第3話 職業【奴隷】

「なるほど、こうやってスキルを確認するのか」

「………よし…あ、はい、そうです、そこから右にスワイプしたら画面ウィンドゥが切り替わる筈です」

異世界転生をしたと結論づけてから1時間ぐらいが経過した。

俺達は辺りの散策とステータスの確認という、2つのことに取り組んだ。

まず辺りの散策だが、それは10分…いや、5分もかからなかった。

何故なら…

「燈護くん、僕達が転生して降り立った場所、どうやらあまり良くないようだよ」

優樹さんは目の前にあるソレを指差す。

「見てみたまえ、先に進める唯一の出口であろう場所は、鉄格子で塞がれている。

薄暗いのも、ここに光源が設置されていないことに原因があると思う」

そう。

俺達は閉じ込められていた。

ただでさえ薄暗いこの空間は、見通しも悪く、鉄格子の先に目を凝らしても、近くの道しか見えないのだ。

鉄格子はしっかりとした作りでできており、脆くなっている部分は見当たらなかった。

出入りをするであろう扉は、南京錠で閉ざされている。

脱出を試みたものの、結局ここから出る事は叶わずに、今もここにとどまっている。

そして、ステータスの確認を今行っているところだ。

自分の情報が載っているこの画面を、俺達は【基本画面メニューウィンドゥ】と呼ぶことにした。

基本画面についてわかっている事は、


①載っている情報は

名前Name

レベルLevel

基本ステータスStatus

スキルSkills

の四つであり、基本画面をスワイプして画面を切り替える事で、他の情報も確認できる。


②名前とレベル以外の情報は、他人は確認できない。


③画面に表示されている単語や言葉をタップすれば、新たな画面が開け、その単語や言葉に関する説明などを確認できる。


という三つだ。

他にもまだ謎が隠されているかもしれないが、今現在判明しているのはこれだけである。

「僕は一通り自分のスキルやアビリティを確認し終わったけど、燈護くんはどうだい?」

「……俺も終わりました。

取り敢えずお互いの情報交換でも」

俺が言葉を続けて発そうとした時、急に優樹さんが、自分の唇に人差し指を当て、静かにするよう促してきた。

一瞬反応が遅れたが、喉元まで出てきた言葉をなんとか飲み込んで、声を出すという事態は避けることができたが、急にどうしたのだろうか。

「続きの話は後だ。

誰かがこちらに近づいて来ている」

押し殺した声が俺の耳へと届く。

誰かが来たというのなら、声を出して助けて貰えばいいじゃないか。

それを伝えようとしたが、言葉が口から出てくるより先に足音が聞こえて来た。

恐る恐る鉄格子から先を覗いてみると、ぼんやりと暖かい光が見えている。

足音が大きくなるにつれて、その光はより鮮明に見えて来て、ついには松明光の発生源を持った2人の男が鉄格子の目の前に立つ。

「#%*€£$¥&@!&;;&^•=$<?」

「&)@€$*€•=+^<>€$’☆」

何語かも分からない言語で、彼等は会話を交わした後、南京錠を外して扉を開けた。

俺は2人に見えるよう姿を現し、感謝を述べようとした。

せめて何話してるか分かると助かるんだけどなぁ…

「どうもあり」ドンッ!

しかし、全て言い終わる前に、俺は衝撃音と共に地面に仰向けで倒れていた。

思いっきり、顔面を殴りつけられたのだ。

怪我こそしていないが、殴られた箇所はヒリヒリと痛む。

『スキル【万能言語ばんのうげんご】を獲得しました。

続いて、【情報秘匿“絶”じょうほうひとく・ぜつ】が、【情報秘匿“極”《じょうほうひとく・きわみ》】に進化しました』

「%#€**€£^ぜいが汚らしい手で俺に触るな!」

脳に直接語りかけてくるような機械音声が聞こえた直後、俺を殴って来た奴がまた何かを喋り始めた。

しかし、先ほどと違う点は、途中から何を喋っているかが理解できたという点だ。

…てか、汚らしいって酷すぎだろ!

「汚らしいってなん」

「貴様のような奴隷に喋る権利は無いわ!」

反論しようとしたら、今度は腹をぶん殴られた。

立っていた時間、3秒も無かったと思う。

「ジャークさん、さっさとこいつらに紋章クレストつけて連れていきましょう」

「そうだな、此奴らのような奴隷と同じ空気を吸ってるだけで、吐き気を催す」

ジャークと呼ばれた男は、懐から懐中電灯サイズの円筒状の何かを取り出して、それを俺の背中に押し当てようとしてくる。

「おい!何すんだ!」

「黙ってろ!」

抵抗しようとするが、もう1人の男が俺を組み伏せて、まともな抵抗でき無い状態で、うつ伏せにされてしまう。

そして、ジャークは着ていたワイシャツを引き裂き、手に持った円筒状の何かを押し当てる。

直後、

「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

職業しょくぎょうを奴隷に更新。

職業効果によるデバフを付与します。

同時にステータス値・スキル等に制限ロックがかかります』

耐え難い高熱と痺れを身体全身に感じて、俺は悲鳴にならない悲鳴をあげる。

10秒ほど経ち、筒が体から離れると共に、その苦痛から解放される。

脳内で声がまた響いているが、それを聞く余裕なんて無かったのだ。

「これで貴様は正真正銘、奴隷となった訳だ。

これから、買い手が付くまでの期間は、奴隷として働いてもらう」

はぁ?奴隷だ?

何を言ってやがるんだこいつらは。

頭に疑問符を浮かべながら、俺は画面を開く。

すると、先ほどまで何も書かれていなかったレベルの横の空間に、[職業Jobと書かれていた。

「まじかよ…」

自然と溢れた声を掻き消すように、悲鳴にならない悲鳴が聞こえてくる。

この声の主は…間違いない。

優樹さんだ。

目の前にジャークがいるので、優樹さんに筒を押し当てているのは、手下のようだ。

「私について来い。

貴様等にはこれから、奴隷の墓場スレイブ・ヤードへと来てもらう」

優樹さんの悲鳴が収まってすぐに、ジャークは俺たちに向かって奴隷の墓場スレイブ・ヤードとやらに連れて行くと告げる。

「…いつまで寝ているつもりだ。

“さっさと立て”」

お前らが暴行を加えた挙句、その筒を押し当てた結果だろ!?

と文句を言いたかったが、それは叶わなかった。

瞬間的に、先程の苦痛が全身を駆け回る。

「命令をこなさない限りは延々と罰は続くぞ?」

俺はこの瞬間、自分が置かれた環境を理解した。

声にならない悲鳴をあげながらも、俺はやっとの思いで立ち上がる。

本当は瞬間的に立ちあがろうとしたが、苦痛が酷く、その苦痛の中で体を動かすのは容易では無かったのだ。

これ開発した奴…絶対サディストだろ…

命令通りに身体を起こしていくと、苦痛はみるみるうちに和らいでいき、完全に起立すると同時に一切感じなくなった。

「…俺の異世界転生…失敗した…」

だれにも聞こえないような小声でそう呟くのだった。

———————————————————————

【基本画面1/3】


名前Name]叢雲燈護 [職業Job]奴隷

レベルLevel]1

基本ステータスStatus

HP体力:100

AT攻撃力:1

DF防御力:150

AG素早さ:50

※スキルによるステータス補正込

スキルSkills

?? ?? ??? 情報秘匿“極” ????

?? ???? 万能言語 

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