。
そして呪いは、埋められると何故か分からないが力が弱まるため、龍脈の中に埋めることで、封印ができるそうなのだ。
「だから、もしも呪いのエンティティが人に憑りついたら──」
向井はぞっとするようなことを口にした。
「生きたまま、その人を埋める必要があるんです」
「生き埋めってことかよ!」
健三郎の声に、向井がコクンと頷いた。
呪憑物の設置は、主にH乳牛(Youtuber)とハイジン(Youtuber)が指示を出していたため、シュンケルはまるで役に立たなかった。
呪憑物の設置場所の書かれた資料を見つけたのも蜜蜂花子(運営スタッフ)だった。
主催者側なのに、と惨めに思った。
真っ暗な森の中を、懐中電灯の灯だけで進む。
霊感が無くとも感じる。呪蓋の中の不気味な気配。
怖い話を聞いた後に、ひとりでトイレに行ったときに感じる、何かが出そうな恐怖。
それが常に第六感を刺激してくる。
「うわぁあああああ!」
「ひぃいいいいいい!!」
歩いている途中で、悲鳴があがった。
シュンケルには見えなかったが、森の中を死んだはずの参加者が歩いていたらしい。
「霊障が出てきてるな」
近くにいたオカメンの鳥羽隆文が、呟くように言った。
呪蓋は日に日に強まっており、浮遊霊が見えたりなど、霊障が活発になっていくらしい。
そのうち、霊感のない自分たちにも見えてくるだろう、とのことだった。
「この辺りだな。猿姫人形には触れないように注意しろ」
健三郎が指示を出す。
「そういえば、シュンケルさん。猿姫人形はどんなふうに置いてあるんでしょう? 箱とかに入ってるんですか?」
真壁が近づいて話しかけてきた。
「え? あ、…見てないんで知らないです」
恥ずかしいと思った。役に立つ場面で役に立たなかった。
「使えねえな」
誰かの小言が耳に届く。まったくもってその通りだ。
何か役に立ちたい。シュンケルはそう思った。
頭の中ではずっと、先ほど由詩から聞いた話が引っかかっていた。
──H乳牛と乙希は人の手で殺された。殺人だ。そして、H乳牛は誰かと入れ替わっているかもしれない。
自分には手に負えない情報だと思っていた。
それに自分が死ぬかもしれない混乱の中で、その情報がなんの役に立つんだ? という思いもある。
重要な情報のような気はするが、どう重要かが、まったく理解できていなかった。
まさに馬の耳に念仏と言ったところだろう。
だから、分かる人間に託すのが、自分の使命だ。
「真壁さん。ちょっと耳をいい?」
*****
「それは本当ですか? 思い込みじゃなく?」
「えっと…。気づいたのは畑中由詩さんなんだ。オカメンの。外科の看護師をやってるから間違いないって言ってた」
「…なるほど。彼女が…。分かりました。だけど、この件は他言無用でお願いします」
「ああ、わかってる。あんただから話した。一番信頼できるから」
「おい、あったぞ! これじゃねえのか!?」
向こうの岩陰の近くで、声があがった。
真壁を訝しく思ったのは一瞬、すぐにシュンケルの意識は声のほうへと向いた。
全員がそちらに集まっていく。
「ほら、これだよな?」
白川哲也(マッチョ)が興奮気味に指差す。
葉月はしばらくじっとそれを見つめて、くるりと白川を睨みつけた。
「おい、おまえ! 触ってねえよな!!」
「え? 触るわけないですよ!」
「くそっ! 最悪だ!! 後手に回った!」
葉月が頭を抱えるようにして、叫ぶ。
「空っぽなんだよ。呪いのエンティティはすでに、誰かに憑りついてやがる!!」
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