第4話 奴隷の墓場と墓守のオッサン

俺達は、ジャーク達と共に洞窟から外に出る。

もちろん、この行動にも自分の意思は一切存在しない。

何故自分の意思ではない行動を取り続けているのか。

答えは簡単シンプルだ。

奴隷俺達主人ジャーク達の命令に背くことができないからだ。

幼い子供が親に逆らえないように、俺達奴隷もまた、主人であるジャーク達には逆らえない。

違う点があるとすれば、逆らった先に

命令に背く事は物理的には可能だが、主人側だけが持つ【罪と罰クライム&パニッシュメント】が自動発動する。

罪と罰クライム&パニッシュメントの発動によって、罪を犯した奴隷には罰が課される。

オーソドックスなのは全身をあの苦痛が駆け回る罰だ。

罰は罪の原因となったものが取り除かれるまでは課され続ける

…って、奴隷の説明に書いてあった。

まぁ、まともに読む暇なんて無かったので、しっかりとは読めていないが…

「さっさと歩けノロマ!」

俺の後ろで、理不尽に暴行を加えられる優樹さん。

並びとしては、ジャーク→俺→優樹さん→ジャークの手下の順である。

つまり優樹さんは、後ろから手下に暴行を加えられている。

しかも、奴隷は主人に危害を加えようとした瞬間にも、罰は課されるため、主人が横暴であればあるほど、奴隷は理不尽に耐えなければならないのだ。


先程まで真っ暗な場所にいた俺達は、急に現れた強い光に目を細め、徐々に目を慣らしていく。

出口の先に広がる光景は、見渡す限りの草原だ。

動物は活発に野を駆け回り、植物は気持ちよさそうに、日光を浴びている。

太陽は現在、空の真ん中辺りに位置しており、時間にすれば、正午辺りであると予想できる。

後ろを振り返れば、俺たちが出てきた場所の出口があり、先ほどまでいた場所が洞窟であったことを示している。

後ろを振り返っていられる時間は僅かだった為、優樹さんの様子を確認することはできなかった。

「お前ら奴隷が陽の光を浴びれるのは、洞窟を出てから奴隷の墓場スレイブヤードに移送されるまでの僅かな時間だけだからな!

感謝して陽の光を浴びておくんだな!」

洞窟を出てから少し経ったタイミングで、急に後ろから手下の声が聞こえてきた。

だが…手下の喋る言葉一つ一つが、漫画やアニメに出てくる小物のそれなのだ。

もし笑いでもすれば、罰を課されるのは明白だ。

なので、込み上がってくる笑いを必死に耐えながら、ジャークの後ろを続いて歩く。

自分の意思と反して行動するということは苦痛で、しかもそれが、無理やり動かされているわけではないのだからさらに苦痛だ。

先ほどから“自分の意志がない”、と言ってはいるものの、命令に背き続けるも、大人しく従うも奴隷の自由だ。

つまり、ある程度自分の意思で今の行動を取ってる訳なのだが、これが自分の意思であると、俺は断じて認めない。

自分の意思で動いているとはいえ、誰かの命令を実行するだけであれば、それはもはや機械なのだから。


先ほどの順番から変わらず、広大な草原を歩いてゆく道中、俺はふと気になったことを聞いてみた。

「…なぁジャークさんよ、奴隷の墓場スレイブ・ヤードってのは一体なんなんだ?」

「私がわざわざ話さずとも、着けばすぐに、己の運の無さに絶望する事になる。

そのような場所だ。

そう遠くないところに一つ。

さらに奥に一つある」

後ろの手下と違い、ジャークは最低限会話を交わしてくれる。

勿論、変なことを聞けばすぐに罰を課されるので、俺は慎重に言葉を選んで話しかける。

しかし、会話ができるかどうかで、心の持ち様は大きく変わってくるので、実は結構ありがたい。

会話は勿論自分の意思で行っている。

「…それではグラス、そっちの奴隷は頼んだぞ」

「わかりました!

