第50話【視点別】タクヤの心残り/本当のお別れ

「はぁ…死んじまったか」

ここがどこかは分からない。


目の前には

「お疲れじゃな」

謎のじいさんがいる。

「あんたは神様か?」

「ほほ、まぁそう思ってくれて良い」

優しそうなじいさんだけどとても神様とは思えない。もっと神々しいと思っていた。

「思い出した。350年くらい前に俺を転移させた」

「そうじゃ。やっと思い出したか」

俺は交通事故に遭ったと同時にこいつは俺に残りの半生、老化しない体で勇者をやっておれと言ってあの世界に連れてきた張本人だ。


「お主が1日だけ生きれるとかいう無茶をしたせいでわしは苦労したんだからな」

「はは、それは申し訳ない」

「誰が毎日、膨大な魔力を貯蔵して剣を引っこ抜くと同時に魔力で体を生成するなんて思いつく」

「中々の発明だろう?」


カズヤの魔力じゃあまだそんなこと出来ない。だから一応やり方だけ書いておいた。

あのやり方は瓶に魔力を大量に貯めれば即死攻撃を食らっても全快するという応用にも効く。

どうするかは息子に任せる。ただ早くこっちには来て欲しくないから、やれることはした。


「はぁ息子にも教えてくるとはめんどくさいことをしよって」

「神様にはバレてたか」

「神を舐めるでない。それでお主の息子は意図的に記憶を抹消せずに転生させた。その意味は分かるか?」

「俺に会わせるためか?」

「正解じゃ。後はもう少しあの世界は発展して欲しいからのう」


あの剣をあいつが引いたのは偶然ではなくだったのか…


「特に何も無いならわしと会わずに記憶を抹消し転生する。でもお前さん達はちょいっともったいないと思ってな、利用させてもらったのじゃよ」

「人使いの荒いじいさんだ」

「わしに会えるのは光栄なことなんじゃよ?」

と胸を張ってじいさんが言う。


「ところで、お前さん心残りあるじゃろう?」

「は?」

「いや、このまま転生させてもいいのだが…お前さんの魂には後悔が残っておってなぁ。転生させづらいのじゃよ」

「なるほどな」

心残りはあると言えばある。


「妻に別れを言えなかったことだな」

「やっぱりか。あの世界でも妻がいるからと女1人も作らずに…」

「うるさい!」

このじいさんはおしゃべりだ。


「まぁ神だからその願い聞いてやってもいいぞ。だがな…見てもらった方が早いか」

ほれとじいさんは周りが雲のようにもくもくして映像を見せてきた。

「彼女、少し疲れていてなぁ」

「カスミ…!」


その映像にはカスミの姿が見えた。

「お前さんの息子も死んじゃったから精神的に疲れておってなぁ。病気にはならないようわしがおまじないしておるが…」

じいさんがバツの悪い顔をした。


「この後、赤信号なのに飛び出してしまうんじゃ」

「は?」

俺は意味がわからなかった。

「わしの先見の目で見たものはほぼ確実に起こる。」

「何とかならないのかよじいさん!」

「何とかはならなくもない。お主が喋りかければとどまるじゃろう。無論、こんなことすればわしは他の神から叱られるがまぁよい」


「行ってきていいのか?」

「魂だけな。幽霊と言ってもいい。他の人からは見えなくなる。3分だけ時間をやる。その後はすぐに」

転生。そう言おうとしたじいさんを俺は止めた。


「じいさんもう1個頼みがある」

それを聞いたじいさんは

「ほほ、お前さんは欲張りじゃな。それくらいなら許そう。時間は文字通りたっぷりある」

「ありがとうじいさん。行ってくる」


俺はじいさんにお礼をしてあの世界に再び行く。お別れをしに。


~~~~~~


「白鳥さ〜ん?おーい大丈夫ですか?」

「あ、はい!大丈夫ですよ!」

「ここの資料、予算の額が間違っているので修正しておいて貰えますか?」

「はい。分かりました!」


私は日々仕事に励んでいた。

それには理由がある。

「ただいま〜」

もう40代に突入したのに家には誰もいない。


「はぁ、疲れた」

