第64話悪魔を倒す者

「そんなので私が食らうとでも」

「それは私も分かっている。ダークインフェルノ」

「アクアボール」

「なに!?」

アクアボール。お父さんが使っていた最上級魔法だ。


「多重詠唱とまでは言いませんが、ずっと魔力を練ってました。本当に成功するとは思いませんでしたが」

すごい…!

アクアボールはダークインフェルノを消し去って悪魔に命中する。

威力は凄まじく岩崖に食い込むくらいだ。


これならだいぶダメージは効いたと思った。

「あれは何だ!」

遠くで戦っていたエドワードが反応したようだ。

「す、すげぇ…」

倒れ込んでいるゴーンさんが言う。

今すぐ助けに行かないと。


「私達もカールさんの所に向かいましょう。状況が私達と同様逼迫しています。今はそちらが優先です」

「うん!」

振り返って言うマナ姉さんに頷く。


「隙だらけですよ?」

「あの威力を食らっても…!」

「正直驚きました。勇者に最上級を教えて貰ったのですか?」

魔剣に魔力を込めながら悪魔は言う。

「ファイアバースト」

命中するかと思いきや悪魔はシャドウバインドを使って姉さんに近づく。

「マナ姉さん!横!」

「甘いですね」

受け止め損ないマナ姉さんは傷を負う。


「ほら?見て分かるでしょう第二の勇者。あなたが動かないからみんなやられちゃいました」

「お、まだ終わって無かったか」

「おや?そちらは片付きましたか?」

「ああ」

見ると、カールさん達が倒れ込んでいる。


ここには僕と悪魔2人。

姉さん達やカールさんのような強い人はもういない。

「後はこの人を倒して殲滅作業ですかね」

僕の魔力は後3分の2くらいだと思う。


やばい。

「カズヤ」

「ゴーンさん…?」

ボロボロになっているのに剣をつきながら僕の前に立つ。

「お?まだやる気か?もうボロボロじゃねーか」

「死ぬまで戦う。お前らごときに大事な弟を!殺させはしない。もう少しのだ」

「それじゃあ、早く死ねよ!」

ダメだ。前を向け。

こんなのお父さんが見たいものではない!


《胸を張って生きろ。カズヤ》


そこから僕は魔剣に火属性をこめる。

こんなの初めてだからって言い訳はしない。

姉さんを守る!


「何!?」

「倒す!」

姉さんの前に素早く動き、エドワードの剣を受け止め、弾く。

「ほう」

「カズヤくん…?」


僕は魔剣でエドワードの首を斬り伏せる。

「な…!あ」

「まだ!」

腕、胴体、足を素早く斬る。

もっと早く…!

「あ…!」

「面白い」

「次はお前だ。悪魔」

「いいでしょう。受けて立ちましょう」

悪魔は急に体を大きくする。筋肉が気持ち悪いくらいでている。3メートルはある。


集中しろ。

闇には光。雷の適性があっても派生の光属性が適性とはならない。

でも僕はだ。光も使えるはず。

「魔剣に光か」

でも単なる光だけであいつは斬れない。

絶対避けられてしまう。


「アイスバレット!」

早い!避けられて拳を僕の前に容赦なく突き出してくる。

ストーンウォールを3つだすが、全部貫通させて僕の魔剣で何とか受け止める。




「魔剣は使わないのですか?」

まだだ。

今は魔法で何とか対応出来ている。


「何だあれは…」

「早すぎて何が何だか分からなかったよ」

「頑張れ!少年!」

「「「頑張れ!」」」

「うるさい静まれ!愚民ども!我らイースト家の悪魔がお前らごとき殺してやるからな!」


大きな歓声が聞こえる。人に応援されるって何十年ぶりだろう…。

勝てるかどうかも分からないのに心に余裕を持たせてくれる。

でもこのままだと確実に負ける。

何か手を打たないと…!

「フォレスターインパクト」

「くっ…!」

「カールさん!」

「今だカズヤくん!君の全力をぶつけるんだ…!」

僕の全力…。

一か八かやるしかない。


「多重詠唱、ファイアエレメント、メテオストライク、ブリザ…あっ!」

心臓が酷く圧迫されたような気がした。ブリザードは発動出来なかった。本当に根本の魔力切れだろう。

でも他の2つは発動した。

「最上級が2つもだと…!」

地面に大きな穴が開き、炎が包み込む。

魔力切れだ。頭が猛烈に痛い。吐きそう。体も倒れそうなところを何とかこらえる。


まだだ…!まだあいつは生きているから…!

「終わらせる!」

「シャドウステ…、何だと!?」

「うぉー!」

光属性を込めて魔剣でを放つ。

お父さんの見よう見まねのものだ。

ぶっつけ本番だったが、悪魔の体は四肢バラバラに斬り裂かれる。


「あ…、どうして…」

「僕だけの力じゃない。みんなが僕を支えてくれたから出来たことだ」

「そんな…この私がガキに…」

悪魔はそう言って目を瞑った。


「嘘だろ…!」

「やったぞ!あの少年があの悪魔に勝ったぞ!」

「我らが解いた悪魔が!」

「どうするんだイースト辺境伯!」

「どうしてこんなことに…!あいつが、あいつがいけないんだ!」


終わった…。

僕は倒れる。

エクシア姉さん、このままだと死んじゃう。

助けに行かないと…。


「本当にお前は嫌いだよカズヤ」

は…?

「俺は本物の悪魔になる」

と悪魔の死体をエドワードが吸い取る。

「やめろ!そんなことしたら…」

僕はあえてこいつにトドメを刺していなかった。まだお父さんが言うようにチャンスがあると思ったからだ。けど気絶させたはずなのにどうして…!


「お前の首を絶対取る!」

さっきの悪魔より大きい10メートルはあるような人間とも悪魔とも言えない醜さ。

「ふははは!」

魔剣に魔力を込めようとするが出ない。

剣も握れる程の力も残っていない。

「死ね!カズヤ!」

「うっ…!」

他の戦っている敵や騎士も巻き込むような黒い炎が襲いかかる。


「ブリザード」

パリン!と突然辺り一面を凍らせた。

「カズヤくん!」

「エクシア姉さん…?」

「やだ…死んじゃあダメ!」

さっき死にそうだったのは姉さんなのに…。

あ…これはきっと幻想を見ているのだと思う。

「サトキチ!早くカズヤにもポーションを」

「了解!」

「ふはは!雑魚が増えたごときで変わらない!」

ダメだ。僕が立たないと。

「大丈夫。もう遅れをとったりはしない」

と優しく頭を撫でられる。

僕はそこで目が閉じた。





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