第6話 前世は天国 現世は地獄
アズサと名乗った青年は、穴を掘る作業を続けながら、俺に
その話は、どれもがにわかに信じ難く、また、胸糞の悪い話だった。
「
それが今では、文字通り奴隷達が死にたえ、それを葬り去る墓場と化しているんだ」
「…へぇ」
手を止めたら怒られるので、穴を掘る手を止めることなく、アズサの話に耳を傾ける。
「売り場と言っても、ここに買い手が来るわけではないんだ。
月に一度、各サイトから数名の奴隷が選ばれて、
買い手も当たり外れがあって、人肌を欲して奴隷を買う者もいれば、道具として買う者もいる。
奴隷を欲する人間は多くいるから、まず墓場に帰ってくることはないけど、帰ってきたが最後、外部要因では2度と外に出ることはできなくなるんだ。
奴隷が選ばれる基準は詳しく分かってないけど、傾向としては、クルドーに嫌われてる奴や、働き者の真面目な奴が選ばれやすいって噂は流れてるよ。
あと、一部だけど脱走を考える奴が出たら、クルドーの手下達…
…なるほど。
どうしよう。
俺多分クルドーのお気に入りなんだけど…
脱走するって手もあるけど、レベルアップが難しい今では、あまり現実的な案ではないだろう。
それに、体力も少ないし、スキルも
「…話しにくかったら別に話さなくていいけど、アズサはなんで奴隷になったんだ?
それだけ顔が整ってたら、手段を選ばなければ、奴隷に落ちずとも金を稼げる方法はあったんじゃないか?」
「家の事情だよ。
僕は親に売り飛ばされたんだ」
10秒もかからないような、とてと短い回答が帰ってきただけなのに、俺はこれ以上、アズサの身の上話について深く踏み込む勇気は無かった。
金に困っていたなら、奴隷にせずとも他の職をさせておけば、たちまち金は稼げたはずだ。
なのにわざわざ、墓場に売り飛ばすという所業に、少なからず闇を感じてしまう。
何か言葉を返さないといけない。
そう思っても、何を言ってもアズサを傷つけてしまうのでは…という懸念から、喉から声を発することはできなかった。
「僕が売り飛ばされたのが…確か2歳ぐらいの時だったね。
それから13年、僕はここで奴隷労働を続けている。
親が売り飛ばしたのも、落ちこぼれでクルドーに嫌われているにも関わらず、競売にかけられないのも、きっと僕が落ちこぼれで、呪われた悪魔の子だからなんだ」
「……呪われた悪魔子?」
「…僕の話はこれぐらいでいいよ。
それよりトウマはなんでここに?」
呪われた子という言葉が気になり、俺はそれについて聞こうとしたが、アズサは無理矢理話を変えてきた。
本当はもっと話を聞いていたかったが、アズサにだけ話させるのも悪いと感じ、俺があの洞窟に転生してから、先ほどクルドーに
すると、アズサは慌てた様子で辺りを見回す。
そして、何かを確認して一息ついた後、急に声を押し殺しながら俺に話しかける。
「トウマってスキル持ちだったの!?
…取り敢えず、この事は絶対に秘密にしておくんだよ」
「え、どうしてだよ。
俺と一緒に転生した奴もスキルを…」
「スキルを持っている者はこの世界では希少なんだ。
もしスキル持ちが奴隷になったら、良いようにこき使われるだけ使われて、いらなくなったらポイ捨てされるだけの、普通の奴隷よりも酷い扱いをされるんだ」
…なるほど…
先程のクルドーの笑みの意味を完全に理解した。
スキルを持っているのはごく一部の人間だけで、そいつらが奴隷に落ちたら、こき使われた後は捨てられるだけの運命が待っていると。
これは…ちょいとやばいな。
クルドーは多分、意地でも俺をここから出さないつもりだな。
俺だって多分そうする。
若い男…しかも数少ないスキル持ちである可能性がある奴隷は、まず間違いなく手の届くところで管理をするだろう。
「特にクルドーなんか、スキル持ちとわかった奴をお気に入りと称しては、様々な無茶な要求をするんだ。
もし抵抗すれば、競売には出さないという脅し付きでね。
しかもどうやら、クルドーもスキル持ちで、あいつがつける紋章は、他の紋章とは一線を画すらしいんだ。
これについても、詳しくはわかっていないんだ」
「なるほどね」
話しながらとはいえ、ずっと素手で掘り続けていた穴は、いつの間にか人1人を埋めるには充分な大きさと深さを要する穴となった。
そして、俺達の近くで同じ労働をしていた奴が、何かを叫び、アズサへと合図を送る。
それを確認したアズサは、その穴に向かって、穴を横に広げるように掘り始める。
そして2つの穴が繋がった時、大きなため池を作れるぐらいの面積と深さを持つ、巨大な穴が完成した。
穴を繋げてこちらに戻ってきたアズサに、俺は単純な疑問をぶつける。
「ところで、この穴って一体何に使うんだ?」
「…すぐにわかるよ。
最初のうちは慣れないかもしれないけど、すぐに慣れることになる。
これからこの穴を使って、監視たちのお遊びと、死んだ奴隷の処理が始まるんだ」
その言葉の意味を理解しようと、余裕のある領域の思考を巡らすも、ついには理解できなかった。
…いや、理解するより早く、その言葉の意味を理解せざるを得ない事が起こり始めたからだ。
「お前らぁ!
巻き込まれたいやつだけ穴の近くにいろ!
それ以外の奴らは、他の持ち場へとつけぇ!」
そういうや否や、大声を張り上げた主は、何かを穴の中へと放り込み始める。
放り込まれているものの正体を知った俺は
「…おいおい…まじかよ…」
と、自然と漏れていた。
ゴミと一緒に、死体となった奴隷が放り込まれている。
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「それが今では、文字通り奴隷達が死にたえ、それを葬り去る墓場と化しているんだ」
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先ほどのアズサの言葉は、比喩でもなんでもなく、本当に言葉通りの意味だった。
俺達が今までやっていたことは、死んだ奴隷を葬り去る為の墓場作りだったのか。
次々と捨てられていく
「トウマ…早く次の労働場所へと行こう。
じゃ無いと、僕たちも地獄へと誘われる事になる」
アズサに引っ張られる形で、俺達は次の持ち場へと向かう。
アズサの異常な急ぎ様と発した言葉に、違和感を覚えるが、それを聞く暇もないほど、急いでその場を離れるのであった。
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