第11話 光への旅立ち

奴隷の墓場スレイブ・ヤードでの出来事イベントは終わった…そう思ってたが、そうではないらしい。

もう少しだけ、自分のやった事の後始末をする必要があるらしい。

その後始末とは…

「ふざけるな!

何故反乱なんか起きるんだ!」

「そうだそうだ!

奴隷は人間の道具だろうが!」

監視サベランズ達が、仲間うちで戦闘を始めていた。

どうやら、ストレスの溜まった監視や頭がおかしくなった監視が、まともな監視相手にも刃を向け始めた様子だ。

金属がぶつかり合う音や怒声が、そこらかしこから聞こえてくる。

中には、発狂しながら奴隷と監視を見境なく襲っている奴もいた。

こいつらを放っておけば、他の奴隷達にも被害が及ぶ事になるだろう。

「俺達は、生きるために、仕方なくクルドーに従っていただけなのに!

なんでこんな目に…!」

…彼らの怒りは、俺に対して向けられているのかもしれないが、クルドーに向けられている感情も、少なからず存在するのだろう。

その双方とも、ぶつけることはできない。

俺に怒りをぶつけようものなら自分の命が危ういし、クルドーにぶつけようにも、当の本人はもう死んでいる。

行き場のない感情が不満へと変わり、そして仲間割れという最悪の結果を招いてしまう。

本来、奴隷が…奴隷に限らず、人間がこのような化け物じみた存在になるなんてことはありえないだろうし、反乱を起こすなんて夢にも思っていなかったのだろう。

中には、数千人規模の奴隷が反旗を翻せば、数の暴力で自分達が負けるのは明白だと理解していた奴らもいたのだろう。

だからこそ、仕事と割り切り、奴隷達に重労働と罰を課し、恐怖政治を敷くことでこの数の奴隷達を統治してきたのだろう。

中には、自分や家族が生きる為に、この仕事をしていた者もいたのだろう。

ある意味、奴ら監視達もまた、クルドーの被害者なのかもしれないな…

…しかし、それとこれとは話は別だ。

「うるぁぁぁ!」

俺の方に向けて突進してくる監視の顔を、回し蹴りで吹き飛ばす。

たとえどんな事情があろうと、奴隷を虐げたという事実は変わらない。

ここで奴隷を虐げてきた奴らを、俺は許すことはできない。

たとえそれが、他に方法がなくやっていたことだとしても…

何かを成すには犠牲は必要だ。

俺ができるのは、その犠牲を減らすことだけだ。

時には非情に徹して、犠牲も厭わぬ行動をとらねばいけない時もある。

「…生まれ変わった世界は、奴隷なんて階級のない、平和な世であるといいな…」

同情の余地はあるが、ここで情けをかければ、永遠に奴隷を解放することはできない。

退路を断つためにも…自分の覚悟を示すためにも…躊躇うことはもう、許されないのだ…

「トウマ!」

そんな暗い気分を、少し晴れやかにしてくれるような声が聞こえてきた。

俺の名を呼びながら、アズサが俺に駆け寄ってくる。

アズサが無事だった事に、俺はひとまず安堵する。

取り敢えずはここからさっさと離れたいんだが、このまま監視達を放置しておくと、他の奴隷達がどんどん犠牲になってしまう…

アズサを奴隷から解放するという約束は果たすことができた…が、ここを放置すれば、奴隷を解放するという目的の達成は遠いものとなる。

…仕方ないか。

「アズサ、耳を塞いで目を瞑っててくれる?