…さっさと歩けって言っただろ!…」

急に立ち止まったかと思えば、手下…グラスに向かって何やら話しかける。

そしてそれを了承したグラスは、優樹さんを連れて奥へと歩き出す。

「……俺達はあっちじゃないのか?」

「奴隷の数はどれだけあってもいいが、一つの墓場が多くの奴隷を占領するのも良くないからな。

奴には別の墓場へと行ってもらう。

扱いはどこも変わらぬから安心するとい」

『スキル【超集中ちょうしゅうちゅう】が、【極限集中きょくげんしゅうちゅう】に進化しました…』

ジャークが話終わるちょっと前に、あの機械音声がまた聞こえてきた。

どうやら持っていた超集中というスキルが進化したらしいんだが…まぁ、今は関係ないだろう。

スキルの進化を心の中で喜んでいると、急に空が暗くなり出した。

まだ機械音声が聞こえているが、そちらに意識を持って行かれたので、まともにその声を聞くことはできなかった。

遠くから風で流れてきてかのように、分厚い黒雲が日光を遮り、先程までのポカポカとした陽気は消え失せ、肌を切り裂くような冷たい風が音を立てて吹き荒れる。

何か声をかけるでもなく、ジャークは歩き出し、俺はそれに続いて歩き出す。

ジャークが無言で動き出した理由は、すぐにわかることになった。

歩みを進めるに連れて、うめき声のようなものや、悲鳴のような甲高い声がそこら中から聞こえてきだした。

そして、その全貌を明かし始める奴隷の墓場。

目の前に聳え立つ大きな建物は、さながら脱獄不可能な監獄のように見える。

それを囲む大きな柵と、鉄門。

鉄門の側に控えるのは完全武装の男が2人と、現実世界では見たことがないようなデカさの犬が2匹いる。

今は寝ているが、時折聞こえてくる声や物音に反応して、耳がピクピクと動いている。

多分だが、声を出さなかったのはこの犬を起こさないようにするためだろう。

…もしかしたら、先ほどの呻き声を聞かせて、俺をビビらせるつもりだったのかもしれないが。

ジャークと俺の姿を確認した門番の1人が、鉄門を重々しく開け放つ。

同時に発生した、耳をつんざくような軋み音で2匹の犬は起き、今にも飛びかかりそうな勢いで吠え始める。

ワンワン!ワオーン!何者だ!余所者は立ち入るな!

万能言語の権能ってすげぇ。

動物の言葉も聞き取れるのかよ。

「さぁ入れ。

買い手が見つからぬ限りは、もう二度と出てくることは無いだろう」

俺を門の中へと入れた後、続いてジャークも入ってくる。

ジャークは

「これから、この墓場の主に貴様の所有権を譲渡する。

それを終えれば、貴様の主人は私ではなくなる。

以後は墓場の主とその手下達の命令に従え」

と、俺の方には目をくれず、奴隷達の悲鳴を聞いては、ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべている。

その笑みの意味を今理解することは出来なかったが…それより、18の若造にこの仕打ちはひどく無いか?

未来ある若者を奴隷にするなんて、趣味が悪いな。

と思いつつも、そんなこと口に出せば多分命はないので、心の中に厳重にしまっておく。

先ほどと変わって、俺が前でジャークが後ろという並びで進んでいく。

中に入った瞬間から、悲鳴が大きく聞こえるようになったので、多分だが、ここ一体に魔法か何かがかけられているのだろう。

魔法があるかは知らんけど。

道なき道を暫く歩き、ボロボロの建物の中に入り、奥の方にある部屋の前へと辿り着く。

その部屋に入るための扉は、とても豪華な造りをしており、周りと比べれば異様なほど浮いている。

「クルドー様。

新たな奴隷を確保しましたので、所有権の譲渡を行いに参りました」

「…入りなさぁい」

ジャークの言葉に対して返ってきた声は、男の声だった。

しかし、男にしては少し高く、とてもねっとりした声質をしていた。

「失礼します」と、ジャークが扉を開けて、中に入る様に促される。

扉を開けた瞬間に、鼻を貫くような刺激の強い香水の臭いが俺を襲う。

そして、この墓場の主であろう小太りの中年親父が、俺の視界に現れる。

しかも頭のてっぺんは禿げている。

「初めまして奴隷クン。

あてくしは、この“奴隷の墓場スレイブ・ヤード サイト3スリー”の墓守マスター、クルドーよぉ〜」

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