第2話 夢に見た異世界転生

「いってて…って、ここは?」

違和感を覚えながら目を覚ました俺は、ひとまず辺りを見回してみた。

ここが天国という所なのか?

にしては少し、陰鬱だし、汚らしく無いか?

ジメジメとした薄暗いこの場所は、どちらかといえば地獄よりな気が…

「いたた…あれ、ここは?」

急に声がした方に目線を向ければ、俺より3〜4歳ぐらい歳上の見た目をした人がいる。

警戒するほどでもないだろう。

急に声がして、驚いて早く脈打つを落ち着かせながら

「貴方は誰?」

と、声をかけようとしたが、それよりも早く相手が話しかけてきた。

「失礼、君は確か先程まで僕と一緒にコンビニに居た子だよね?

ここがどこか、なんでここにいるのかを教えて欲しいんだが…」

…ん?

なんでこの人俺と会った事ある程…しかもついさっきの事のように話しているんだ?

コンビニの店員はこんなに美形じゃなかったはずだ。

…てか俺より絶対顔いいぞこの人。

「え、ここがどこかは俺も知らないんですけど…というより、なぜ貴方は俺と会った事があるかのように話しているんですか?」

「やだなぁ、君が1人で元気を出しているのを見ていたら、急に君が謝ってきたんじゃないか。

まさか、さっきの事故で記憶が飛んでいるのかい?

まぁ、無理もないか」

…ますます意味がわからん。

まぁ、事故にあったならあれだけの衝撃受けたり、宙に舞ったり、あの荷物の散らかりようも納得できる。

しかし、事故の方は腑に落ちたが、他はさっぱり分からん。

確かに1人で盛り上がっていたけど、それを見ていたのは目の前にいるようなイケメンじゃ無く、社会に絶望しきったオッサンだった筈だ。

「いやいや、貴方何を言ってるんですか?

僕が謝ったのは近くに居た中年男性で…」

「だから、僕がその中年男性だよ…って中年男性って失礼だな君は」

…は?

いやいや、冗談はよして欲しい。

「ちょっと待ってください。

俺で遊ぶのもいい加減にして下さい。

中年男性というなら、そこの水たまりで顔でも確認してみたらどうです?」

失礼だと言われたにも関わらず、また俺は彼のことを中年男性呼ばわりしてしまう。

でも、仕方ない。

人は第一印象でその人の印象の大半が決まるっていうし。

さて、話はこの場所のことに戻る。

そこらかしこで水が滴っている。

この場所がジメジメとしているのは、この水滴が原因だろう。

そして、窪んだところには滴った水が溜まっており、少し大きな水溜りを形作っている。

薄暗いここでは、水溜りを覗き込めば自分の姿を見る事は容易だろう。

「別に構わないが…ん?…んん!?

…ええぇぇぇーー!!?」

ちょ、急に大声出さないでくれよ!?

反射的に耳を塞いだ事で、なんとか耳鳴りが鳴るという事態は避けれたが、塞いでなかったら、暫く耳は使い物にならなくなっていただろう。

「ど、どうして僕が若返っているんだ…?」

「若返る?

ということは本当に…貴方が先程の中年男性なのですか?」

「また中年って…もういい。

さて、どうやら私が先程の男だと信じてくれたようだね。

…でも今はそれどころじゃないんだよ。

なんで水溜まりの向こうに昔の僕が…」

「いや、目の前にいる貴方と同じ顔してるんですけどね…ところで、俺だと分かったということは、俺は何も変わっていないということですか?」

「そうだね。

さっき見た記憶と合致するし、何も変わってないと思うよ」

「分かりました…そういえば、お名前はなんというんですか?

俺は叢雲燈護です」

「僕は千葉優樹ちばゆうき

こう見えても52歳だ。

この姿の時は大体…そうだね、30手前ぐらいだったかな?」

さ、30?

とてもそうは見えない若々しさだ。

俺もこんな歳の取り方できないかなぁ…あ、でもこの後イケオジとはかけ離れた姿になるし、やっぱダメだな。

だって、さっきのあの人…60近くまで老け込んでた顔してたし。

「…今なんか失礼なこと考えてなかった?」

「そんなことは無いです」

「…まぁ良い。

さて、ここがどこなのかだけど…ここは死後の世界なのかな?

あんな事故に巻き込まれたんだ。

生きてるなんてまずあり得ないだろうね」

死んだという事実が重くのしかかり、また心臓が強く脈打ち始める。

…ん?

…心臓が…脈打つ?

…おかしい。

それが当たり前だったから今まで気づかなかったが、なんで死んだ筈の俺の心臓が動いているんだ?

「ちょっと待ってくださいよ千葉さん」

「優樹でいいよ。

それで、どうしたんだい?」

「いや、おかしくないですか?

俺たちは死んだはずなのに、心臓が動いているんですよ」

「…確かに、死んだはずなのになぜ僕達の心臓は動いているんだい?」

んですよ。

俺達は」

考えられる仮説は二つ。

一つは死後の世界では、今までと同じように自分に宿る心臓が動いているという説。

もう一つは…今言った通り、俺たちが生きているという説だ。

そしてこの見慣れない世界…つまり俺達は

「どうやら異世界に転生したっぽいですよ」

をしたという事だ。

「…なるほどね。

転生して日本と違う場所に来たのなら、心臓が脈打っているのもおかしくないだろう。

なんせ生まれ変わったわけだしね」

…夢じゃないよな?

俺、今まで小説や漫画やアニメで見てきた、あの異世界転生をしたのか?

やったぁー!!

って事は…

「…本当に出た…」

右手の親指と人差し指と中指を動かして、漫画などで見たような画面ウィンドゥが出てくるか試してみた。

すると、の画面が出てきて、しかも、これまた自分が、自分の名前の下に自分のレベルが表示されている。

その下にはHPやAT、DFといったステータスがあり、その下に今の所持スキルが表示されている。

ちなみに所持金も表示されているが、勿論そこは0になっている。

「…優樹さん。

どうやら俺達は、人生の勝者になれたようですよ」

「車に轢かれた時点で、ある程度敗者側に寄ってる気もするけどね」

苦笑する優樹さんをよそに、俺はここから始まる新たな自分の物語に心を躍らせる。

車に轢かれて死んだと思った俺は、神(信じてないけど)が起こした奇跡によって、運良く異世界転生する事に成功したようだ。

一文無しだけど…

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