最後の後始末だけ終わらせるから」

「え?う、うん…」

アズサは俺の言う通りに、両耳を塞いで目を瞑る。

おまけに、しゃがんで姿勢を低くするという徹底ぶり。

ちなみに姿勢の高さは関係ないので、この行動にはあんまり意味が無い。

…さて、最後の後始末を終わらせますか。

「…見えた」

『スキルの情報因子カケラを獲得。

同時にスキル【創造クリエイション】を発動し、スキルの情報因子からスキルを創造します。

____スキル【状態操作じょうたいそうさ】を獲得しました』

よし、スキル作成は上手く行ったぞ…

一先ず大辞典で詳細を確認して、スキルの使い方を知る。

「スキル【状態操作】を発動。

対象指定{奴隷の墓場に存在する、監視と奴隷}

効果指定{興奮状態を沈静化する}」

状態操作の発動効果の指定を終わらせて、それを詠唱する。

状態操作は、主に生物の状態を把握し、それを操作するスキルだ。

今みたいに、興奮状態にある者を落ち着かせたり、その逆も可能。

ヒートアップしている相手にも効果があるが、難点は、効果の指定が面倒くさいことだ。

まぁ、そんなものは並行思考でどうとでもなるので問題はない。

スキルの発動とともに、暴走していた監視達や、戦闘を行っていた監視達が一斉に静かになった。

中には、落ち着く…というより、リラックスしている奴もおり、寝ている奴もちらほら見受けられる。

まぁ何はともあれ、これで奴隷達が犠牲になることは無くなった。

俺はアズサの背中をポンポンと叩いて、もう大丈夫だと伝える。

そして、墓場を後にしようとするが、アズサが俺の腕を引っ張り、行く手を阻んでくる。

「どうしたんだ?」

「…僕たちがここから出ることは…できないんだ…

少なくとも、クルドーの許可無しには…」

悲しそうに、一言一言を口に出していく。

詳しく話を聞いてみると、職業が奴隷となったものは、主人の許可無しに、定められた範囲外及び、主人から一定距離を離れる場所に行くことはできないらしい。

もし出ようとした場合、紋章クレストの効果によって、通常の何倍も重い罰を課されることになるそうだ。

…しかし、紋章をつける時に使用していた筒は、俺がこの手で破壊したばかりだ。

これで紋章は消え、俺たちを奴隷として縛り付けるものはないはずだ。

俺は“クルドーは倒したこと”と“押筒スタンプは破壊したこと”を告げると、アズサは安堵した表情を浮かべたと思えば、急に何かに怯えた表情を浮かべ出す。

震えこそ無いものの、その表情からは、明らかな恐怖の感情を読み取れる。

「ここから出るのはいいけど…どこにいくの?」

どこって…そりゃ、近くの街や村だろう。

まずは衣類や食料を調達せねばならない。

『スキル【贈与ギフト】【模倣コピー】を獲得しました』

俺らの旅立ちを祝うかのように、スキルを二つも手に入れた。

能力は並行思考で確認するとして、今はアズサの方だ。

近くの街や村を目指すと伝えると、先程よりも暗い表情になり、覇気のない声で俺に話をしてくれた。

「紋章は、そのものを消せても跡が残るんだ…

奴隷になったが最後、一生呪いを背負って生きていかなきゃ行かないんだ…」

「なんだ、そんなことで考え込んでたのか?

心配すんなって、対策も考えてるし」

そんなことじゃ無い!、と少し怒った様子のアズサを宥めながら、先ほどまでの態度や表情の意図を理解した。

どうやら、跡が残る事によって、俺達自身が奴隷だとバレることに怯えていたようだ。

確かに奴隷に対する風当たりは強いだろうし、対策があると知らなかったら…たとえ知っていたとしても、そんなことと割り切れるようなものでは無い事は理解できる。

けど、そんなこと気にしてたら、一生ここから出ることはできないだろう。

「それに、何があってもアズサは俺が守る。

友達だからな」

何故だろう。

アズサの前ではついカッコつけてしまう。

まぁ、別に困ることではないから良いのだが…

「…約束だよ?」

アズサが俺の顔を見て、右手の小指を俺の方に向ける。

「あぁ、約束だ」

アズサの小指に、俺の左手の小指を絡めて指切りをする。

「…よし、それじゃここから出るか」

「うん…そうだね」

…と、その前に、

「アズサ、プレゼントやるよ」

「え?」

俺はアズサの方に手を翳し、贈与を発動する。

「…ねぇトウマ、急に頭の中で声が…」

混乱しているアズサに俺は説明する。

「スキルをあげたんだよ」

並行思考で確認した模倣と贈与の効果。

それはある意味、予想通りであり、予想外であった。

模倣コピーは、対象を指定すれば、それを模倣することができる。

武具や見た目はもちろん、条件が揃えばスキルも模倣することができる。

贈与は文字通りのスキルで、他人に自分の持っているスキルや保有経験値を渡すことができる。

難点は、渡したものは消えてしまう事だ。

スキルや経験値も例外ではない。

まぁ、模倣があるので、そこまでデメリットには感じないが。

俺は模倣を使用して、【大辞典】【並行思考】【情報処理“上”】【情報秘匿“極”】など、日常生活で役に立ちそうなスキルをコピーして、それを贈与でアズサに渡した訳だ。

つまり、コピー&ペーストをしただけになる。

「それらのスキルがあれば、まぁ基本的になんでも対処できると思うよ」

「え!?スキルを僕にくれたの!?」

「まぁ原理は秘密ってことで…」

「も、もちろん…?」

まだ混乱が収まらない様子のアズサの手を引き、俺は墓場を、後にする。

厚くかかっていた雲には切れ目ができており、その隙間から日が漏れている。

何時間…いや、何十分ぶりの日光だろうか。

取り敢えず、来た道を戻りながら街を探す事にする。

もうこの墓場に来ることは無いだろう…奴隷達の解放をする時以外は…

監視が居なくなれば、奴隷達だけでもしっかりと生きていけるだろう。

監視達が独占していた飲食物も、衣服も、部屋も、全てあそこにいた奴隷達のものだからな。

しばらく顔を出さなくてもいけるだろう。

さて…今度こそ、勇者になるための旅が始ま…

「…あ!」

「ど、どうしたの?」

「クルドーの部屋から金奪ってくるの忘れた…」

俺とアズサの一文無しの旅が、今始まった。


              奴隷の墓場編 完

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