写真立てには3人の写真が入っている。

あれはあの子が小学生の時、旅行先で撮ったものだ。


「はい。あなた、カズヤ」

遺影の前にはお酒とプリンを置いておく。

2人は交通事故で亡くなっている。

子供まで交通事故で亡くなった時は1週間ずっと泣いていた。兄妹にどれだけ心配されたか。今も1人の私を心配している。


「明日も頑張らないとね」


何のために仕事をしているかと言われたら、気を紛らわすため。ずっと家にいたらあの人たちのことを考えてしまうからだ。

会社の人も事情は知ってくれていて、それでも尚バリバリ働く私を見て驚いている。


翌週

今日は大事な会議だ。当然私も出席する。課長に昇進したからだ。先週までは資料ミスで言われていた私だけど急に昇進が決定した。


「急がなきゃ」


赤信号ギリギリで渡ろうとする。



「カスミ」


聞き慣れた声だった。忘れもしない声。


「あなた?」


振り向いた先には夫であるタクヤが立っていた。

幻覚かと思った。幸い周りには人がいない。

「久しぶりだな」

私はバックを落とした。


もう会えなくてそろそろ10年くらいが経つ。

「何でここに…」

私はもう既に泣いていた。

「おいおい泣くな」

夫に抱きしめられたのは久しぶりだった。僅かに温もりを感じる。


「お前あの信号渡ってたら死んでたぞ」

「え?」

「だから俺が助けに来た」


少し怖く感じた。

「家族3人とも交通事故で死んで欲しくないよ」

「馬鹿。何であなたは交通事故に遭ってるのよ」

「それは飛び出してきたトラックに言って欲しいな」


「カズヤも交通事故でいなくなっちゃうし…私…!」

「ごめんな。そばにいてやれなくて」

「馬鹿!」


私は視界がぼやけるほど泣いていた。

「でも安心しろ。あいつは元気にやってる」

どういうことかいまいち分からなかった。何で数年後に亡くなったカズヤのことを夫が知っているのか。でも、少し信じてみよう思った。

「そう」

「後、俺はもうすぐいなくなる。助けに来たのが目的だからな。神様にも怒られる」

あまりにも早いお別れ。


「俺、カスミといれて幸せだったよ」

「…!」

不安だった。夫が生きている時に私はちゃんと妻をできていたか。仕事もしていたし夫婦での時間は少ないかと思った。


それで何日考えては泣いたか。

でも

「私も幸せだったよ」

夫は幸せだと言ってくれた。これが幻でも私の心は軽くなった。


「今世ではあまり一緒にいてやれなかったから来世ではちゃんと2人でいよう。神様に頼んでおいた」

「馬鹿じゃない。いいわよ。いてあげる。来世ではあんたに、家事全部押し付けてやるんだから。」

「はは、困るなぁ。ありがとう」


光とともに体が透けていく。


「それまでは空から俺が見守っている。だから安心しろ。幸せでいろよカスミ。



「私も愛してる」


そしてタクヤの姿は見えなくなった。

「本当にあなたは…」

私は涙を拭く。


来世でタクヤに会えることを期待して。タクヤが空で見てくれているなら頑張らないと!

そう思いながら再び歩き出した。


~~~~~~~~

「わしも疲れたわい」

「ありがとなじいさん」

「それにしてもお前さん、妻と一緒に転生したいから魂を留まらせろとは、どれだけ妻が好きなんじゃ」

「それはもう世界規模で。まぁじいさん3、40年は話し相手になってやるよ」

「ほほ、それは楽しみじゃな」


それじゃあなカズヤ。お前とは本当のお別れだ。でも空からはしばらく見守ってやるから、 元気でいろよ。



《次回から2幕に入ります!物語が急展開を迎え、カズヤの快進撃もあるのでお楽しみに(*^^*)》

追記:3000文字と気づいたら短編になってました。

読んでいただきありがとうございました。星☆や応援コメントが励みになるのでお願いしますm(_ _)m

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